悪役令嬢ですが、二度目は無能で通します……なので執事は黙っててください

放浪人

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第25話 雪崩

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ドォォォォン……!
地鳴りのような重低音が、屋敷の石壁を伝って足裏に響いた。
窓ガラスがビリビリと悲鳴を上げ、積もっていた雪が屋根からどさりと落ちる音が続く。

「……何?」

私は弾かれたように窓へ駆け寄った。
外は猛吹雪で視界は真っ白だ。何も見えない。
けれど、鼻を突く独特の匂いが、風に乗ってわずかに流れ込んできた。
焦げた火薬の匂い。
そして、その後に続く、不気味なほどの静寂。

「リディア様! 今の音は……」

部屋に飛び込んできたレージの顔色は、いつになく険しい。

「採掘場の方角です。おそらく、火薬庫か何かが爆発を」

「採掘場……?」

心臓が早鐘を打つ。
バルドがいる場所だ。
そして、この大雪の中で爆発が起きれば、その振動が何を引き起こすか。
前世の知識が、最悪の結論を導き出す。

「雪崩(なだれ)が起きるわ」

「え?」

「あの山の斜面は雪が溜まりすぎているの! 爆発の衝撃が引き金になって、表層雪崩が起きる。……村が飲み込まれるわ!」

私は叫ぶと同時に、クローゼットから厚手の外套(コート)を引きずり出した。

「リディア様、お待ちください! 外は危険です!」

「どいて! 避難指示を出せるのは領主だけよ!」

「なりませぬ! 二次災害の恐れがあります!」

レージが私の前に立ちふさがり、両手で私の肩を掴む。
強い力だ。
普段の彼なら絶対にしない、主人を押さえつける暴力的な接触。
その手袋越しに、彼の恐怖が伝わってくる。

「……離して」

私は彼を睨み上げ、低い声で告げた。

「私が指示を出さなければ、村人は死ぬ。……私を見殺しにしたあの王都の連中と同じに、あなたもなりたいの?」

レージの目が揺れた。
その一瞬の隙を突いて、私は彼の手を振りほどき、廊下へと走り出した。

♦︎♦︎♦︎

外は地獄だった。
視界はゼロ。
雪が横殴りに顔を打ちつけ、呼吸をするたびに肺が凍りつくような痛みが走る。
馬車など出せない。
私は膝まで雪に埋まりながら、村へと続く道を必死に進んだ。

「逃げてー! 高台へ! 高台へ走りなさい!」

風音に負けないよう、喉が裂けそうなほど叫ぶ。
村ではすでにパニックが起きていた。
遠くから、ゴゴゴゴ……という低い音が迫ってくる。
雪の壁が、山肌を滑り落ちてくる音だ。

「リディア様!?」

村長のグレンが、私を見つけて目を剥いた。

「な、なぜここに!? お逃げください!」

「黙って走れ! 湯屋の裏手の崖上まで避難誘導して! 子供と老人を最優先! 荷物は捨てなさい!」

私は村長の胸倉を掴み、怒鳴りつけた。
無能な令嬢の仮面など、もう粉々だ。
私の指示に、村長はハッとして「おう!」と走り出した。

「こっちよ! 止まらないで!」

私も走る。
逃げ遅れた子供の手を引き、雪の中を掻き分ける。
背後で、轟音(ごうおん)が大きくなる。
白い津波が、すぐそこまで迫っている。

「きゃっ!」

足を取られ、私は雪の中に転倒した。
冷たい。
起き上がろうとしても、手足の感覚がない。
ああ、間に合わない。
白い闇が、私を飲み込もうと口を開けていた。

その時。
体がふわりと宙に浮いた。

「――掴まって」

耳元で、息を切らしたレージの声。
彼が私を抱き上げ、あり得ない速度で斜面を駆け上がっていく。
その腕の力強さ。
迷いのなさ。
私の顔が彼の胸板に押し付けられ、激しい心音だけが聞こえた。

ドガァァァン!!

直後、私たちがいた場所を、雪の濁流が飲み込んでいった。
舞い上がった雪煙が視界を埋め尽くす。
私はレージの首にしがみついたまま、震えが止まらなかった。
助かった。
けれど、もう隠せない。
私が「命懸けで村を救った」という事実は、この雪の中に深く刻まれてしまった。
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