メロメロ! とろけるメメントモリ

リューガ

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海で拾った幽霊画 メメントモリ(死を忘れるな)は知らなかった愛を伝える

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 私、佐竹 うさぎは奇跡を目撃しました!

 北陸の冬は、きびしい。
 ゴウゴウとうなる風。
 次々と降り積もる雪。
 凍てつく寒さ。
 ブリ起こし、と言う雷のシーズンでもある。
 ここは日本海に突き出した能登半島。
 大陸から南下する冷たい空気が、まっすぐ襲って来る場所。
 そこから生まれる分厚すぎる雪雲が、世界的に多くの雷をとどろかせるの。
 その雷が海の魚、ブリを起こす。と言われるから、ブリ起こし。

 にもかかわらず、奇跡がおこった! 
 空は青空。
 文句無しに美しい。
 風は冷たいけど、氷がはるほどじゃない。
 そして、目の前にはキラキラに輝く日本海!
 初日の出が登ってまだ日の浅い、お正月休みの海!
 この、おだやかさこそ奇跡!
 陸に囲まれた富山湾側じゃない。
 そっちは能登で内浦と言う。
 一方、目の前に広がるのは。
 大陸までさえぎる物のない、荒海。
 こっちは外浦と言う。
 波の音はザブンザブンじゃない。
 音がいくつも重なり、ゴーと絶え間なく響く。
 打ち付ける岩場。
 しぶき。
 演歌の世界だよ。
「足をとられないでよ~。うさぎ」
 待ち合わせていた、背の高い女性に呼ばれた。
 私は「は~い」と返した。
 女子高生の先輩、月島 綾花さんがいる。
 ここの漁業権、魚や海藻を取る権利を持つ、漁師さんの娘さん。
 隣には、その漁師である綾花さんの、お母さん。
 つまり海女さんだ。
 ちゃんと許可をとらないと、ドロボウになるからね。
 あちこちに、まだ雪が残ってる。
 枯れ草が、はげしく風になびいてる。
 今日の服装は、まずは胴長。
 胴体から足の先まで、一体になった長靴だよ。
 そこから厚着して、ゴム手袋をして。
 その上にライフジャケットも着てきた。
 海に落ちても浮くジャケット。
 3人とも同じかっこう。
 考えられるだけ安心には気を配ってる。

 潮の香りがする。
 さあ、ザルをもって岩場をぬけよう!
 お料理の探求者、佐竹 うさぎは強いんだ。
 今だけは、対怪獣特務機関プロゥォカトルも、ウイークエンダー・ラビットのことも、怪獣を狩るハンターキラーであることも関係ない。
 あと50メートルほど歩けば!
 とは言っても、足元を見てると、不安になる。
 足元は岩場なんだ。
 波がけずった鋭いデコボコが埋めつくしてる。
 いつ見ても波の力はすごいね。
 振り向いて山を見れば分かる。
 険しい、ほぼ垂直に切り立ったガケ。
 これは、何万年もかけて波が山をけずった証なんだ。
 これから何万年たっても、たぶん止まらない。
 そんなガケも、木々はおおってしまう。
 黄色っぽい土がむき出しなところは、昔の地震で土砂崩れしたところだよ。
 長い間、外に触れてない土には栄養がないから。
 だから、何年たっても草木が生えないんだ。
 そう言えば、この海岸も地震で地面まるごと浮き上がって現れたんだよ。
 これも、自然のすごい力だね。

 波しぶきのかかるところまで、やって来た。
 岩の、ぬめりをもつ黒光りした部分が。
「岩のりだ~」
 ざばーん。と、またしぶきがかかる。
 でも、3人とも気にしない。
 かがみこむ。
 厚いゴム手袋をはめた手で、岩のりをはぎ取る。
 ザルに放り込む。
 
 そう言えば、この能登の海。
 よそより栄養価が高いらしい。
 日本海には、北からの冷たい海流と、南からの暖かい海流が流れ込んでいる。
 それがちょうどぶつかるのが、能登半島辺りなんだそうだ。
 だから、二種類の海水が混ざりあって、いつでも栄養満点。
 それで育った岩のりも、元気なんだよ。
 海水から作った塩も、地元の名物なんだ。
 天日で干す、夏の風物詩。
 スイーツにも入れるんだよ。
 クッキー、チョコ、マドレーヌ、サイダーもある。
 そうそう。
 海流に乗って来た魚もたくさんとれる。
 まさに恵みの海だね。

 「ヨシッ。大量! 」
 こんな短時間で、ザルがいっぱいになった。
 我が家のと、月島さん一家へのお礼も十分。
 あとは、月島さんの家に持っていって、おまかせだ。
 お家に二層式洗濯機がある。
 洗う所と脱水する所がべつべつのヤツ。
 それで岩のりは脱水する。
 そして四角く形を整えて、天日で干す。
 そしたらパリパリの、のりが完成する。
 おにぎりを包むのが楽しみ!

 ほかに何かないかな。
「カジメだ」
 ラッキー。
 海の底から生えてる海藻なんだ。
 岩の上に落ちてる。
 これを忘れてはいけない。
 荒波にちぎられて、打ち上げられたんだ。
 それに、これだけ寒いと虫もつかない。
 これで、お味噌汁を作る。
 お湯にいれた時、黒かったのが鮮やかな緑に変わる。
 その瞬間が大好きなんだ。

 ザルは重ねて持ってきた。
 もう一つのザルに詰めこむ。
 綾花さんも、これの美味しさはわかってる。
 はりきって詰めこんでる。
 これで愛しい海辺とも、しばしの別れか。
 その時、何だろう?
 
 ジリジリ ジリリ・・・・・

 鈴のような、歯車のような。
 オルゴールのような、金属音。
 耳から聞こえる音じゃない。
 私をよぶ、いえ誘う?
 MCOの音だ!

