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第26話 手袋を外す
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屋敷の暖炉の前で、私は毛布にくるまり、ガタガタと震えていた。
体の芯まで冷え切って、指先が紫色に変色している。
歯の根が合わない。
「……リディア様、失礼します」
レージが私の前に跪(ひざまず)く。
彼の手には、温めたタオルと、薬草のオイルがあった。
彼は私の氷のような手を取り、タオルで包み込んで丁寧に揉みほぐし始める。
「……ご、めんなさい」
私が震える唇で呟くと、レージの手が一瞬止まった。
「何に対する謝罪ですか」
声が硬い。
彼は怒っている。
私を危険に晒した自分自身にか、それとも無茶をした私にか。
「……無能でいるって、約束したのに」
「ええ。あなたは約束を破りました」
彼は淡々と言いながら、私の指先をオイルでマッサージする。
その手つきは優しいのに、どこか拒絶的だ。
執事としての義務だけで動いているような、冷たい壁を感じる。
それが悲しくて、怖くて。
私は衝動的に、彼の手を振り払おうとした。
「もういいわ。自分でやるから……」
「よくななどありません!」
レージが声を荒らげた。
ビクリと肩が跳ねる。
彼がこんな大声を出すのを、私は初めて聞いた。
彼はハッとして口を閉ざしたが、その瞳には暗い炎が燃えていた。
彼はゆっくりと、自分の手にはめていた白手袋を、口で咥(くわ)えて引き抜いた。
素肌の指があらわになる。
執事が主人の前で素手を晒すなど、最大の無礼だ。
けれど、彼は構わず、その素手で私の両手を包み込んだ。
「……っ」
熱い。
火傷しそうなほどの、生身の体温。
布越しではない、皮膚と皮膚が触れ合う感触に、私は息を呑んだ。
「冷たすぎます……。これでは、感覚が戻らない」
彼は私の手を自分の頬に押し当て、体温を移そうとする。
彼の頬の熱さ。
髭(ひげ)の剃り跡の、わずかにざらつく感触。
近い。
彼の瞳が、至近距離で私を射抜いている。
「お願いです。……ご自分を、大切になさってください」
それは懇願だった。
命令でも、忠告でもない。
ただ一人の男としての、悲痛な叫び。
彼の手のひらが、私の凍えた指を温め、溶かしていく。
「……レージの手、温かいのね」
私が呆然と呟くと、彼は泣きそうな顔で、けれど無理に笑ってみせた。
「あなたの手が冷たすぎるのです」
「……離して。怖いから」
「怖くても、離しません。温まるまでは」
彼は私の言葉に従わなかった。
「黙ってて」という命令にも、「離して」という命令にも、彼はもう従わない。
その強引さが、今は心地よく、そして何よりも恐ろしかった。
守られるということは、時に暴力的なまでに自由を奪われることなのだと、彼の熱い手が教えていた。
体の芯まで冷え切って、指先が紫色に変色している。
歯の根が合わない。
「……リディア様、失礼します」
レージが私の前に跪(ひざまず)く。
彼の手には、温めたタオルと、薬草のオイルがあった。
彼は私の氷のような手を取り、タオルで包み込んで丁寧に揉みほぐし始める。
「……ご、めんなさい」
私が震える唇で呟くと、レージの手が一瞬止まった。
「何に対する謝罪ですか」
声が硬い。
彼は怒っている。
私を危険に晒した自分自身にか、それとも無茶をした私にか。
「……無能でいるって、約束したのに」
「ええ。あなたは約束を破りました」
彼は淡々と言いながら、私の指先をオイルでマッサージする。
その手つきは優しいのに、どこか拒絶的だ。
執事としての義務だけで動いているような、冷たい壁を感じる。
それが悲しくて、怖くて。
私は衝動的に、彼の手を振り払おうとした。
「もういいわ。自分でやるから……」
「よくななどありません!」
レージが声を荒らげた。
ビクリと肩が跳ねる。
彼がこんな大声を出すのを、私は初めて聞いた。
彼はハッとして口を閉ざしたが、その瞳には暗い炎が燃えていた。
彼はゆっくりと、自分の手にはめていた白手袋を、口で咥(くわ)えて引き抜いた。
素肌の指があらわになる。
執事が主人の前で素手を晒すなど、最大の無礼だ。
けれど、彼は構わず、その素手で私の両手を包み込んだ。
「……っ」
熱い。
火傷しそうなほどの、生身の体温。
布越しではない、皮膚と皮膚が触れ合う感触に、私は息を呑んだ。
「冷たすぎます……。これでは、感覚が戻らない」
彼は私の手を自分の頬に押し当て、体温を移そうとする。
彼の頬の熱さ。
髭(ひげ)の剃り跡の、わずかにざらつく感触。
近い。
彼の瞳が、至近距離で私を射抜いている。
「お願いです。……ご自分を、大切になさってください」
それは懇願だった。
命令でも、忠告でもない。
ただ一人の男としての、悲痛な叫び。
彼の手のひらが、私の凍えた指を温め、溶かしていく。
「……レージの手、温かいのね」
私が呆然と呟くと、彼は泣きそうな顔で、けれど無理に笑ってみせた。
「あなたの手が冷たすぎるのです」
「……離して。怖いから」
「怖くても、離しません。温まるまでは」
彼は私の言葉に従わなかった。
「黙ってて」という命令にも、「離して」という命令にも、彼はもう従わない。
その強引さが、今は心地よく、そして何よりも恐ろしかった。
守られるということは、時に暴力的なまでに自由を奪われることなのだと、彼の熱い手が教えていた。
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