捨てた側が後悔する頃、私は甘やかされてます ~断罪イベント? 祝杯です。冷徹公爵が最速で囲い込みに来ました~

放浪人

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第二十四話 王太子の最後の足掻き、情けなくて滑稽

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「これより、王太子リオネル、宰相ヴァルダー、および側近ジェラールらに対する『最終裁定』を執り行う!」

王宮の特別法廷。 普段は大広間として使われているその場所は、今日は張り詰めた緊張感に包まれていた。 国王陛下が鎮座する玉座の前に、被告人席と原告席が設けられ、その周りをぐるりと取り囲むように、数百人の貴族たちが陪審員として着席している。

ファンファーレと共に、まずは被告人たちが入場してきた。

「うう……」

足を引きずるように現れたのは、元王太子リオネル様だ。 数日の独房生活ですっかり痩せ細り、かつての煌びやかな面影は見る影もない。 ボロボロの囚人服ではないものの、用意された質素な衣服は彼の貧相さを際立たせていた。

その後ろに続くのは、宰相ヴァルダーと息子のジェラール。 彼らはまだ往生際が悪く、周囲の貴族たちを睨みつけながら、「これは不当だ!」「陰謀だ!」と喚いている。 その見苦しさは、まさに沈みゆく船から逃げ出そうとする鼠のようだった。

そして、次に私たちの名前が呼ばれた。

「原告、アルヴァレス公爵閣下、ならびにレティシア・ヴァルモン嬢!」

扉が開く。 その瞬間、ざわついていた会場が、魔法をかけられたように静まり返った。

カツ、カツ、と優雅な足音が響く。 私はクロード様のエスコートを受け、ゆっくりと入場した。

身に纏うのは、昨夜セシリアと共に選んだ『光の精霊布』のドレス。 純白とプラチナゴールドの生地は、歩くたびに微細な光を放ち、私自身が発光しているかのような神々しさを演出している。 髪にはアクアマリンのティアラ。 それは、かつて「地味だ」と蔑まれた私が、本来持っていた輝きを最大限に引き出した姿だった。

「おお……」 「なんと美しい……」 「あれが、本当にあのレティシア嬢か?」

貴族たちの感嘆の声がさざ波のように広がる。 私は背筋を伸ばし、扇子で口元を隠しながら、優雅に一礼した。 隣のクロード様は、そんな周囲の反応にご満悦の様子で、「見ろ、私の婚約者だ」と言わんばかりのドヤ顔をしている。

私たちは被告人席の反対側、原告席へと着いた。 リオネル様と目が合う。 彼は私の姿を見た瞬間、目を見開き、そして奇妙な笑みを浮かべた。

(……何?)

嫌な予感がした。 彼はまだ、自分が勝てるとでも思っているのだろうか。

          ◇

裁定が始まった。 まずは法務官が、これまでの罪状――誓約紋による不当搾取、国家予算の横領、偽証教唆など――を読み上げる。 その内容はあまりにも明白で、普通なら即座に有罪判決が出るレベルだ。

しかし、被告人尋問のターンになった時、リオネル様がおもむろに立ち上がった。

「陛下! 発言をお許しください!」

「……許す。申してみよ」

リオネル様はよろよろと前に進み出ると、突然、その場に膝をつき、大粒の涙を流し始めたのだ。

「うぅ……っ、父上、いえ陛下。私は……騙されていたのです!」

「騙されていた?」

「はい! すべては宰相ヴァルダーとジェラールの甘言に惑わされたのです! 彼らが『王太子の権威を高めるためだ』と言って、勝手にやったことなのです! 私は……私はただ、国を良くしたい一心だったのに!」

「なっ、殿下!? 何を仰いますか!」

ジェラールが裏切られた顔で叫ぶが、リオネル様は無視して演技を続けた。 今度は私の方に向き直り、潤んだ瞳で訴えかけてくる。

「そして……レティシア。ああ、愛しいレティシアよ!」

「……はい?」

「すまなかった! 私が愚かだった! だが分かってくれ、私がミレイユに惹かれたのは、君への愛が強すぎた裏返しなのだ!」

会場中が「は?」という空気になった。 愛が強すぎて浮気をする? 一体どんな論理回路をしているのだろう。

しかし、リオネル様は止まらない。 彼は立ち上がり、両手を広げて、まるで悲劇の主人公のように朗読劇を始めた。

「君があまりにも完璧で、有能すぎたから……私は男としての自信を失ってしまったのだ。だから、つい弱いものを守ることで自尊心を満たそうとしてしまった。……これは、男なら誰しもが持つ弱さではないだろうか!」