 MCO、Mechanical Civilization Oath(メカニカル・シビライセイション・オウス)。
 "物質文明から生まれた誓い" 。
 それは、滅び去った文明の作り手たち。  
 人。
 そんな人たちには、死んだ人が霊を残す、幽霊なんか信じない人もいる。
 それはそうだね。
 人が死んでも、必ず幽霊になるとは限らないから。
 だけどね、その幽霊になるはずの無い霊でも、少しづつ、カケラを残していたの。
 そのカケラは、星が滅びても、なくならなかった。
 また長い年月のはてに新しい星になれば、そこで生まれた人のカケラと混ざりあった。
 そして、ひとつの形を作る。
 
 ある理由から、私はそれを感じる力を授かった。
 
 MCOがしめすのは、あれかな?
 波打ち際に、煌びやかなものが見えた。 
 この環境にあるはずの無い光。
 空き缶とか、お菓子の袋とか。
 そんな物なら、いくらでも見た。
 今、拾い続けるとキリがないから、嫌だけど無視しているだけだ。

 私は光を無視できなかった。
 波で打ち上げられた流木たち。
 曲がりくねった木の枝の中に、真っ直ぐで青い、布? 紙?
 それがぬれて、日の光に輝いてる。
「巻き物? 」
 それは、半分だけの木の箱に入っていて、長さは、1メートルはないな。
 青い布が木の棒に巻き付けられた形。
「掛け軸、だよね」
 日本古来の形だ。
「・・・・・・拾ってみる? 」
 綾花さんが誘ってくれた。
 たしかに、行って取れないほど険しい岩場じゃない。
「お母さん。
 昔、洪水で汚れた写真を綺麗にするボランティアをしてたって言ったよね? 」

 そして、月島家にやって来た。
 拾い上げた掛け軸を見て、綾花さんのお母さんは。
「私がやったのは、写真だから。
 本気で綺麗にするならプロに頼まなきゃダメだよ」
 それでも、あきらめてはいなかった。
「でも、できることは教わったわ。
 こういうぬれた紙の大敵は、繁殖するバクテリア。
 乾かすのが第一よ」
 そして、ブルーシートを持ってきて。と綾花さんにたのんだ。
 私は、家の中へ。
 お座敷へ掛け軸を運んだ。
 能登の家は、お座敷が広いんだ。
 ブルーシートをしいて、その上にタオル。
「ゆっくり広げるのよ。
 破れやすくなってるから」
 はいっ!
 そして、掛け軸を広げたんだけど・・・。
「「「ギャッ! 」」」
 私の叫び。そして月島母娘の悲鳴が同時に響いた!
「何これ!? 」

 掛け軸に描かれていたのは、絵だった。
 人の絵だ。
 立った人が、上を向いている。
 ただ、その表情が・・・・・・禍々しい、って言うのかな。
 口は、ねじれたまま開いてる。
 何を言っているのか、想像もつかない。
 でも、その原因が痛みなのは確実だよね。
 その首から、赤い血が流れでてる。
 きらびやかな着物をきてるけど、その半身を真っ赤に染めている。
 ぐしゃぐしゃに乱れた髪。
 長い髪があって、顔に髭がないから、どうにか女性だとわかる。
「これって幽霊画?! 」
 綾花さんのお母さんの、多分言う通り。
「気持ち悪い!
 早く捨てなさい! 」
 綾花さんはそう言って、掛け軸をつかもうとする。
「イヤ、まって! 」
 私はその手を止めた。

―◆――◆――◆――◆――◆――◆―
 
 昔むかし、江戸時代。
 金沢に前田のお殿さまがいた頃。
 その前田のお殿さまが、江戸の徳川将軍の所へ行く事になった。
 参勤交代ってやつだね。
 それに、1人のお侍さんがついて行く事になった。
 そのお侍さんには、金沢に残した奥さんがいた。
 お侍さんは、絵がうまかった。
 そこで奥さんの絵を描き、それを掛け軸にして飾った。
 さみしさを、まぎらわせたんだ。
 やがて、お正月がやって来た。
 お侍さんは、まだ金沢に帰れない。
 奥さんの掛け軸を前に、お正月を祝った。
 お酒をのみ、お雑煮を食べる。
 その時、ふと思って。
「お前も、どうじゃ? 」
 そう言って、お雑煮のモチを差しだした。
 掛け軸の、絵の奥さんに。
 そしたら、絵の奥さんの口が、モゴモゴと動いた!
「さては、もののけが取りついたか」
 お侍さんは刀をとり、抜く手も見せず切り捨てた・・・!
 その夜、奥さんが夢枕に立つ。
 その表情は、悲しそうで、恨めしそうで、凄まじいものだった。
「もしや、妻の身に何か?! 」
 お侍さんは、1日も早く確めたかった。
 でも、季節は冬。
 金沢までの道は雪でおおわれ、どうやっても行けなかった。
 やがて、春になった。
 お侍さんのもとに、奥さんの死が知らされた。
 不思議なことに、正月のお祝いの時、突然死んでしまったと言う。
 その時、お侍さんは悟った。
「自分が、妻を殺してしまった!
 どういう理屈かは分からないが、あの正月の時、妻と掛け軸の絵は、同一のものだったのだ! 」
 お侍さんは、掛け軸を金沢に持ち帰った。
 そしてお寺に預け、手厚く弔ったと言う。
 ―◆――◆――◆――◆――◆――◆―
 
「その話を知ったとき、誓ったんです。
 不気味な絵を見ても、優しくしようって」
 私は、力説した。
 でも、今までの経験から言って、力説しても相手はポカーンになるのが大多数だな。
 そんなに変なこと言ってるつもりは、ないんだけどな。
「「なるほどね」」
 2人はそう言って、優しい視線を掛け軸に送った。
「最初に、写真を撮りましょう。
 手を入れる前の状況を、残すの」
 綾花さんのお母さんが、スマホで撮影しはじめた。
 良かった。 
 私も撮ろう。
 とはいっても、この掛け軸が不気味なのは、間違いないよね。
 どうしよう。
 家に持って帰ります。
「ダメよ」
 綾花さんのお母さんに止められた。
「1度広げたのに丸めたら、絶対ボロボロに崩れるわよ」
 その声は、やっぱり怯えていなかった。
「和紙は水に繊維を溶かして、ほら・・・・・・。
 網の上で左右にゆすりながら水を捨てて、乾かすでしょ。
 水に弱いのよ」
 そして、やり方を教わった。
 まず、ぬれた手をかわかす。
 次は掛け軸の水分をぬく。
 乾いたタオルを押し付けて、水分を吸いとった。
 決して、こすってはダメだ。 
「あとは、日陰でゆっくりかわかすの…
 ドライヤーとかで急速にかわかすと、シワになったり、ちぢんだりするから、だめよ」
 掛け軸は、そのまま置いてもらえることになった。
 修復ができるプロも、教えてもらえた。

