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神の傑作
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「オートバイに乗っているように見えるか? 歩いて入ってきたに決まってんだろ」
「そういう意味ではないのだけれど」
(自動二輪って概念をスルーしたのは、当然のものとして認知しているからか、それとも、ただ流しただけか。ここの生き残りなのか、それとも、俺と同じ侵入者か……または、それ以外の特異な何かか……)
「外界の者は、ここには入れないはず……どうやって……いえ、いいわ。答えなくて」
その女は、淡々と、無表情に、
「不思議ではあるけれど、『どうしても答えを聞かなければ気がすまない』という訳ではないから」
「そうかい。助かったよ。俺にも、理由は分からないんでね」
「とりあえず……それ以上、近づかないで。そして、すぐに帰りなさい」
「恥ずかしがり屋さんなのかな、それとも孤独主義かな? もし後者だったら、気持ちは分かるぜ。ボッチってのはいいよな。誰にも邪魔されず、自由で、静かで、豊かで、なんというか、救われているって実感できる」
「絶望したくないなら、帰りなさい。死にたいなら、勝手にしなさい」
「選択肢をくれんのかい。優しいねぇ。しかし、穏やかじゃないねぇ」
「ワタシに近づくと、アレが動く。アレが動けば、ワタシ以外、全員死ぬ」
「だよなぁ。アレは恐いもんなぁ。美味しいんだけどなぁ。恐いのは頂けねぇよなぁ」
「……」
そこで、その美女は、はじめて、センの方に顔を向けた。
無表情のまま、しかし、確かな不快感を張りつけた表情。
その顔を見て、センはニっと笑い、
「ようやくこっちを向いてくれたな。こんにちは」
「………………こんにちは」
「センだ。こっちはアダム。そっちは」
「ユンドラ・エルドラド」
「フルネームの自己紹介、いたみいるぜ。それじゃあ、そろそろ建設的な話をしていこうか。――アレってのは?」
「……」
「答えたくないか? なら、別の質問を――」
「アレは――」
「答えてくれんのか。なら、さっさと言え、なんて無骨な事は言わないさ。各々のタイミングってのがあらぁな。――で、アレってのはなんなのかな?」
「――神の傑作」
「いいねぇ」
言いながら、センは、心の中で、
(まあ、今までの神生で、8回くらい、その称号を持つヤツを相手にした事があるわけだが……そんな空気が読めていない事は言わないさ)
「アレには誰も敵わない」
「誰も……ねぇ。神の手によって生まれた創作物なのに、神でも勝てないのか?」
「神は死んだ」
「ぶふっ」
「……何?」
「いや、悪いな、笑うつもりはなかったんだ。全面的に謝罪する。申し訳なかった。失礼だったと反省はしている。どうか、気にせず、続けてくれよ、ニーチェ先生」
「ワタシはユンドラなのだけれど?」
「ああ、もちろん、そうだとも。それで? 神が死んだって話だが、なぜそれが分かる? 神の葬式に参加した経験でもおありなのかな?」
「そうでなければおかしいというだけ。神は、きっと、もういない」
「その結論に至った根拠がほしいねぇ」
「いくら呼びかけても、返事をしてくれた事がない」
「それが不在証明になるかっつぅと、微妙なところだが……まあ、どうとらえるかは個々の自由さ。好きにすればいい」
そこで、センは、コホンと息をついて、
「ところで、お前に近づくと、噂のアレが動くって話だが、どの程度近づけば、その『アレ』とやらが動き出すのかな?」
「ワタシを拘束しているエリアに入った瞬間。具体的に言えば、そこから後、10歩ほど、ワタシに近づいたら、アレは動き出す」
「10歩か。と言う事は、後9歩か?」
一歩、前に進んでそう言うと、
「死にたいの?」
「せいかーい」
センは、おざなりの拍手をして、
「正式には死にたいではなく『終わりたい』なんだが……まあ、俺以外のヤツからすれば、些細な違いさ。気にしなくていい。――あと8歩」
