悪役令嬢ですが、二度目は無能で通します……なので執事は黙っててください

放浪人

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第47話 謝罪の重さ

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(視点:リディア)

空が泣き出しそうに重く垂れ込めている。
広場での騒動が収束した後、私は王城の応接室に通されていた。
窓の外からは、ポツポツと雨が降り始めた音が聞こえる。
湿った土と、古い石壁の匂い。
王都特有の、あの鼻にまとわりつくような湿気が、私の記憶を刺激する。

「……リディア」

対面のソファに座る王太子セオドールが、蚊の鳴くような声を出した。
彼は憔悴(しょうすい)しきっていた。
かつての輝かしいオーラは消え、ただの疲れた青年にしか見えない。

「すまなかった。……私が、愚かだった」

彼は深く頭を下げた。
王族が臣下に頭を下げるなど、あってはならないことだ。
けれど、今の彼にはそれしかできなかったのだろう。

「ミレイユは……教会が保護することになった。精神の崩壊が激しく、もう二度と表舞台には出られないだろう」

「そうですか」

私は短く答えた。
ミレイユへの同情はない。
彼女もまた、自らの欲望と弱さに負け、破滅を選んだのだ。

「リディア、私は……君に償いたい。婚約破棄を撤回し、もう一度……」

「お断りします」

言葉が終わるのを待たずに、私は遮った。
殿下が顔を上げ、驚いたように目を見開く。

「な、なぜだ? 私の過ちは認める。これからは君の言葉を聞く。君の有能さを正当に評価すると約束しよう」

「そういう問題ではありません、殿下」

私は冷めた紅茶のカップを見つめた。
水面に映る自分の顔は、驚くほど無表情だった。

「一度割れたグラスは、元には戻りません。たとえ繋ぎ合わせても、ヒビ割れは残る。……私は、そのヒビを見るたびに、あの断罪の日の絶望を思い出すでしょう」

「っ……」

「許すとか、許さないとか、そういう話ではないのです。ただ、私の人生に、あなたはもう必要ない。それだけです」

「リディア……」

彼の目から光が消える。
それは、彼が初めて「自分の思い通りにならない現実」に直面した瞬間だったかもしれない。

「物流の正常化と、白夜領への賠償だけは、きっちりと行わせていただきます。それが、王家としての誠意でしょう?」

私は立ち上がり、一礼した。
これ以上、ここにいる理由はない。
かつて恋焦がれた相手への未練も、憎しみさえも、雨と共に流れていくようだった。

部屋を出る時、背後で彼が何かを呟いた気がしたが、私は振り返らなかった。
廊下の窓を開けると、雨の匂いが一層強く流れ込んできた。
冷たいけれど、どこか清々しい匂い。
過去に縛られていた鎖が、完全に解けた音がした。
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