―◆――◆――◆――◆――◆――◆―

 今度は人間が、落ちていた。
 
 一週間後の土曜日。休日。
 私は特大セキュリティ企業、ポルタ社の本社ビルにいた。
 綾花さんたちと、岩のりをとった海岸からは、まあまあ近い。
 荒い岩だらけの海辺を港湾施設にして建つ灰色のビル。
 高さと幅は60メートル、長さは200メートルある。
 プロゥォカトルとは共同で使用してる、ロボットの整備工場でもある。
 私のウイークエンダーのような50メートル級なら3機。
 100メートル級なら1機を整備できる。
 そこで今は、私のウイークエンダーが整備を受けてる。
 そして今日の仕事は、無人戦闘機ブリリアント・プレイヤーの遠隔操作。
 工場横のパイロット待機室で8時間の待機をしつつ、宿題をしてる!
 と言うとリッパそうだけど。
 宿題なんて何時間も続けられるものじゃない。
 終わってしまえば、あとはマンガでも読んで、ダラダラするだけ・・・・・・。

 イヤ、ダメだ!
 そうだ。
 自分の誇りがどこから来るのか、その原点を思い返そう!
 ①バースト
   20年前に発生した世界規模での超常発生現象。
   人間から、異能力者が現れた。
   私の友達にも炎を飛ばす能力者、平   時鳳くんがいる。
   国立の彼ら専門の学校、魔術学園に通っている。
 卒業すれば、その能力にあった仕事に就く。
 能力を使わなくても、それと向き合う強さをもって生きる。
②怪獣
   文字どおり、怪しい獣。
   サイズはポケットに入るものから、普通の動物の姿をしたもの。
 何十メートルもある巨体のものもいる。
   異能力者と同じ力を持ち、人間的な意思を示すこともある。
   時には嵐や地震などの自然災害を引き連れてくる。
   そして、その強大な力を狩猟に使う捕食者が、ハンター。
③ハンター・キラー
   ハンターを狩る者。
   私の仕事。
④ウイークエンダー・ラビット
   私の乗る赤い巨大ロボット。
   ゴツゴツした装甲は、首さえない。
   頭は肩から鉄骨を組み合わせた六角柱。
 柱は防弾ガラスをはめ、中にカメラを詰んだキューポラだね。
   格闘戦に特化した人型。ただし脚は逆関節。
   高さは53,1メートル。
   重量1,822トン。
 ああ、眠たい・・・・・・。

 その時だ。
 スマホが突然、鳴った!
「はい! スミマセン! 」
 口走ってしまった。
 通話相手は?
 『大谷 靖春』だった。
「ハレハル? 」
  本当はヤスハルと読むんだけど、アダ名で読んでやった。
 今日は非番のパイロットだ。
 幼馴染みで、中学のクラスメイトでもある。
 何だろう?
『うさぎか? ちょっと良いか? 』
 落ち着いてはいるけど、イラついてるみたいだね。
「何の用? 」
『怪獣を日本刀で切りたい、っておじさんを見つけた。
 話しかけたらガケ下に逃げた』

 ・・・・・・ちょっと前に、同じような事件があったな。
 その時は、助けに向かったハンターキラーが、大ケガしたんだ。
 また、そんな事が起こるのかな。
 イヤだな・・・・・・。
 ハレハルは、そういう人を説得するボランティアをしてる。
 タクシーを借りきって、1日海岸線や山の中を走り回るんだ。
 私たちは幸い、お金には余裕があるから。

『一緒にきて取材してた町田のチームが捕まえてくれた』
 町田 日菜ちゃんと、お供の妖精ハルとナツだね。
 彼女たち3人は、力をあわせて魔法の騎士になる。
 アージェント・キャバリアーって言うんだ。
 私たちのドキュメンタリーを作るため、取材して回ってる。

『おじさんはまだ、怪獣を切ると言い張って、降参しないんだ。
 ブリリアント・プレイヤーで、威嚇飛行をたのみたい』 
 威嚇飛行ね・・・・・・。
「アージェント・キャバリアーだって強力なハンターキラーでしょ。
 そのパワーを見せつければ良いんじゃないの? 」
『そう思ったんだけど、むしろ戦いたがってる。
 戦えば、不思議な事がおこって異能力が覚醒するって、信じてるみたいなんだ』
 
 こういう話を聞くたびに、気が重くなる。
 異能力者が現れてから、もう20年以上。
 その人たちを教える魔術学園だってある。
 それなのに、異能力者に変な妄想を抱く人がたくさんいるんだ。
「わかった」
 人助けだから、良いでしょう。
『ありがとう。場所はーー』
 そこは、綾花さんの家とポルタ社の間くらい。
 家も建てられない、荒海からすぐガケになる地域だ。
 そんなガケを下りるなんて、まともな思考じゃない。
「たいへんだ」
 待機室には、一人が入るドーム型テントがある。
 急いで飛び込み、ドアを閉める。
 目の前にジョイスティックやボタンが並ぶ。
 無人戦闘機ブリリアント・プレイヤーのコントローラに着いた。 
 備え付けのインカムをつける。
 すぐに、サイレンのスイッチ。
 ビーッ! ビーッ!と、けたたましい音がなる。
 ビルだけではなく、敷地全体に響く。
 これで全ての施設がスクランブル発進、その体制になった。
 私を取り囲むドームは、ドアもふくめて360度モニターになってる。
 今映しだされたのは、空港。
 シェルターの中。
 ポルタ社の裏山の上。
「こちら、佐竹 うさぎ。
 ブリリアント・プレイヤーを緊急発進させます」
 
 ビーッ! ビーッ!

