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第五話 悪役顔、誤解される→即、守られる
「レティシア、今日は天気がいい。少し街へ出ないか?」
午後のお茶会(本日三回目)を楽しんでいた私に、執務を終えたクロード様が声をかけてきた。 普段は執務室に籠もりきりの「氷の公爵」が、まさか自分から外出を提案してくるとは。
「街へ、ですか? それは構いませんけれど……」
私は少し言葉を濁し、カップをソーサーに戻した。 正直に言えば、あまり気乗りがしなかった。 理由は単純だ。 私の「顔」と「評判」のせいである。
切れ長の目、意志の強そうな眉、冷たい印象を与える整った顔立ち。 黙っているだけで「何か企んでいるのでは?」と勘繰られ、微笑めば「不敵な笑み」と恐れられる。 それが私、レティシア・ヴァルモンという女だ。
そのうえ、先日の婚約破棄騒動で「悪役令嬢」としての知名度は王都中に知れ渡ってしまっている。 そんな私が街を歩けば、どうなるか。 石を投げられることはないにしても、白い目で見られることは確実だ。
「……私の隣を歩くと、クロード様の評判まで下がってしまいますよ?」
私が自虐的に言うと、クロード様は眉をひそめた。
「私の評判など、これ以上あがりようがないほど固定されているから問題ない。それに、君には新しいドレスが必要だ」
「え? クローゼットに一生分くらいのドレスが入っていましたけど?」
「あれは部屋着だ。外出用の、私の隣に立つためのドレスを仕立てたい」
有無を言わせぬ口調だった。 どうやら、この公爵様の「甘やかしプラン」には、ショッピングデートも含まれているらしい。 断れば、また「私の管理能力不足か?」と悲しげな(無表情だけど)顔をされるに違いない。
「……分かりました。お供いたします」
私が承諾すると、クロード様は満足げに頷き、スマートに右手を差し出した。
◇
王都のメインストリートは、多くの人々で賑わっていた。 石畳の道を行き交う馬車、呼び込みをする露店の店主、楽しそうに笑い合う恋人たち。
そんな平和な光景が、私たちが馬車から降りた瞬間に一変した。
「……おい、あれ」 「ヴァルモン公爵令嬢じゃないか?」 「例の悪役令嬢よ。王太子殿下をいじめていたっていう……」 「隣にいるのはアルヴァレス公爵だぞ。なぜあの二人が?」
ざわざわと波紋が広がるように、周囲の視線が集まる。 そして、誰もが私たちを避けるように道を空けていく。 まるで海を割るモーゼのようだ。
(……やっぱり、こうなるわよね)
私は扇子で口元を隠し、努めて平然とした顔で歩を進めた。 背筋を伸ばし、顎を引く。 弱みを見せれば、さらに噂が広まるだけだ。 こういう時こそ、堂々としていなければならない。それが「悪役令嬢」としての矜持だ。
けれど、胸の奥はずきりと痛んだ。 すれ違う人々が向ける視線には、明らかな「恐怖」と「嫌悪」が混じっている。 私はただ普通に歩いているだけなのに。
「……手」
不意に、隣を歩くクロード様が短く言った。
「え?」
「手を繋ごう。はぐれるといけない」
「はぐれるほど混雑していませんけれど……」
むしろ、私たちの周りだけ半径三メートルほどの無人地帯ができている。 しかしクロード様は私の反論を聞かず、私の手をぎゅっと握り締めた。 大きく、温かい手。 その温もりが、冷え切っていた私の指先を包み込む。
「顔を上げろ、レティシア。君は何も悪いことはしていない」
前を向いたまま、彼が小声で囁く。
「堂々としていればいい。君の隣には私がいる」
その言葉に、強張っていた肩の力が少しだけ抜けた。 そうだ、今の私は一人じゃない。 この最強の(そして少し変わった)公爵様が味方でいてくれるのだ。
◇
高級ブティックでの買い物を終え(クロード様が店ごと買い占めそうな勢いだったので、止めるのに苦労した)、私たちは少し裏通りにある公園で休憩することにした。 ここなら人通りも少なく、落ち着けるだろうという彼の配慮だ。