「忠告はした。もう止めない」
「ありがたい判断だ。わずらわしいのは嫌いでね。ところ、一つ、聞いていいかな?」
残り、7歩。
「あんたは、なぜ、拘束されている?」
「分からない」
「おやおや、そいつはもしかして、約束された勝利の『記憶喪失』ってヤツかな? これ以上、テンプレ増し増しになると、こちらとしては、色々と辛くなってくるのだが」
「記憶を失った訳ではない。ワタシは、いくつかの情報をインプットされた上で、『ここ』に発現した現象。『外界の者は、ここに入る事はできない』という事や、『部外者が、そのエリア内に足を踏み入れたらアレが動く』という事は知っている。しかし、ワタシが、なぜ、ここに存在しているのかは分からない。なぜ、ワタシが外にでようとすると、アレが邪魔をしてくるのか……ワタシは、何も知らない」
「ふむふむ、そっちのパターンね。――あと、六歩」
言いながら、心の中で、
(……『この空っぽの都市には、そもそも誰も入ってくる事はできない』……のに、『その中にある、このエリア内に、誰かが入ってきた場合は、アレが動く』ときたか……くく……笑わせるじゃねぇか)
残り、5歩。
「一つ聞かせてくれ」
残り3歩。
「そこから出たいか?」
「逆に聞きたいのだけれど、ここに居続けたいと思う?」
「俺はごめんだ。しかし、俺の事はどうだっていい。生き物ってのは不思議なもんで、種族は同じでも、個体ごとに全く趣味嗜好が異なる。『何もない道路の上で永遠に漂っていたい』と思うヤツがいても不思議ではない。という訳で、そろそろ俺の質問に答えようか。そこから出たいか?」
「出たいわね。外の世界を見てみたい。ここで、ただ朽ち果てるだけだなんて嫌。けれど、無理。あたしはここから出られない」
「アレが邪魔をするからか?」
「そう。アレがいる限り、ワタシはここから出られない。つまり、永遠に出られない」
「くく……じゃあ」
残り一歩。
「まずは、その幻想をブチ殺そうか」
「は?」
「気にすんな、ただのテンプレだよ」
残り、0歩。
「そういう意味ではないのだけれど」
(自動二輪って概念をスルーしたのは、当然のものとして認知しているからか、それとも、ただ流しただけか。ここの生き残りなのか、それとも、俺と同じ侵入者か……または、それ以外の特異な何かか……)
「外界の者は、ここには入れないはず……どうやって……いえ、いいわ。答えなくて」
その女は、淡々と、無表情に、
「不思議ではあるけれど、『どうしても答えを聞かなければ気がすまない』という訳ではないから」
「そうかい。助かったよ。俺にも、理由は分からないんでね」
「とりあえず……それ以上、近づかないで。そして、すぐに帰りなさい」
「恥ずかしがり屋さんなのかな、それとも孤独主義かな? もし後者だったら、気持ちは分かるぜ。ボッチってのはいいよな。誰にも邪魔されず、自由で、静かで、豊かで、なんというか、救われているって実感できる」
「絶望したくないなら、帰りなさい。死にたいなら、勝手にしなさい」
「選択肢をくれんのかい。優しいねぇ。しかし、穏やかじゃないねぇ」
「ワタシに近づくと、アレが動く。アレが動けば、ワタシ以外、全員死ぬ」
「だよなぁ。アレは恐いもんなぁ。美味しいんだけどなぁ。恐いのは頂けねぇよなぁ」
「……」
そこで、その美女は、はじめて、センの方に顔を向けた。
無表情のまま、しかし、確かな不快感を張りつけた表情。
その顔を見て、センはニっと笑い、
「ようやくこっちを向いてくれたな。こんにちは」
「………………こんにちは」
「センだ。こっちはアダム。そっちは」
「ユンドラ・エルドラド」
「フルネームの自己紹介、いたみいるぜ。それじゃあ、そろそろ建設的な話をしていこうか。――アレってのは?」
「……」
「答えたくないか? なら、別の質問を――」
「アレは――」
「答えてくれんのか。なら、さっさと言え、なんて無骨な事は言わないさ。各々のタイミングってのがあらぁな。――で、アレってのはなんなのかな?」
「――神の傑作」
「いいねぇ」