「目的は」
 ・・・・・・何て言うんだろう?
「自分には怪獣をやっつける特別な才能があると思い込んだ変なおじさんへの、威嚇飛行」
 取り合えず、早く言うことを優先して。
『ブリリアント・プレイヤー、発進を許可します』
 これで通るんだ・・・・・・。
 モニターの向こうで、ブリリアントをおさめたシェルターの扉が開いていく。
 整備技師たちが走り去っていく。
 私はまず、ジェットエンジンを動かす。
 ブリリアントは、Fー15イーグルやFー35ライトニング2みたいな有名な戦闘機より、はるかに大きい。
 ほとんどを50メートル級ロボットと同じ構造で作られてるんだ。
 その機体はオレンジ色。
 
『わ! 』
 またハレハルだ。
 今度はなに?! 
『町田が、おじさんの刀を折っちまった! 』
 ・・・・・・そうか。

 ブリリアントの前にトラクターがつながれた。
 外へ引っ張ってくれる。
 薄暗い、顕著な大雪のなかへ。
 それでも、滑走路に雪はない。
 トラクターがはなれていく。
『ブリリアント・プレイヤー、発進どうぞ』
 ポルタ社の管理は、実に確かだね。
「佐竹 うさぎ。
 ブリリアント・プレイヤー、でます! 」
 吹雪に勝てるジェットエンジンが、空に運んでくれる。
 ドームの画面は、ポルタ社や荒れた海の景色を猛スピードで流していく。
 さて、どう飛ぼう。
 ブリリアントは超音速でも飛べる。
 けど、そのままでは、海岸線なんて3分かからず飛び去ってしまう
 ・・・・・・よし!
「ナイフエッジ、いくか」
 今回は時速700キロで行こう。
 こんな事もあろうかと、特訓してたんだ。
 一度、海上にでて体制を変えよう。
 ナイフエッジは、機体を90度かたむけて飛ぶやり方。
 変なおじさんに、ビビッドの翼全体をババーンと大きく見せるんだ。
 どんなわからず屋でも、これならグウの音もでない!
 ただし、問題がある。
 普通、飛行機は翼にあたった空気の流れを変えて、空気の圧力を変えて空を飛ぶ。
 それをやめて、エンジンだけで飛ぶんだ。
 しかも、機体が下に向かないように、下側のエンジンをメインに使う。
 そのエンジンには大きな負担がかかる。
 でも仕方がない。

 カメラが吹雪の向こうの海岸線を映しだす。
 だけど、その中からハレハルや町田さんたち、変なおじさんやタクシーを見つけるのには、AIの力を借りなければならなかった。
 あ、何かこっちに飛んだ。
 画面からはすぐ見えなくなった。
 AIがその何かの軌道を計算する。
 すぐ、海に落ちたらしい。 
 
 ん?
 またハレハルから電話だよ。
『ああ、佐竹。
 さっき変なおじさんが、折れた日本刀をおまえに投げてたぞ! 』
 ・・・・・・へ?
『何か異状はないか? 』
 ビックリした。
「無いよ。幸せなことに」
 あきれた変なおじさんだよ。
『よかった。
 よし、アイツは逮捕だ』
 スマホ越しに、パトカーのサイレンが聞こえてきた。

 飛行は、10分ほどで終わった。
 
―◆――◆――◆――◆――◆――◆―
 
 ブリリアントを飛ばした日から、雪は降りつづいてる。
 除雪された雪は山もり。
 人の背よりはるかに高く、駐車場など空いてるスペースを圧迫している。

 私の通うハテノ市立ハテノ中学校。
 その放課後。
 雪にも負けず、熱心に教室にあつまる人がいる。
 真ん中に丸い灯油ストーブをおいた、古びた教室に。
 外は、まだ少し明るい。
 お正月よりは昼が長くなってる。
 そこは良かった。

「はい、これ」 
 大きな紙袋を手渡された。
「ありがとうございます」
 確かに受け取った。
 中身は綾花さんたちと見つけた、あの掛け軸。
 今、修復が終わって帰ってきたんだ。
「山本先生、お礼のワッフルです」
 私からも紙袋をわたす。
 夕べ焼いたんだ。
 お菓子づくりは得意だから。
 ご家族皆さんで、どうぞ。
「これはありがたい。
 でも、先生はやめてくれ」
 そこは謙虚なんだ。

 綾花さんのお母さんに教わったプロが、サークル仲間の所なのはよかった。
 山本流絵画スクールの師範代、山本 飛燐。
 普段はトリンちゃんと呼んでるこの男子が、小学4年生の天才画家。
 なんでも、汚れた絵を直すのは、流派の免許皆伝の必須科目だとか。
 そう言えば、その絵を直す技術。
 大地震や大洪水に見舞われた絵を直すために、師範がはじめたって言ってたな。
 そして、私の動画のロゴも書いてくれた。
 その恩を、忘れてはおらん。
「あ、町田さん」
 あの人もきていた。
「これ、撮影する?
 日本刀おじさんと似たような犯罪の証拠かも」
 ニコッと笑って近づいてきた。
「それは興味深い」
 
 こういう、小中学生や高校生があつまるサークルがあるのは、便利だね。
 久近今来《くきんこんらい》シャイニー☆シャウッツ。
 それが私たちの動画製作サークル。
   久遠刧来という仏教用語がある。
   遥か彼方の、ずっと以前から。という意味。
   私たちは、見ている人がもっと近くに感じてほしい。
   いろんな物事を共有したいという願いを込めて、久近今来の言葉をつくった。
   シャイニー☆シャウッツは、直訳すれば輝けるさけびたち。
   未来への提言、みたいな意味をこめたつもりだよ。

 そして、能登地方は過疎化が進む地域。
 学校ごとにサークルを作っても、全然人数が集まらない。
 だから、こうやって複数の学校から人を集めて活動するんだ。
 制服も様々。
 それぞれの事情もあるから、いつもそろうとは限らない。
 私の弟と妹は小学校で居残り。
 2人の成績が悪いわけじゃないんだ。
 2人もハンターキラーだから。
 仕事をして学校へ行けなかった。
 この街の学校では、補習をうければ良いことになっているの。
 親友の安菜は、お家がパン屋をやってる。
 大口の取引があるとかで、そっちを優先してる。
 それでも今日は11人、ここに集まった。

