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第48話 白夜領へ戻る
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(視点:リディア)
「本当に行かれるのですか? 今なら、王都でいくらでも良い縁談がございますのに」
実家の父、アルノー公爵が未練がましく言った。
今回の騒動で、私の評価は「無能な悪女」から「国を救った賢女」へと180度ひっくり返った。
手のひらを返したように、社交界からは茶会の誘いが殺到し、父の元には釣書(つりがき)の山が届いているらしい。
「ええ、お父様。私は王都の空気には馴染めません」
私は旅装束の袖を整えながら、きっぱりと告げた。
派手なドレスはもう着ない。
動きやすく、暖かいウールのコートと、丈夫なブーツ。
それが今の私には一番似合っている。
「それに、白夜領にはやらなければならないことが山積みです。湯屋の本格的な改修に、薬草の販路拡大、それに……」
「わかった、わかったよ」
父は苦笑して肩をすくめた。
私の瞳に宿る光を見て、もう何を言っても無駄だと悟ったのだろう。
屋敷の玄関ホールには、レージが待っていた。
彼はいつもの完璧な執事服姿だが、その表情はどこか晴れやかだ。
「馬車の準備は整っております、リディア様」
「ありがとう。……帰りましょう、私たちの家に」
「はい」
馬車に乗り込むと、すぐに車輪が回り始めた。
王都の石畳を抜けるゴトゴトという音が、次第に土の道の柔らかい音へと変わっていく。
窓の外、遠ざかる王城を見ても、もう何の感情も湧かなかった。
数日後。
景色は徐々に白く染まり始めた。
北へ向かうにつれ、空気が凛と張り詰めていく。
冷たいけれど、肺の中が洗われるような清浄な空気。
雪の匂いだ。
「……帰ってきた」
白夜領の入り口が見えた時、私は思わず窓を開けて身を乗り出した。
雪に覆われた屋敷。
そこから立ち上る、細い煙。
そして、馬車の音を聞きつけて集まってきた人々の姿。
「リディア様ー!」
「おかえりなさい!」
村長、ノア、ユイ、そして子供たち。
みんなが手を振っている。
彼らの笑顔には、王都の人々のような「熱狂」や「計算」はない。
ただ、冬を共に越える仲間としての、素朴な温かさがあった。
「……あ」
馬車を降りた私に、一人の老婆が近寄ってきた。
しわくちゃの手で、私の手をそっと握る。
「領主様、これからは……頼ってもええですか?」
その言葉に、胸の奥が熱くなった。
かつては「期待されること」が怖かった。
でも今は、その重みが心地よい。
「ええ。……私も、あなたたちを頼るわ。みんなで生きましょう」
私が微笑むと、老婆も笑った。
雪が深々と降り積もる。
けれど、もう寒くはなかった。
ここには、私が自分で選び、自分で守り抜いた居場所があるのだから。
「本当に行かれるのですか? 今なら、王都でいくらでも良い縁談がございますのに」
実家の父、アルノー公爵が未練がましく言った。
今回の騒動で、私の評価は「無能な悪女」から「国を救った賢女」へと180度ひっくり返った。
手のひらを返したように、社交界からは茶会の誘いが殺到し、父の元には釣書(つりがき)の山が届いているらしい。
「ええ、お父様。私は王都の空気には馴染めません」
私は旅装束の袖を整えながら、きっぱりと告げた。
派手なドレスはもう着ない。
動きやすく、暖かいウールのコートと、丈夫なブーツ。
それが今の私には一番似合っている。
「それに、白夜領にはやらなければならないことが山積みです。湯屋の本格的な改修に、薬草の販路拡大、それに……」
「わかった、わかったよ」
父は苦笑して肩をすくめた。
私の瞳に宿る光を見て、もう何を言っても無駄だと悟ったのだろう。
屋敷の玄関ホールには、レージが待っていた。
彼はいつもの完璧な執事服姿だが、その表情はどこか晴れやかだ。
「馬車の準備は整っております、リディア様」
「ありがとう。……帰りましょう、私たちの家に」
「はい」
馬車に乗り込むと、すぐに車輪が回り始めた。
王都の石畳を抜けるゴトゴトという音が、次第に土の道の柔らかい音へと変わっていく。
窓の外、遠ざかる王城を見ても、もう何の感情も湧かなかった。
数日後。
景色は徐々に白く染まり始めた。
北へ向かうにつれ、空気が凛と張り詰めていく。
冷たいけれど、肺の中が洗われるような清浄な空気。
雪の匂いだ。
「……帰ってきた」
白夜領の入り口が見えた時、私は思わず窓を開けて身を乗り出した。
雪に覆われた屋敷。
そこから立ち上る、細い煙。
そして、馬車の音を聞きつけて集まってきた人々の姿。
「リディア様ー!」
「おかえりなさい!」
村長、ノア、ユイ、そして子供たち。
みんなが手を振っている。
彼らの笑顔には、王都の人々のような「熱狂」や「計算」はない。
ただ、冬を共に越える仲間としての、素朴な温かさがあった。
「……あ」
馬車を降りた私に、一人の老婆が近寄ってきた。
しわくちゃの手で、私の手をそっと握る。
「領主様、これからは……頼ってもええですか?」
その言葉に、胸の奥が熱くなった。
かつては「期待されること」が怖かった。
でも今は、その重みが心地よい。
「ええ。……私も、あなたたちを頼るわ。みんなで生きましょう」
私が微笑むと、老婆も笑った。
雪が深々と降り積もる。
けれど、もう寒くはなかった。
ここには、私が自分で選び、自分で守り抜いた居場所があるのだから。
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