彼は周囲の男性貴族たちに同意を求めた。 しかし、返ってきたのは冷ややかな視線だけだ。 「一緒にしないでくれ」「情けない」という心の声が聞こえてくるようだ。

「レティシア、君なら分かるはずだ。十二年間、私たちが紡いできた絆は、こんなことでは消えないはずだ!」

彼は一歩、私に近づこうとした。 クロード様がすっと動こうとするのを、私は手で制した。

「……それで? 何が仰りたいのですか?」

「復縁だ! 私は王位などいらない。ただ、君さえいてくれればいい! 君もそうだろう? そのドレス……それは、私との結婚式のために用意していたものではないか?」

「……」

あまりのポジティブ思考に、私は言葉を失った。 この期に及んで、まだ私が自分を愛していると信じている。 自分は「ちょっと浮気をして怒らせただけ」で、謝れば許されると思っているのだ。

「見ろ、その美しい姿を! 君はまだ、私に見せるために着飾ってくれたのだな。嬉しいぞ、レティシア! さあ、私の手を取ってくれ! 二人で田舎へ行って、静かに暮らそう!」

リオネル様は涙ながらに手を差し出した。 感動の再会シーン、のつもりなのだろう。

私は扇子を閉じ、ゆっくりと立ち上がった。 そして、にっこりと微笑んだ。 それは、貴族たちが「聖女のような微笑み」と見惚れるほどの、完璧な笑顔だった。

「……リオネル様。一つ、訂正させていただきます」

「な、なんだい? 愛の言葉かな?」

「このドレスは、貴方のために用意したものではありません」

私は隣に座るクロード様の方を向き、彼の手をそっと取った。

「これは、私がクロード様の隣に立つために、彼が贈ってくださったものです。貴方との過去を清算し、新しい未来へ進むための『決意の装い』です」

「え……?」

「それに、『田舎で暮らそう』と仰いますが……貴方は一人で着替えもできない、お茶も淹れられない、靴紐すら結べない方ではありませんか?」

私は淡々と事実を列挙した。

「誰が貴方の生活の面倒を見るのですか? 私ですか? お断りです。私はもう、貴方の『お母さん』ではありません」

会場から「ぷっ」という笑い声が漏れた。 一人、また一人と、失笑が広がっていく。 感動の悲劇は、一瞬にして滑稽な喜劇へと変わった。

「な、なんだと……!? 私は元王太子だぞ! 腐っても王族の血を引く……!」

「その血筋も、今日で終わりです」

冷徹な声が響いた。 クロード様だ。 彼は立ち上がり、私の肩を抱き寄せながら、リオネル様を見下ろした。

「見苦しいぞ、元殿下。君のその『涙の演技』で、レピュテーション・ボード(信用評価板)の数値がどうなったか見てみるがいい」

クロード様が指差した先。 壁に設置された掲示板の数字が、凄まじい勢いで回転していた。

【リオネル王太子】 信用ランク:E(論外) → F(軽蔑) → G(社会的抹殺)

『トレンドワード:#未練がましい #勘違い男 #靴紐結べない』

「あ、あぁ……」

リオネル様は掲示板を見上げ、絶望の表情で膝をついた。 自分の「切り札」だった同情作戦が、完全に裏目に出たことを悟ったのだ。

「さて、茶番は終わりだ」

クロード様が法務官に合図を送る。

「被告人の言い分は聞いた。次は、こちらのターンだ」

「原告側、新たな証拠の提出を許可する!」

法務官の声と共に、セバスが恭しく一つの箱を運んできた。 それは、厳重に封印された、古びた木箱だった。

「あれは……!」

リオネル様の顔色が、土気色に変わる。 見覚えがあるのだろう。 かつて私が、彼のために処理した「裏仕事」の数々。 その記録が、今、白日の下に晒されようとしていた。

「レティシアが慈悲で封印していた『パンドラの箱』だ。……開けてもいいか?」

クロード様が私に尋ねる。 私は深く頷いた。

「ええ。全ての膿を出し切りましょう」

箱の蓋が開かれる。 そこから溢れ出したのは、リオネル様と宰相たちが必死に隠蔽してきた、決定的な「罪の証拠」たちだった。

「ひぃぃぃ! やめろぉぉぉ!」

宰相ヴァルダーとジェラールが悲鳴を上げる。 しかし、もう遅い。 最終裁定のクライマックスは、涙も笑いもない、冷徹な断罪の刃となって彼らに降り注ぐ。

「さあ、本当の地獄を見せてやろう」

クロード様が薄く笑った。 その笑顔は、私のドレスよりも眩しく、そして何よりも恐ろしかった。
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