「じゃあ、見せてね」
 そう言って掛け軸を広げようとした。
「イヤ、まてよ」
 これは幽霊画だから。
 見た人を怯えさせちゃ困る。
「となりの部屋で広げよう」
 そっちは、空き部屋なんだよ。
 私からさそったけど、さ・寒い。
 ストーブなんか、あるわけない。
 部屋のすみに重ねられた、教室机。
 それをその場で並べて、広げた。
「うーん。これはすごい」
 はじめてみた時は、にじんでいたのかな。
 幽霊ははじめてみた時より、くっきり、ハッキリ見えている。
 町田さんはスマホで撮影しはじめた。
 両肩から1人づつ、2人の小さな生き物が下りてきた。
 赤いサメみたいな顔に、手足を生やしたナツ。
 変なおじさん事件では、赤い名剣、ナツルギに変身していた。
「暗いな。
 ライトで照らそう」
 たしかに。
 ここは部屋の明かりが遠いから。
「そうね」
 青い鳥みたいなのがハル。
 事件の時は、羽で空を飛ぶ青い盾、ハルコウに変身していた。
 2人は町田さんのカバンから小さな、といっても2人には抱えるサイズのライトを取りだした。
 外は、だいぶ暗くなった。
 そのとき、扉がガラガラ開いた。
「あ、あの掛け軸直ったんだ」
 綾花さんが入ってきたんだ。
 その表情は、おびえてはなかった。
 トリンちゃんが答える。
「鶴林寺の千秋 伊左衛門寛定の絵を知ってる佐竹さんからのたのみだ。
 全力をつくしたよ」
 ・・・・・・ああ。月島さん母子に話した幽霊画の話だ。
 あのお寺、カクリンジって言うんだね。
 お侍さんは、ゼンシュウ イザエモンヒロサダね。
「それより、この掛け軸がきてから、変わったことはないか?
 幽霊画が勝手にあつまるようになったとか、見馴れない人影を見たとか」
 そしたら、綾花さんが。
「トリンちゃん、まるでホラーマンガの導入部みたいなこと聴くね」
 はやし立ててる。けどね。
「あるんだよ。それが」
 ・・・・・・ナンデスト?
「家族に被害は・・・ないみたい。
 でも、この掛け軸みたいな高価そうな物が海で見つかるのって、多いらしいよ」
 ・・・・・・それ、ホントですか?
「お父さんが言ってたな。
 カニをとる網に、高そうな油絵が引っ掛かったって」 
 綾花さんのお父さんは、漁師なんだ。
 海に大きな網を広げて、魚やカニをとる。
 冬は賀能ガニという高級なカニのシーズンでもある。
 カニがたくさん入った巨大な網。
 その中に入ってるところを想像した。
 この掛け軸みたいな、ホラーな絵なのかな。
 ゾーっとした。
「その絵、うちのスクールに運び込まれたぞ」
 トリンちゃん、油絵も直せるの?
「師範の手伝いだ」
 綾花さんは海の様子を語る。
「他にも、宝石のネックレスみたいなのが、海辺の木に引っ掛かってるのを見た人がいるって」
 綾花さん、今どきの海の仕事って、ホラーですか?
 この質問だけはグッと飲み込んだ。
「他にも、あるかもしれないけど、聴いておこうか? 」
 綾花さんの誘いに、トリンちゃんは。
「その話しは、警察に言っておけ。
 実はな、うちのスクールに通う警官から聴いた話なんだが・・・・・・」

―◆――◆――◆――◆――◆――◆―

 帰り道。
 すっかり暗くなった。
 お父さんが運転する車に乗って、小学校によって弟のみつきと妹のしのぶをのせて。
 途中で駐在所によってもらう。
 お巡りさんに、掛け軸を届けるんだ。
 中にはいると、壁に張ってあったチラシを指差した。
「これに当たるものを拾ったんですけど」
 チラシのキャッチコピーは。
{節目に自然に引き渡す
 それ、ふさわしい行為ですか? }
 一緒に写されてるのは、能登で捨てられ、並べられた物たち。
 節目に、か・・・・・・。

 ボロボロになった、高そうな絵画。
 真っ二つに、おれたバイオリン。
 金のネックレス。
 ワインが入ったままのビン。
 ラベルには、Romanee-Conti。
 ・・・・・・ロマネ・コンティって書いてある。
 私は、お酒は全然専門外。
 そもそも、さわらせてもらえない。
 それでも、その価値は分かるつもり。
 フランスのブルゴーニュという地方で作られる、世界最高級のワインだよ。
 栓は、開けられてなかった。
 でもこれも、割れたら危険なガラスの欠片だよね。

 それと、折れた日本刀。 
 あの、変なおじさんの刀だね。
 折れた部分は一瞬で焼かれて黒くこげ、溶けたため、ゆがんでいた。
 いまいましい。
 変なおじさんを逮捕した、その夜。
 ハレハルはポルタ社から水中ドローンを借りた。
 それで、海に落ちた刀の半分を回収したんだ。
 大事な犯罪の証拠だから。ってね。
 あ、刀のとなりに字を書いた紙がある。
{あなたの命}
 これは、変なおじさんたちのことだね。

 お巡りさんから、いつ、どこで拾ったか詳しく聴かれた。
 それを、お巡りさんが調書に書いていく。
 調書って、こう作るんだ。
 車にもどると、お父さんも弟妹も不満たらたらだった。
 ごめんね。
 でも私には、街のピンチが見えたの。

―◆――◆――◆――◆――◆――◆―

 節目に、か・・・・・・。
 駐在所でチラシをみてから、ずっと考えてる。
 この問題の、大きさを。
 調べてみたら、流し、という行事がある。
 有名なのだと、白線流し、灯籠流し。
 白線流しは、ドラマのタイトルにもなった。
 卒業式のときに制服の白いスカーフを友だち同士で結んで川に流すんだそうだ。
 
 灯籠流しも、有名な観光行事。
 お盆に帰った亡くなった人の霊を、川や海の向こうへ流す、帰すんだ。
 夜、ろうそくをつけた灯籠がたくさん流れていくのは、文句なく美しい。
 祓戸四柱大神と言う神さまもいる。
 悪いものを、海の底まで流してくれる4柱の神さまたち。
 それまで使っていたものを、節目のときに自然の中に流す。
 これは、日本では歴史ある普通のことなんだろう。

 だけど私は、イライラしてる。
 能登は自然が豊かだ。
 それで、世界農業遺産になったくらい。
 だから、流しをしたい人にとっては絶好の場所なんだろう。
 だけど、そこに物を置いていくのは、やっぱりポイ捨てだよ。
 能登は私たちの生活の場なんだよ。
 犯罪だよ。
 イベントとしてやっているところは。
 白線流しは、ちゃんとあとで回収する。
 灯籠流しの灯籠は、自然に帰る素材で作ってある。
 ちゃんと考えてるんだ。
 