ベンチに座り、二人でジェラートを食べる。 冷たくて甘い味が、疲れた心に染み渡る。
「……意外です。クロード様がこういう場所をご存知だなんて」
「情報収集の一環だ。それに、ここのジェラートは果実の含有率が高く、栄養価的に優れている」
相変わらずの理屈っぽさに、私は思わず吹き出した。
「ふふっ、美味しいから好き、でいいじゃないですか」
「……善処する」
そんな穏やかな時間を過ごしていた時のことだ。
「うぇぇぇぇん!」
突然、子供の泣き声が聞こえてきた。 見ると、公園の入り口付近で、五歳くらいの男の子が一人で泣いている。 どうやら迷子のようだ。
「まあ、可哀想に……」
私は反射的に立ち上がった。 子供は好きだ。 王宮でも、ミレイユ様が子供たちに囲まれているのを、いつも遠くから羨ましく眺めていた。 今なら、私にも何かできるかもしれない。
私はハンカチを取り出し、男の子に近づいた。
「どうしたの? お母さんとはぐれちゃったの?」
私はできるだけ優しい声を出したつもりだった。 しゃがみ込み、目線を合わせる。
男の子が涙で濡れた顔を上げる。 そして、私の顔を見た瞬間――。
「ひぃっ!?」
男の子の表情が、悲しみから恐怖へと変わった。 顔色が青ざめ、後ずさりをする。
「ま、魔女だぁ……! いじわるな魔女がきたぁ!」
「……え?」
「食べられちゃう! ごめんなさい、いい子にしますぅぅぅ!」
男の子は火がついたように泣き叫び、私から逃げるように走り出そうとして転んだ。
私は凍りついたまま、差し出した手を空中で止めていた。 魔女。 いじわる。 食べられる。
子供の素直な言葉が、鋭いナイフのように心に突き刺さる。 やっぱり、ダメなのだ。 私がどれだけ笑っても、どれだけ優しくしようとしても、この顔がすべてを台無しにする。 「悪役令嬢」の仮面は、肌に張り付いてもう取れないのかもしれない。
(……慣れているはずなのに。どうしてこんなに、苦しいんだろう)
視界が滲みそうになった、その時。
ふわり、と。 温かな光が、男の子を包み込んだ。
「――泣くな、少年」
頭上から降ってきたのは、静かで、しかし不思議な安心感を与える声だった。
いつの間にか、クロード様が男の子の前に立っていた。 彼の手のひらから、蛍のような小さな光の粒が無数に舞い上がり、男の子の周りをキラキラと漂っている。
「うわぁ……きらきら……」
男の子が泣くのを忘れ、目を丸くして光を見つめる。 光魔法の応用だろうか。 怯えていた心が、急速に落ち着いていくのが分かった。
クロード様は膝をつき、男の子の目を見て言った。
「少年。君の目は節穴か?」
「……ふしあな?」
「そうだ。目の前にいる美しい女性を見て、魔女などと呼ぶとは。視力検査が必要だな」
クロード様は真顔で、とんでもないことを言い出した。 私は慌てて止めようとしたが、彼は止まらない。
「よく見ろ。この人は魔女ではない。困っている君を助けようとした、ただの優しいお姉さんだ」
「で、でも……お顔が、こわい……」
「それは君の思い込みだ。彼女の瞳を見てみろ。君を心配して、泣きそうになっているだろう?」
男の子が、恐る恐る私の方を見る。 私はどういう顔をしていいか分からず、困ったように眉を下げて微笑んだ。
「……ほんとだ。こわくない」
男の子がぽつりと呟く。
クロード様は満足げに頷くと、ポケットからキャンディを取り出した(いつの間に用意したのだろう)。
「これをやろう。彼女からの贈り物だ」
「ありがとう!」
男の子が笑顔でキャンディを受け取った時、遠くから「コラァ! どこ行ってたの!」と母親らしき女性が走ってきた。 母親は私たちを見て一瞬ぎょっとしたが、クロード様の身なりと、懐いている息子の様子を見て、何度も頭を下げて去っていった。
◇
再び静かになった公園で、私は呆然と立ち尽くしていた。
「……クロード様」
「何だ」
「あの、魔法……精神安定の術式ですよね? あんなふうに使うなんて……」
「子供を泣き止ませるには、理屈より視覚効果と魔力干渉が早い」
