後宮侍女(さむらいおんな)

娑婆聖堂

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海賊商人

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 船の中だというのに、長者の屋敷に招かれたようだった。乗り物の限界ゆえ、広さこそさほどでもないが、その分豪華絢爛を圧縮した、宝石箱のようなきらめきの数々。

 遥か北に住むという大虎の毛皮がそのまま絨毯になっている。西方の金細工や珍獣のはく製、本来は皇帝に献上されるような南海の蘭、竜涎香の香り。
 成金趣味、下品と言えばそうだが、ここまで極まれば物の持つ迫力に圧倒されるばかりである。矢玉の降り注ぐ戦場で生きてきた柳玄斎も、この魔界じみた雰囲気には呑まれざるをえない。

 しかし彼の娘ときたら。いたずらがばれてとっ捕まった、子供そのものの仏頂面。
 数年前、最初に訪れた時こそ、目を輝かせて宝物の由来を尋ねたものだが、一通り聞くとあっという間に飽きた。
 この気宇壮大さというか、物への執着の無さは雲上人並だと、玄斎は密かに尊敬していた。無論娘に言いはしないが。

「よくきてくれまシたね。おえいサン」

 所々発音に癖があるが、見事な上方言葉だった。鎮西隼人の連中より、よほど聞き取りやすい。たゆまぬ訓練と優秀な頭脳もそうだが、驚くべきは的確に教えられる教師を雇える財力と人脈である。
 この時代、有為の士は張り紙を出して就職活動をしているわけではない。探すだけでも一苦労なのだ。

 だが目の前の老爺にとっては、それも多少の手間でしかないのだろう。
 福々しい、という感想が真っ先に出る男だ。血色よく、ふくよかな頬。肥満体ではあるが、病的な感じは一切無い。海の男ゆえ、筋肉も相応についているからだろう。
 赤地に金糸で細かく刺繍された衣装に、豊かな白髭がかかっている。彼の肖像画を福の神の絵と言っても、疑う者はいまい。
 しかし中身はもう少し物騒だ。数百もの船団を統べる大頭目。光華沿岸から南海までの海賊を束ねる海の王が、この王信という老人の正体だった。

 海賊といっても、略奪は主な仕事ではない。そもそも規模からして奪うだけでは食っていけない。
 海賊という名前も、皇帝に従属していない海の勢力くらいの意味で、実態は何でもありの貿易商というのが近い。
 仕事は真っ当な売り買いから、金融、密貿易(これも皇帝の認可を受けていないだけで商品は普通)、用心棒の斡旋あっせん、船乗り相手の賭場や商館の経営、武器の取引に傭兵業まで。
 要は、海の周りで金が関わる事なら見境なしだ。

 そして用心棒や傭兵で特に人気が高いのが、玄斎たち狗那人くなじん、別の呼び方をすれば狗賊くぞくである。
 残虐で気位が高いのは問題だが、信義を重んじ勇猛。同郷の者だろうが、敵ならば容赦なく斬る。扱いに気をつければ非常に役立つというのが雇う側の評価である。
 そんな狗賊の戦士の中でも、玄斎、おえいの親子は、王信と直に話せる程に信頼されている一流どころだった。

「まあ、王さんには世話になってるし、呼ばれたら来ますけど。でも私だけに用があるってどういうこと?戦争じゃないならどっかに潜入とか?私そういうの苦手なんだけどなー」

 玄斎がしかめっ面をする。並の人間なら、その日の夜にサメの餌になっていてもおかしくない態度だ。
 しかし王信はにこにこと、機嫌良さげな様子。事実、多少の無礼は多目に見てもらえるほどには、おえいという女が上げてきた手柄は大きい。そして今回の依頼も、その手柄に負けず劣らずの重大事であった。

「潜入ではありまセン。堂々とハイれます」

「入るって、どこかの商館?」

「イイエ」

 王信の笑い皺が一際深くなった。

「オエイさん、宮廷で侍女をヤッテくれまセンか?」
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