―◆――◆――◆――◆――◆――◆―

 でも今日から、そのイライラが少しおさまるかもしれない。
{流しポイ捨て展示会}
 今日から市立図書館で始まる、展示会のお陰でね。
 流しポイ捨て。
 名付けたね。
 警察は流しポイ捨てされた物を、たくさん保管してたんだ。
 図書館には、隣り合う会議室と多目的室がある。
 この2部屋は間の壁を移動させれる。
 まとめて大きな部屋としてつかえるんだ。 
 今は机にのったガラスケースがならぶ。
 展示品はケースの中だ。
 シャイニー☆シャウツは、警察から招待されてるんだ。
 今日は来れなかったメンバーも、そのうちきっと来ると思う。
 今日は安菜も一緒にきたんだ。
 町田撮影隊は、私たちを撮影にきてる。
「あなたたちが思ってる以上に、お2人は麗しく、バラ色の青春と思われてるのですよ」
 青い小鳥のハルが、やたら目をキラキラさせている。
 まあ、仲良きことは美しいとは思うけどさ。
「後日、今日の感想をナレーションでいれてもらいます」
 町田さん、OK。

 掛け軸や絵は、しきりの向こうで壁にかけられてる。
「これが、トリンちゃんが直した絵か」
 綾花さんのお父さんが引き上げた絵ね。
 良かった。ホラーじゃなくて。
「キレイな絵だね」
 安菜 デ トラムクール トロワグロ。
 あなたの金色の髪と、チョコレート色のはだの方がキレイだよ。
 説明文がある。
 アムステルダムの港、と言う絵だった。
 描いたのは、クロード・モネさん。
 これは、その複製画なんだ。
 そして、発見された場所が記されてる。
 絵には、黒い帆船が何隻も描かれてる。
 帆をたたんで、港で休んでる。
 暖かそうな白い雲、青空。
 左右にとどまる帆船たちの間に、人が1人、2人乗ったボートがうかんでる。
 のんびりした感じがする。
 そして、その絵のとなりにあるのが。
「これが、あんたが拾った掛け軸ね」
 そう。
 いつも強気な安菜が、ブルッとふるえてる。
 本当に不気味な絵だよね。
 それは否定しない。
 油絵は、もう1枚あった。
 チラシにのってた、修理のチャンスがなかった絵だ。
 元が、わからないくらい崩れてる。
 真ん中には穴まで空いてる。
 波にもまれたあいだに、絵の具も流されてる。
 背景は濃い緑。
 中央に紫色のドレス?
 その人の顔が、穴になっていた。
 これら三枚についての、説明文がある。
{絵の具やプラスチックなど石油を化合した物は、自然に分解されません。
 細かく砕けても、生き物に食べられた後で毒になることがあります}
 
 それにしても、結構な人がきてるな。
 そう言えば、昨日の夜のニュースで宣伝してた。
 他にも宣伝してたんだろう。
 ガラスケースの中に、ネックレスがならんでる。
 金のネックレスがある。
 これも綾花さんが言ってた。
 金の鎖に下げられた、M、の形のヘッド。
 字のはしがくるんと回ってる。
 左側のくるんに、エメラルドが緑に輝いてる。
 そして文字の中にならぶ、透明なきらめき。
 まさか、ダイヤモンド?!
「ガラス玉よ。
 でも、手間がかかった良いものよ」
 安菜、わかるの?
「それなりにね」
 そうなんだ。
 このM、何かの頭文字かな。
 誰かの名前なのか、持ち主のポリシーなのか。
 茶色い皮を編んだレザーのひもに、金のヘッドを下げたものも。
 白くて丸いパールのネックレスもある。
 って、銀の十字架が下げられてる。
 ロザリオだ!
 な、なんて罰当たりな。
 ここの説明文は。
{ネックレスのワイヤーが機械に絡まると、故障の原因になります}
 ・・・・・・どんな貴重なものも、捨てられれば不幸のもとになるんだ。
 おれたバイオリンだ。
 これはチラシで見た。
 青いガラスの花瓶がある。
 表面を、房の大きなブドウがおおってる。
「こっちのは、ミズバショウがモチーフだね」
 ガラスの置物だね。
 左右に大きくのびるミドリの葉っぱ。
 その間から、透明な花がたってる。
 真ん中からのびる花(正確には葉が変化したものらしい)も、ひし形。 
 良くわからない形のオブジェもある。 
 さすがに、ロマネ・コンティの前には人だかりができていた。
「フーン」
 安菜が1つ、ため息をついた。
 何か悟った、あきれたようにも見える。
「流された物の傾向がわかったのよ。
 どれも高級品だけど、実用品がない。
 ロマネ・コンティだけは、例外だけど」
 そう言えば、お酒のロマネ・コンティ以外は、飾り?だよね。
 おなじ高級品でも腕時計や衣服みたいな物が、ない。
 どうでも良い物ではない気もするけど。
 いえ、どうでも良い物であってほしくないけど。
 残された人には、使い道が分からない品、と言うのはありそう。
 そう言う意味では、この刀も、そうかもだね。
 町田さんが折って、私に投げつけられた、あの刀。 
 ここは、{あなたの命コーナー}ね。

『フン! クソッ! 』
 どこからか、不自然にかん高い声がする。
 そうだ。 
 この部屋の壁の一方には、映画館みたいなスクリーンとスピーカーがあるんだ。
 誰がスクリーンに映し出されたのか、すぐ分かった。
「これよ。怪獣を切りにきた、変なおじさん」
 顔にモザイクがかけられ、声も加工されてる。
 この刀が折られたときの様子だ。
 アージェント・キャバリアーが撮影した物だ。
 その黒い鎧は、全ての花を燃え上がらせ、その色を重ねた魔法炎。
 その兜につけた、小型カメラの映像だね。
 赤い炎の剣、ナツが変身したナツルギ。
 ひときわ輝き、日本刀を折った。
 熱で切ったためか、音はなかった。
『『『うわっ! 折っちゃった! 』』』
 アージェントの3人だ。
『わ! 』
 「わ! 」はハレハルだ。
『町田が、おじさんの刀を折っちまった! 』
 ここは私もスマホで聴いた。
 4人とも声が加工されてるから、なんだか、おもしろいな。

