偽聖女と蔑まれた私、実は【魔力鑑定EX】の持ち主でした~追放先で出会った無愛想な公爵様に見初められ、今更帰ってきて言われてももう遅いです

放浪人

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第26話:氷の公爵様、ヤキモチを焼く

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平穏な日々が続く中、一つ、小さな問題が起きていた。
いや、問題というほどではないのだけれど、少しだけ、私の頭を悩ませる事案。
それは、王国から割譲された、北の土地の引き継ぎに関してだった。

その実務責任者として、王都から、一人の若い貴族が派遣されてきたのだ。
彼の名前は、ジュリアン・マーカス子爵。
明るい茶色の髪を爽やかに揺らし、いつもにこやかで、人当たりが良く、そして、仕事も驚くほどできる、有能な文官だった。

「いやあ、アリア様! あなた様の魔力鑑定の知識は、本当に素晴らしいですね! この煩雑な土地台帳も、あなた様のアドバイスのおかげで、すぐに整理できそうです!」

ジュリアン様は、私の力を素直に称賛し、何かと私に助言を求めてきた。
私も、彼の謙虚で実直な姿勢に好感を持ち、領地経営について、様々な意見を交わすのが、少し楽しくなっていた。

「こちらの川沿いの土地は、水属性の魔力が非常に豊富ですから、回復薬の原料となる希少な薬草を育てるのに、きっと向いていますわ」
「なるほど! それは素晴らしいご意見だ! さすがは未来の公爵夫人様、慧眼でいらっしゃる!」

二人で、大きな地図をテーブルに広げて、熱心に話し込んでいると。

「――……何をしている」

背後から、地を這うような、そして、絶対零度の、低い声がした。
振り返ると、そこには、氷点下のオーラを、その身からもうもうと立ち上らせた、カイが立っていた。

「か、カイ! ジュリアン様と、新しい領地の活用について、話し合って……」

「ほう。随分と、***楽しそう***だな」

目が、全く、笑っていない。
というか、その美しい青い瞳の奥で、猛吹雪がゴーゴーと吹き荒れているのが、私の【魔力鑑定EX】には、はっきりと視える。

(こ、これは……もしや……もしや、ですわね……!?)

「これはこれは、ヴォルフガング公爵様。ご挨拶が遅れました。私、王国から派遣されました、ジュリアン・マーカスと申します。アリア様には、公私にわたり、大変、お世話になっておりまして……」

ジュリアン様が、爽やかな笑顔で挨拶をするが、カイは、彼を一瞥しただけだった。

「……アリアは、俺の婚約者だ。あまり、馴れ馴れしくするな」

言った! はっきり言った!
しかも、「公私にわたり」というジュリアン様の冗談に、本気で反応している!

ジュリアン様は、一瞬、きょとんとしていたが、すぐに状況を察したらしい。
その顔に、面白いものを見つけた子供のような、悪戯っぽい笑みが浮かんだ。

「これは、大変失礼いたしました。いやはや、アリア様があまりにも聡明で、そして、お美しく、魅力的な方でいらっしゃるので、つい、時間を忘れて夢中になってしまいました。公爵様が、羨ましい限りですな」

彼の、少しからかうような口調に、カイの眉が、ぴくり、と動く。
青い魔力のオーラが、さらに、さらに、冷たさを増した気がする。部屋の温度が、確実に数度下がった。

「アリア。こいつとの話は、もういいだろう。お前には、もっと***大事な仕事***がある」

そう言って、カイは、私の腕をぐい、と掴むと、呆然とするジュリアン様を尻目に、有無を言わさず、その場から私を連れ去ってしまった。

「か、カイ!? どちらへ!?」

「……俺の、執務室だ」

執務室に着くなり、カイは、私を、自分の大きな椅子に、ぽすりと座らせた。
そして、私を椅子ごと、その逞しい腕の中に閉じ込めるように、椅子の両側の肘掛けに、ドン、と両手をつく。
いわゆる、巷で噂の、椅子ドン、というやつだ。

「……カイ……?」

「……気に入らない」

彼は、子供が拗ねたように、唇を尖らせて言った。

「お前が、俺以外の男と、あんなに親しげに話しているのは、気に入らない。お前が、俺以外の男に、あんなに綺麗な笑顔を向けるのも、気に入らない」

その、あからさまな、ヤキモチ。
呆れるのを通り越して、なんだか、可愛くて、愛おしくて、仕方がなくなってしまう。

「ふふっ……あははっ!」
思わず、声に出して笑ってしまった。

「な、何がおかしい」

「いえ。カイが、そんな風に、私のことで、ヤキモチを焼いてくださるのが、とても、嬉しいな、と思いまして」

私が、素直な気持ちを伝えると、彼は、一瞬、虚を突かれたような顔をした。
そして、その整った顔が、みるみるうちに、首筋まで、真っ赤に染まっていく。

「……っ、馬鹿者」

彼は、照れ隠しのように、私の唇を、自分のそれで、乱暴に塞いだ。
少しだけ、強引で、でも、彼の独占欲が、いっぱいに、いっぱいに詰まった、甘くて、熱い口づけ。

「……お前は、俺だけのものだ。絶対に、誰にも渡さん」

口づけの後、彼は、私の額に、自分の額を、こつん、と押し付けて、そう、低い声で囁いた。

その、甘くて、少し束縛の強い言葉が、私の心を、どうしようもなく、幸せで満たしていく。
この、氷の公爵様が、私にだけ見せる、熱い独占欲。
それもまた、私が、心の底から愛してやまない、彼の大切な一面なのだった。
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