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第32話 断罪の茶会
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(視点:リディア)
王宮の庭園は、吐き気がするほど美しかった。
色とりどりの薔薇(ばら)が咲き乱れ、白いテーブルクロスが風に揺れている。
甘い。
紅茶の湯気、焼き菓子の砂糖、そして充満する花の香り。
それら全てが混じり合い、ねっとりとした甘露となって空間を埋め尽くしている。
「あら、リディア様! お久しぶりですわ!」
「療養されていたと聞きましたけれど、お顔色が……ふふ」
着飾った令嬢たちが、扇子で口元を隠しながら私を見る。
その目は冷笑に満ちていた。
『逃げ帰ってきた負け犬』
『王太子殿下に捨てられかけた女』
そんな声が聞こえてくるようだ。
私は何も言わず、指定された末席に座った。
無能なふり。
反応しない。感情を見せない。ただの石になる。
それが今日の私の鎧(よろい)だ。
「皆様、お待たせいたしました」
鈴を転がすような声が響く。
空気が一変した。
庭園の奥から、純白のドレスを纏った少女が現れる。
金色の髪、透き通るような碧眼(へきがん)。
聖女候補、ミレイユ。
彼女の周りだけ、光が集まっているように見えた。
誰もが彼女に釘付けになり、恍惚(こうこつ)とした溜息を漏らす。
「まあ、リディア様! お会いしたかったです!」
ミレイユは私を見つけるなり、小走りで駆け寄ってきた。
そして、ためらいもなく私の手を取る。
彼女の手は温かく、そして柔らかかった。
まるで労働など一度もしたことがない、赤ん坊のような手。
私の、雪国で荒れた指先とは対照的だ。
「お加減は大丈夫なのですか? 私、毎日お祈りしていましたのよ。リディア様の心が安らぎますようにって」
慈愛に満ちた言葉。
完璧な笑顔。
けれど、その瞳の奥は笑っていない。
私の手を握る力が、じわりと強い。
逃がさない、というように。
「……ありがとう。おかげさまで」
私が短く返すと、ミレイユは悲しげに眉を下げた。
「よかった……。でも、リディア様。王都を離れている間に、悪いものが溜まってしまったようですわ」
「え?」
「私には見えますの。あなたの背後に、黒い影が……。きっと、ご自分を偽って生きてこられた報いですわね」
場が凍りつく。
彼女は優しく、しかし残酷に、私を「汚れた存在」として定義した。
周りの令嬢たちが一斉に頷く。
『やっぱり』『聖女様がおっしゃるなら』『可哀想に』
「でも、安心してくださいな。私が浄化して差し上げますから」
ミレイユの手のひらが、カッと熱を持った。
光だ。
彼女の手から溢れ出した白い光が、私の手を焼き焦がすような熱さで包み込む。
「っ……!」
熱い。痛い。
これは浄化じゃない。ただの攻撃だ。
けれど、周りには「神聖な奇跡」に見えているのだろう。
私が悲鳴を上げて手を振りほどけば、「聖女の慈悲を拒絶した悪女」になる。
罠だ。
私は奥歯を噛み締め、その熱に耐えた。
甘い花の匂いが、今は腐った肉の匂いのように感じられて、胃液がせり上がってくるのを必死で飲み込んだ。
王宮の庭園は、吐き気がするほど美しかった。
色とりどりの薔薇(ばら)が咲き乱れ、白いテーブルクロスが風に揺れている。
甘い。
紅茶の湯気、焼き菓子の砂糖、そして充満する花の香り。
それら全てが混じり合い、ねっとりとした甘露となって空間を埋め尽くしている。
「あら、リディア様! お久しぶりですわ!」
「療養されていたと聞きましたけれど、お顔色が……ふふ」
着飾った令嬢たちが、扇子で口元を隠しながら私を見る。
その目は冷笑に満ちていた。
『逃げ帰ってきた負け犬』
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そんな声が聞こえてくるようだ。
私は何も言わず、指定された末席に座った。
無能なふり。
反応しない。感情を見せない。ただの石になる。
それが今日の私の鎧(よろい)だ。
「皆様、お待たせいたしました」
鈴を転がすような声が響く。
空気が一変した。
庭園の奥から、純白のドレスを纏った少女が現れる。
金色の髪、透き通るような碧眼(へきがん)。
聖女候補、ミレイユ。
彼女の周りだけ、光が集まっているように見えた。
誰もが彼女に釘付けになり、恍惚(こうこつ)とした溜息を漏らす。
「まあ、リディア様! お会いしたかったです!」
ミレイユは私を見つけるなり、小走りで駆け寄ってきた。
そして、ためらいもなく私の手を取る。
彼女の手は温かく、そして柔らかかった。
まるで労働など一度もしたことがない、赤ん坊のような手。
私の、雪国で荒れた指先とは対照的だ。
「お加減は大丈夫なのですか? 私、毎日お祈りしていましたのよ。リディア様の心が安らぎますようにって」
慈愛に満ちた言葉。
完璧な笑顔。
けれど、その瞳の奥は笑っていない。
私の手を握る力が、じわりと強い。
逃がさない、というように。
「……ありがとう。おかげさまで」
私が短く返すと、ミレイユは悲しげに眉を下げた。
「よかった……。でも、リディア様。王都を離れている間に、悪いものが溜まってしまったようですわ」
「え?」
「私には見えますの。あなたの背後に、黒い影が……。きっと、ご自分を偽って生きてこられた報いですわね」
場が凍りつく。
彼女は優しく、しかし残酷に、私を「汚れた存在」として定義した。
周りの令嬢たちが一斉に頷く。
『やっぱり』『聖女様がおっしゃるなら』『可哀想に』
「でも、安心してくださいな。私が浄化して差し上げますから」
ミレイユの手のひらが、カッと熱を持った。
光だ。
彼女の手から溢れ出した白い光が、私の手を焼き焦がすような熱さで包み込む。
「っ……!」
熱い。痛い。
これは浄化じゃない。ただの攻撃だ。
けれど、周りには「神聖な奇跡」に見えているのだろう。
私が悲鳴を上げて手を振りほどけば、「聖女の慈悲を拒絶した悪女」になる。
罠だ。
私は奥歯を噛み締め、その熱に耐えた。
甘い花の匂いが、今は腐った肉の匂いのように感じられて、胃液がせり上がってくるのを必死で飲み込んだ。
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