彼はこともなげに言うけれど、あれほどの精密な魔法制御を、一瞬で行うなんて普通ではない。 それも、ただ私を庇うためだけに。
「……ありがとうございます。私、子供に泣かれるのは慣れていたんですけど、今日は少しだけ……堪えました」
私が弱音を吐くと、クロード様は私の頬にそっと触れた。 その指先が、泣きそうになっていた私の涙腺を刺激する。
「レティシア。君は自分の顔立ちを気にしているようだが、それは大きな間違いだ」
「間違い、ですか?」
「ああ。君のその凛とした目も、通った鼻筋も、私にとっては最高に魅力的だ。媚びない美しさがある」
彼は私の目を真っ直ぐに見つめて断言した。
「それに、これからは君が誤解されて傷つく必要はない」
「……え?」
「君が誤解されるなら、私が解く。君が怖がられるなら、私が君の優しさを証明する。君が悲しむ原因になるものは、それが何であれ――私がすべて排除する」
排除する。 その言葉の響きは、少し過激で、けれどこの上なく頼もしかった。 まるで、私の周りに最強の守護結界が張られたような安心感。
「……クロード様、それは甘やかしすぎです」
「言ったはずだ。君が傷つく要因は排除すると。……さあ、帰ろう。シェフが新作のケーキを焼いて待っている」
クロード様は再び私の手を取り、エスコートした。 その手は、来る時よりもさらに強く、私の手を握り締めていた。
馬車に乗り込み、遠ざかる街の景色を眺めながら、私は胸の高鳴りを抑えることができなかった。 ただ守られるだけではない。 私のコンプレックスごと肯定し、盾になってくれる人。
「……好きになっちゃうかもしれません」
聞こえないほどの小声で呟くと、クロード様が「ん? 何か言ったか?」と耳を傾けてきた。
「なんでもありません! 早くケーキが食べたいと言っただけです!」
私は顔を赤くして誤魔化した。 まだ早い。 まだ、この甘い檻に完全に屈服するわけにはいかないのだ。 ……まあ、陥落まで時間の問題という気もするけれど。
こうして、初めてのデート(?)は、私の完敗で幕を閉じたのだった。
午後のお茶会(本日三回目)を楽しんでいた私に、執務を終えたクロード様が声をかけてきた。 普段は執務室に籠もりきりの「氷の公爵」が、まさか自分から外出を提案してくるとは。
「街へ、ですか? それは構いませんけれど……」
私は少し言葉を濁し、カップをソーサーに戻した。 正直に言えば、あまり気乗りがしなかった。 理由は単純だ。 私の「顔」と「評判」のせいである。
切れ長の目、意志の強そうな眉、冷たい印象を与える整った顔立ち。 黙っているだけで「何か企んでいるのでは?」と勘繰られ、微笑めば「不敵な笑み」と恐れられる。 それが私、レティシア・ヴァルモンという女だ。
そのうえ、先日の婚約破棄騒動で「悪役令嬢」としての知名度は王都中に知れ渡ってしまっている。 そんな私が街を歩けば、どうなるか。 石を投げられることはないにしても、白い目で見られることは確実だ。
「……私の隣を歩くと、クロード様の評判まで下がってしまいますよ?」
私が自虐的に言うと、クロード様は眉をひそめた。
「私の評判など、これ以上あがりようがないほど固定されているから問題ない。それに、君には新しいドレスが必要だ」
「え? クローゼットに一生分くらいのドレスが入っていましたけど?」
「あれは部屋着だ。外出用の、私の隣に立つためのドレスを仕立てたい」
有無を言わせぬ口調だった。 どうやら、この公爵様の「甘やかしプラン」には、ショッピングデートも含まれているらしい。 断れば、また「私の管理能力不足か?」と悲しげな(無表情だけど)顔をされるに違いない。
「……分かりました。お供いたします」
私が承諾すると、クロード様は満足げに頷き、スマートに右手を差し出した。
◇
王都のメインストリートは、多くの人々で賑わっていた。 石畳の道を行き交う馬車、呼び込みをする露店の店主、楽しそうに笑い合う恋人たち。
そんな平和な光景が、私たちが馬車から降りた瞬間に一変した。