 そろそろ、タイミングだな。
 絶え間ない海の波音のゴー。
 それを突き破る、エンジン音のゴー。
「この後、出てくるブリリアント・プレイヤー、私が動かしてるんだよ」
 安菜は「フーン」とだけ言った。
『ほらおじさん! あれ見なよ! 』
 ハレハルが、重なるゴーの音に負けないように、声を張り上げる。
 おじさんが後ろを向く。
 カメラも、その視線をおった。
 巨大なオレンジ色の鉄のひし形が、猛スピードで通りすぎた。
 轟音が一気に激しくなる。
 その中で、おじさんが残った日本刀を投げつけた。
 本当に、そんなことするんだ!
 この時「エイッ! 」とか気合いの声を上げたかもしれないけど、それは聞こえなかった。
 ハレハルが横から殴りかかった。
 おじさんはあっけなく倒され、ジタバタする。
 それでも、ハレハルにのしかかられたまま、動けない。
 ジェットの音が小さくなっていく。
『アージェント!
 こいつを押さえててくれ! 』
『分かったわ』
 カメラが近づき、おじさんだけが映し出される。
『ああ、(ピー)。
 さっき変なおじさんが、折れた日本刀をおまえに投げてたぞ! 』
 ハレハルが私に電話をかけてる。
 私の名前のところに、ピーと音を入れてる。
 画面に字幕が入る。
 無人戦闘機の操縦者に電話をかけている。って。
『何か異状はないか? 』
 この時はビックリしたね。
『よかった。
 よし、アイツは逮捕だ』
 パトカーのサイレンが聞こえてきた。
 おじさん、これだけでも生きざまが残せたんだ。
 これであきらめなさい。

 あなたの命コーナーには、他にも武器が並んでいた。
「銃もあるね」
 そうね。

 スクリーンの映像がかわった。
 夜の海からカメラ岩場の波打ち際だ。
 カメラ近くのライトだけが、明かりだ。
 同時にレーダー観測も映される。
 細長い物を見つけた。
 そうか。
 ハレハルが、刀の投げつけられた方をさがしてるんだ。
 これは、海中ドローンの映像だね。
 ロボットのアームがのびて、刀を岩のあいだから引き抜いた。

 安菜はガラスのケースに顔を近づける。
 展示品の銃の口を見てるみたいだ。
「「4ベアのライフルか」」
 私と安菜が同時に言った。
 そうそう。
 ティラノサウルスの頭ガイ骨を撃ち抜ける。
 アメリカでは、民間で手に入る一番強力なライフル。
 説明文を見て分かった。
 あの、ハンターキラーが助けようとして大ケガした事件。
 その、変なおばさんからの押収品だよ。
 
 あれ?
「安菜、わかるの? 」
 意外かも、こんな武器のことを知ってるなんて。
「うん、フランスのおじいちゃんが持ってる。
 ゾウやサイみたいな、大型動物を撃つための銃、と言うか、砲だよね」
 そうね。
「まあ、今じゃ作ってないはずだよ。
 おじいちゃんのも、マッチョだった若い頃の、思いでの品だって言ってたし」
 フーン。
 それにしても、日本刀にしろ4ボアライフルにしろ、怪獣を相手にするには威力が足りないよ。
 その反面、人間には強力すぎる。
 撃った人の肩が壊れる。
 連射もできないし。

 ジリジリ ジリジリ・・・・・・

 ん?
 MCOの音だ。
 イタッ!
 右手を包み込むように、痛みが走った!
 なに?
 右手を見る。
 銀色の、鉄の色の粒々がまとわりついてる。
 砂あらしのようにも見えるそれが、後ろに引っ張ってる!
 そう思ったら、MCOはすぐ消えてしまった。
 ・・・・・・なにかを見せようとしてたの?
 引っ張られたのは、後ろだ。
 振り向くと、出入り口?
「うさぎも聞こえた? 」
 安菜も、同じように向いていた。
「うん」
 彼女も、私とおなじタイミングでMCOを感じる力をさずかった。
 町田さんたちが、キョトンとした表情でとまどってる。
 けど、すぐに私たちとおなじ方向にカメラを向けた。
 撮影者のカン、かな。
 出入り口を向いてる。

 制服を着た、2人組の警官が入ってきた。
 となりには、30代? くらいの夫婦? が一緒だ。
 その夫婦の足元に、MCOが円を描いて回っている。
 まるで「この2人だよ」と言うように、波うちながら。
 4人は、私の拾った掛け軸を見始めた。