言いながら、センは、心の中で、
(まあ、今までの神生で、8回くらい、その称号を持つヤツを相手にした事があるわけだが……そんな空気が読めていない事は言わないさ)
「アレには誰も敵わない」
「誰も……ねぇ。神の手によって生まれた創作物なのに、神でも勝てないのか?」
「神は死んだ」
「ぶふっ」
「……何?」
「いや、悪いな、笑うつもりはなかったんだ。全面的に謝罪する。申し訳なかった。失礼だったと反省はしている。どうか、気にせず、続けてくれよ、ニーチェ先生」
「ワタシはユンドラなのだけれど?」
「ああ、もちろん、そうだとも。それで? 神が死んだって話だが、なぜそれが分かる? 神の葬式に参加した経験でもおありなのかな?」
「そうでなければおかしいというだけ。神は、きっと、もういない」
「その結論に至った根拠がほしいねぇ」
「いくら呼びかけても、返事をしてくれた事がない」
「それが不在証明になるかっつぅと、微妙なところだが……まあ、どうとらえるかは個々の自由さ。好きにすればいい」
そこで、センは、コホンと息をついて、
「ところで、お前に近づくと、噂のアレが動くって話だが、どの程度近づけば、その『アレ』とやらが動き出すのかな?」
「ワタシを拘束しているエリアに入った瞬間。具体的に言えば、そこから後、10歩ほど、ワタシに近づいたら、アレは動き出す」
「10歩か。と言う事は、後9歩か?」
一歩、前に進んでそう言うと、
「死にたいの?」
「せいかーい」
センは、おざなりの拍手をして、
「正式には死にたいではなく『終わりたい』なんだが……まあ、俺以外のヤツからすれば、些細な違いさ。気にしなくていい。――あと8歩」
「忠告はした。もう止めない」
「ありがたい判断だ。わずらわしいのは嫌いでね。ところ、一つ、聞いていいかな?」
残り、7歩。
「あんたは、なぜ、拘束されている?」
「分からない」
「おやおや、そいつはもしかして、約束された勝利の『記憶喪失』ってヤツかな? これ以上、テンプレ増し増しになると、こちらとしては、色々と辛くなってくるのだが」
「記憶を失った訳ではない。ワタシは、いくつかの情報をインプットされた上で、『ここ』に発現した現象。『外界の者は、ここに入る事はできない』という事や、『部外者が、そのエリア内に足を踏み入れたらアレが動く』という事は知っている。しかし、ワタシが、なぜ、ここに存在しているのかは分からない。なぜ、ワタシが外にでようとすると、アレが邪魔をしてくるのか……ワタシは、何も知らない」
「ふむふむ、そっちのパターンね。――あと、六歩」
言いながら、心の中で、
(……『この空っぽの都市には、そもそも誰も入ってくる事はできない』……のに、『その中にある、このエリア内に、誰かが入ってきた場合は、アレが動く』ときたか……くく……笑わせるじゃねぇか)
残り、5歩。
「一つ聞かせてくれ」
残り3歩。
「そこから出たいか?」
「逆に聞きたいのだけれど、ここに居続けたいと思う?」
「俺はごめんだ。しかし、俺の事はどうだっていい。生き物ってのは不思議なもんで、種族は同じでも、個体ごとに全く趣味嗜好が異なる。『何もない道路の上で永遠に漂っていたい』と思うヤツがいても不思議ではない。という訳で、そろそろ俺の質問に答えようか。そこから出たいか?」
「出たいわね。外の世界を見てみたい。ここで、ただ朽ち果てるだけだなんて嫌。けれど、無理。あたしはここから出られない」
「アレが邪魔をするからか?」
「そう。アレがいる限り、ワタシはここから出られない。つまり、永遠に出られない」
「くく……じゃあ」
残り一歩。
「まずは、その幻想をブチ殺そうか」
「は?」
「気にすんな、ただのテンプレだよ」
残り、0歩。
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*この作品は“小説家になろう“にも掲載しています
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