「……おい、あれ」 「ヴァルモン公爵令嬢じゃないか?」 「例の悪役令嬢よ。王太子殿下をいじめていたっていう……」 「隣にいるのはアルヴァレス公爵だぞ。なぜあの二人が?」
ざわざわと波紋が広がるように、周囲の視線が集まる。 そして、誰もが私たちを避けるように道を空けていく。 まるで海を割るモーゼのようだ。
(……やっぱり、こうなるわよね)
私は扇子で口元を隠し、努めて平然とした顔で歩を進めた。 背筋を伸ばし、顎を引く。 弱みを見せれば、さらに噂が広まるだけだ。 こういう時こそ、堂々としていなければならない。それが「悪役令嬢」としての矜持だ。
けれど、胸の奥はずきりと痛んだ。 すれ違う人々が向ける視線には、明らかな「恐怖」と「嫌悪」が混じっている。 私はただ普通に歩いているだけなのに。
「……手」
不意に、隣を歩くクロード様が短く言った。
「え?」
「手を繋ごう。はぐれるといけない」
「はぐれるほど混雑していませんけれど……」
むしろ、私たちの周りだけ半径三メートルほどの無人地帯ができている。 しかしクロード様は私の反論を聞かず、私の手をぎゅっと握り締めた。 大きく、温かい手。 その温もりが、冷え切っていた私の指先を包み込む。
「顔を上げろ、レティシア。君は何も悪いことはしていない」
前を向いたまま、彼が小声で囁く。
「堂々としていればいい。君の隣には私がいる」
その言葉に、強張っていた肩の力が少しだけ抜けた。 そうだ、今の私は一人じゃない。 この最強の(そして少し変わった)公爵様が味方でいてくれるのだ。
◇
高級ブティックでの買い物を終え(クロード様が店ごと買い占めそうな勢いだったので、止めるのに苦労した)、私たちは少し裏通りにある公園で休憩することにした。 ここなら人通りも少なく、落ち着けるだろうという彼の配慮だ。
ベンチに座り、二人でジェラートを食べる。 冷たくて甘い味が、疲れた心に染み渡る。
「……意外です。クロード様がこういう場所をご存知だなんて」
「情報収集の一環だ。それに、ここのジェラートは果実の含有率が高く、栄養価的に優れている」
相変わらずの理屈っぽさに、私は思わず吹き出した。
「ふふっ、美味しいから好き、でいいじゃないですか」
「……善処する」
そんな穏やかな時間を過ごしていた時のことだ。
「うぇぇぇぇん!」
突然、子供の泣き声が聞こえてきた。 見ると、公園の入り口付近で、五歳くらいの男の子が一人で泣いている。 どうやら迷子のようだ。
「まあ、可哀想に……」
私は反射的に立ち上がった。 子供は好きだ。 王宮でも、ミレイユ様が子供たちに囲まれているのを、いつも遠くから羨ましく眺めていた。 今なら、私にも何かできるかもしれない。
私はハンカチを取り出し、男の子に近づいた。
「どうしたの? お母さんとはぐれちゃったの?」
私はできるだけ優しい声を出したつもりだった。 しゃがみ込み、目線を合わせる。
男の子が涙で濡れた顔を上げる。 そして、私の顔を見た瞬間――。
「ひぃっ!?」
男の子の表情が、悲しみから恐怖へと変わった。 顔色が青ざめ、後ずさりをする。
「ま、魔女だぁ……! いじわるな魔女がきたぁ!」
「……え?」
「食べられちゃう! ごめんなさい、いい子にしますぅぅぅ!」
男の子は火がついたように泣き叫び、私から逃げるように走り出そうとして転んだ。
私は凍りついたまま、差し出した手を空中で止めていた。 魔女。 いじわる。 食べられる。
子供の素直な言葉が、鋭いナイフのように心に突き刺さる。 やっぱり、ダメなのだ。 私がどれだけ笑っても、どれだけ優しくしようとしても、この顔がすべてを台無しにする。 「悪役令嬢」の仮面は、肌に張り付いてもう取れないのかもしれない。
(……慣れているはずなのに。どうしてこんなに、苦しいんだろう)
視界が滲みそうになった、その時。
ふわり、と。 温かな光が、男の子を包み込んだ。
「――泣くな、少年」
頭上から降ってきたのは、静かで、しかし不思議な安心感を与える声だった。