 こっそり、ひっそり。
 私は4人の背後に近づく。
 安菜も忍び足でついてきた。
 一緒に聞き耳をたてる。
「この掛け軸ですか? 」
 警官が質問してる。 
「ええと、これでしょう。
 でも、海におとしたにしてはキレイに見えますけど」
 とまどってる。
 奥さん? らしき人が答えた。
 やっぱり、そう思うんだ。
「拾った人が、修理にだしたそうですよ。
 海に浮かんだままだと、溶けてなくなっていたそうです」
 やっぱり、捨てた人たちなんだ!
「拾った人なら、ここにいますよ」
 ?
 誰だ? 私を言うのは。
「ナツです」
 町田さんがアシスタントの、赤いサメの精霊の首根っこをつかんでぶら下げた。
「悪かったかなぁ? 」
 そう言うナツにダメージはなさそうだね。
 良かった。
「ああ、あ」
 変な声がする。
 夫婦? が、驚きすぎてポカーンとしていた。
 ゲゲゲの鬼太郎に合ったみたいに。
「あ、あの。
 サメの精霊さんですか?」
 奥さん? が、たずねた。
「サメじゃありません!
 刀です! 」
 そくざにナツが叫んだ。
 ・・・・・・サメじゃないんだ。
「「失礼しました」」
 夫婦? が頭を下げた。
 精霊はバースト以降、広く知られるようになった。
 けど、直接見た人はまだ少ないはず。
 ちゃんと礼儀を守れる人なら、話が分かりそう。
「それで、拾った人というのは・・・・・・」
 私です。
「佐竹 うさぎと言います」
 名のったけど、それでウイークエンダー・ラビットのパイロットだとは気づけなかったみたいだ。 
「あなたたちが、この掛け軸を捨てたんですか? 」
 MCOの動きはない。
 これで望みどおりみたいだ。
「その通りです」
 夫さん? が答えた。
「私は烏丸 渡。
 こちらは妻の、めぐみです」
 カラスマ ワタルさんとメグミさんね。
 夫妻は、おずおずと話し出した。
「ありがとう、と言でうべきでしょうか。
 お手数おかけしました」
 渡さんが頭を下げた。
「ちゃんと、全て話すべきかな」
 弱々しく、めぐみさんに聴いた。
 めぐみさんは「そうね」とつぶやいて、説明を引き継ぐ。
「この幽霊画は、去年の暮れに亡くなった、父のものです。
 まだ60代でした。
 定年直後だったんですよ」
 60代、か。
 あり得なくはないけど、若いな。
「それは、御愁傷様です」
「御愁傷様です」
 私と安菜は、そう言って頭を下げた。
「ありがとうございます」
 夫婦も頭を下げてくれた。
「あの、ことの顛末を言わせてください」
 そして、語りはじめた。
「父は、定年してから、人の死にまつわる研究をはじめました。
 偉いお坊さんや宗教学者、哲学者の本を買うとか。
 この幽霊画も、そのとき買ったものです。
 自分も年を取った。
 これからは、来るべき運命について考えたい。と言って。
 私たちは、それをずいぶんなじったんですよ。
 何、気の弱いことを言ってるの。
 そんな不気味なものを集めるのはやめて。
 老後の資金をためるために働いてくれ。って。
 そしたら・・・・・・」
 めぐみさんは言葉をつまらせた。
「あれは急性の病気だったんだ」
 すぐ、渡さんが寄り添った。
「君のせいじゃないよ」
 それでも、めぐみさんは自分を許せなかったみたい。
「たとえ死因がそうでも、安らかに暮らせたかどうかは私たちに責任があります! 
 でも、父のコレクションをどう扱えば言いか、分からなかったのです! 
 本も掛け軸も。
 どこへ持って行っても、この絵が、訳のある品だと思われて、詮索されそうな気がして。
 父への不義理を指摘されそうで、怖かったんです! 」
 と言うことは、ほかにも死にまつわる本が海を漂っているわけだ。
 渡さんも訴えた。
「能登の海に捨てたのは、豊かな自然の中なら、父の遺品も安らかに終われるような気がして・・・・・・」
 許せない、と言う気持ちはあった。
 理由はどうあれ、2人がやった事は犯罪だ。
 だけど、警察に自首したんでしよ。
 ならば罪を償う気があるんだね。
 だったら、私は・・・・・・。
 そうだ。今は2月だ。
「烏丸 めぐみさん」
 私に呼ばれて、めぐみさんは「はい! 」と背筋を伸ばした。
 質問が必要だ。
「あなた、お父さんにバレンタインデーのチョコをわたしますか? 」
 この質問に、かなりとまどったみたいだ。
 だけど、とまどってもらう暇はない。
「わたします。毎年でした」
 それは、売っている物ですか?
 それとも手作り? 
「売っているものです。
 こだわって買ってはいますよ」
 そうですか。
 なら、得意分野だね。 
「しばらく時間をください。
 烏夫妻に、お土産をわたします」
 今度は警官たちが、とまどう番だ。
「まあ、ここの展示品をじっくり見せるつもりできたから。
 だけど、何をするのかは知らんが。
 なぜそんな手間のかかることをする? 」
 フム。良い質問だね。
「私にできる、元気になる方法を考えました。
 ここの事が嫌な思い出になって、能登をきらいになったら、嫌だから」
 私は、展示室をスタスタ出た。
「チョコレートのレシピを書くだけです」
 ガラスの壁越しの、休憩スペースのイスと机へ行く。
 カバンからノートをとりだし、使ってないページを1枚やぶいた。
 後は赤と黒のボールペンと、6色の蛍光ペン。
 まあ、向こうにも都合があるから、全部は使わないかも。
 タイトルは。 
{バレンタインデーに劇場型スイーツ
ドームチョコレート}

―◆――◆――◆――◆――◆――◆―

☆はじめに
 まずチョコは必ず湯せんでとかします
 50~55℃のお湯をわかします。
 わかしたら火を止めて、かわいたボールをお湯につけます
 このときボールの中に水分があるとチョコは均一にとけません
 チョコはかならずこなごなにつぶしてからとかします
 熱すぎるとチョコのなかの油が分離して失敗します

☆調温作業
 まずは50度まで温めます
 わりと早いですよ
 つぎにチョコの入ったボールを冷水につけて27度まで冷まします
 そこからもう一度湯せんで30~32度にします
 この調温作業をすると、ココアバターが安定した結晶になります

☆ドームの形を作る
 つぎに直径7.5センチくらいの球形の型を用意します
 液体のチョコを少し入れます
 グルグルひるがえすように回して型の内側全体に引っ付けます
 チョコは厚くしすぎません
 これは常温でやします
 そして取り出せば半球のドームです
 これは二つ作ります

☆中身はお好みで
 このドームの中に好きなお菓子をいれます
 フルーツでもアイスでも
 入れ終わったらフタをします
 フタをするときはフライパンなどで割れ目をちょっと熱すると重ねたときにくっつきます
 ドームチョコレートの完成です
 下に生クリームなどで土台を作れば、転がりません

☆真の完成
 食べるとき、50度のチョコソースをかけましょう
 ドームがみるみるうちに溶けます
 中からもうひとつのお菓子がでてくれば見た人をビックリさせるでしょう
 
―◆――◆――◆――◆――◆――◆―
 
 さて、清書だ。
 {バレンタインデー}は黄色の蛍光ペンで書く。
 {バ}の左はしはクルン。
 はね上げて丸めて、中に緑の丸。
 展示品にある、ネックレスのMのヘッドみたいに。
 展示会のことを、この紙を見るたびに思い出すように。

 チョコレートの茶色は、赤ボールペンに緑の蛍光ペンを重ねた。
 代わりにしては、きれい。
「できた」
 夫妻は?
 ガラスの壁ごしに私を向いてポカーンとしていた。
 さては誰か、私がウイークエンダー・ラビットのパイロットだと言ったな!
 怖がってるかな。
 まあ良い。いつもの事だから。
 私は、大切だと思うことをするだけだよ。
 そう言えば、MCOのジリジリ音が聞こえない。
 問題ない、の意味なのかな。
 だったら良いな。
「手作りチョコの素晴らしさを広めるため、お父さんに最後のバレンタインチョコを作ってください」
 それが、私が示すメメントモリ(死を忘れるな)です。
 めぐみさんはレシピを受け取ってくれた。 
「はじめてだけど、がんばります」
 良かった。
 おびえていなかった。
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