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7.大・大衝撃波

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 私はこの時、ショックダイルの正面に陣取ったの。
 ウイークエンダー・ラビットと言えば重装甲と高パワー。
 ショックダイルが震動波を放とうと向く。
 私が相手の注目の的になって、味方への注目を減らそうと思ったの。
 その隙にホクシン・フォクシスが四方から襲いかかる。
 あの滑る動きの中で、青い炎が、刃に変わる。
 そして、ショックダイルの黒いウロコを上から下まで切り裂いた。
 宇宙からもたらされた力が、空気のクッションを、元素1個分の厚みしかない切っ先に変えたんだ。
 ウロコの間に見える、小さくキラリと光るモノ。
 その目の近くを切り裂かれ、4本の足も傷ついて、ついにショックダイルはへたり込む。
 傷から勢いよく飛びだしたのは、赤い血などではなく、白い火花だった。
 ショックダイルが、どう言うエネルギーで動いているのかは、今も研究中なの。
 へたり込みながらも、あのダムのような尾と、震動波はまだ使える。
 2つのアゴが、震えはじめた。
 狙われるのは、私!
 私は、逃げるか進むか、すぐに決めなければいけなくなった!
 決めなければ、待っているのは、死!
   
 その時に、私の母艦の雷切から通信が入った。
『ホクシン・フォクシスは撤退しなさい。うさぎ、5秒後に突撃しなさい』
 お母さんの声だ。
 うちのお母さんはアンドロイド。
 人間に似せて作られた機械なの。
 純然たる戦闘用で、今は作戦を考えてくれている。
 そのお母さんの指示に従うと、ショックダイルの振動波が放たれるまでここにいなきゃならない。
 でも私には、従うことへの迷いはなかった。
 得意のパンチをいつでも打てるよう、構えるだけだ。
 ショックダイルのアゴが震える。
 ウイークエンダーの装甲が揺れだしてきた。
 一瞬で砕かれた山の岩が、怖さとともに思いだされる。
 その時、ショックダイルの後ろに巨大な茶と緑のまだら模様が滑り込んだ。
 全長100メートル。低速での大気圏航空に有利な、真横に伸びた主翼。
 急襲揚陸艦、雷切はエンジンを切って音もなく飛べるの。
 その直後、光が生まれた。
 暴風だね。
 ショックダイルのあの巨体が、シッポからあおられる!
 その後ろから、煙になった砕けた岩がビュンビュン飛んでくる!
 雷切が、ジェットエンジンを地面に向けて噴射したんだ。
 ショックダイルの後ろで起こったことは、大爆発なんだ。

 私は走りだす。
 ショックダイルに向かって。
 振動波はジェットに流される。私は近づくから、振動波は焦点を合わせれない。
 ウイークエンダーの2つのこぶしに、腕からせり出した装甲が重ねる。
 シンプルだけど必殺の、全体重を最高まで加速した、パンチ!
 狙うのは、震えてぼやけて見えるショックダイルのアゴ、二つ!
 当たった瞬間、この戦いで最も大きな衝撃が起こった。
 アゴは、もうぼやけていない。
 少し体にめり込んで、ひしゃげたかもしれない。
 ショックダイルが、後づさる。
 その先には、崖があった。
 踏み外す、後ろ脚。
 そこから這い上がる力は、もう残っていなかった。
 黒い巨体は、岩を砕き、低い木や草花をはぎ取りながら落ちていく。
 
 こうして、戦いは終わったの。
 こんなときは、「うれしい!」みたいな感情は浮かばない。
 ただ、「もう考えなくていい、耐えなくていい」という感情が浮かぶだけだよ。
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