いつの間にか、クロード様が男の子の前に立っていた。 彼の手のひらから、蛍のような小さな光の粒が無数に舞い上がり、男の子の周りをキラキラと漂っている。
「うわぁ……きらきら……」
男の子が泣くのを忘れ、目を丸くして光を見つめる。 光魔法の応用だろうか。 怯えていた心が、急速に落ち着いていくのが分かった。
クロード様は膝をつき、男の子の目を見て言った。
「少年。君の目は節穴か?」
「……ふしあな?」
「そうだ。目の前にいる美しい女性を見て、魔女などと呼ぶとは。視力検査が必要だな」
クロード様は真顔で、とんでもないことを言い出した。 私は慌てて止めようとしたが、彼は止まらない。
「よく見ろ。この人は魔女ではない。困っている君を助けようとした、ただの優しいお姉さんだ」
「で、でも……お顔が、こわい……」
「それは君の思い込みだ。彼女の瞳を見てみろ。君を心配して、泣きそうになっているだろう?」
男の子が、恐る恐る私の方を見る。 私はどういう顔をしていいか分からず、困ったように眉を下げて微笑んだ。
「……ほんとだ。こわくない」
男の子がぽつりと呟く。
クロード様は満足げに頷くと、ポケットからキャンディを取り出した(いつの間に用意したのだろう)。
「これをやろう。彼女からの贈り物だ」
「ありがとう!」
男の子が笑顔でキャンディを受け取った時、遠くから「コラァ! どこ行ってたの!」と母親らしき女性が走ってきた。 母親は私たちを見て一瞬ぎょっとしたが、クロード様の身なりと、懐いている息子の様子を見て、何度も頭を下げて去っていった。
◇
再び静かになった公園で、私は呆然と立ち尽くしていた。
「……クロード様」
「何だ」
「あの、魔法……精神安定の術式ですよね? あんなふうに使うなんて……」
「子供を泣き止ませるには、理屈より視覚効果と魔力干渉が早い」
彼はこともなげに言うけれど、あれほどの精密な魔法制御を、一瞬で行うなんて普通ではない。 それも、ただ私を庇うためだけに。
「……ありがとうございます。私、子供に泣かれるのは慣れていたんですけど、今日は少しだけ……堪えました」
私が弱音を吐くと、クロード様は私の頬にそっと触れた。 その指先が、泣きそうになっていた私の涙腺を刺激する。
「レティシア。君は自分の顔立ちを気にしているようだが、それは大きな間違いだ」
「間違い、ですか?」
「ああ。君のその凛とした目も、通った鼻筋も、私にとっては最高に魅力的だ。媚びない美しさがある」
彼は私の目を真っ直ぐに見つめて断言した。
「それに、これからは君が誤解されて傷つく必要はない」
「……え?」
「君が誤解されるなら、私が解く。君が怖がられるなら、私が君の優しさを証明する。君が悲しむ原因になるものは、それが何であれ――私がすべて排除する」
排除する。 その言葉の響きは、少し過激で、けれどこの上なく頼もしかった。 まるで、私の周りに最強の守護結界が張られたような安心感。
「……クロード様、それは甘やかしすぎです」
「言ったはずだ。君が傷つく要因は排除すると。……さあ、帰ろう。シェフが新作のケーキを焼いて待っている」
クロード様は再び私の手を取り、エスコートした。 その手は、来る時よりもさらに強く、私の手を握り締めていた。
馬車に乗り込み、遠ざかる街の景色を眺めながら、私は胸の高鳴りを抑えることができなかった。 ただ守られるだけではない。 私のコンプレックスごと肯定し、盾になってくれる人。
「……好きになっちゃうかもしれません」
聞こえないほどの小声で呟くと、クロード様が「ん? 何か言ったか?」と耳を傾けてきた。
「なんでもありません! 早くケーキが食べたいと言っただけです!」
私は顔を赤くして誤魔化した。 まだ早い。 まだ、この甘い檻に完全に屈服するわけにはいかないのだ。 ……まあ、陥落まで時間の問題という気もするけれど。
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