90 / 380
『命』が完成した。
しおりを挟む
6時間が経過した時、ようやく、サイケルは膝をついた。
一度、プルプルッと震えてから、バタンと倒れ込む。
そして、動かなくなった。
――とてつもなく長い闘いだった。
ひたすら回避タンクに徹するアダムと、その後方から『貫撃』の魔法でチマチマと削っていくユンドラ。
泥臭く、血なまぐさく、みっともなく、しかし、二人は闘いきった。
その様子を見ていたセンは、アクビをしながら、
(長かったなぁ……いや、こうなるのは分かっていたけどさぁ。アダムもユンドラもサイも、全員、ハンパにHPと防御力が高くて、けど、火力はおしなべて低いから、なかなか決着がつかないっていう……まあ、それでも、神同士の闘いほど退屈じゃなかった訳だが……それ考えると、俺らの闘いって本当に酷いな)
間合いを奪い合う無音無動の睨みあいだけで一日が終わった事もある。
やっている当人連中は、まだ、真剣に闘っている分、そういう意味ではマシだが、見ている側としては地獄である。
「はぁ、はぁ……はぁ、はぁ…………はぁ……アダム……感謝するわ……本当に、心から」
ふいに、ユンドラが、アダムに礼を述べた。
感極まって、つい声が漏れてしまったといった感じ。
「ぁあ……勝て……た……」
右目から涙がこぼれた。
「出ら……れる……信じられない……ワタシは出られる!!」
喜びと疲労から、情緒が若干、おかしくなっている。
自分でも分かっているが、止められない。
ユンドラが、そんな『後から振り返ると恥ずかしくて死にたくなる現象』に陥っていると、
「解析――完了――」
倒れたまま顔だけをあげたサイケルの目が青白く輝き、
「不完全ナ神ノ種――今ナラバ、マダ――奪イ取レル――僥倖――」
アダムが、
「ん、なんだまだ生きていたのか。しぶといヤツだ。今、楽に――」
トドメをさそうとした、その時、
――彼女の肉体が、
パァァァァァァァァンンンッッッ!!
と、膨張しすぎた風船のように弾け飛んだ。
「――なっ??!!」
バラバラになったアダムの肉片を目の当たりにして、ユンドラが悲鳴をあげた。
血は一瞬で蒸発し、パラパラと無数の毛髪が宙を舞う。
そして、その欠片が、
「スゥウウウウゥ!!」
サイケルに吸い込まれていく。
それは、コンマ数秒の出来ごと。
知覚が追いつかない、ほんの一瞬の出来事だった。
――アダムの『全て』を体内に取り込んだ、その瞬間、
サイケルの全身が、
「キタァアアアアアアアアア!!」
プシュゥウっと黒煙を吐きながら、カァアアアアっと強く発光しだした。
常人の眼であれば一瞬で潰れるほどの光量。
とんでもない勢いで噴出された黒煙はどんどん激しく強くなり、
ついに、その空間は、輝きと黒煙だけに包まれた。
そして、五秒後、
「ぷはぁ……すぅう……はぁ……」
サイケルが深呼吸をすると、黒煙は薄くなり、輝きもおさまっていった。
「はぁ……はぁ……」
アダムを取り込んだサイケルは、先ほどまでの、『ケルベロス亜種を無理矢理人型にしたような無理のあるフォルム』ではなく、完全な『人』の形状になっていた。
『アダムをモデルとした魔人』といった風貌。
スラリと伸びた肢体。
その先にある手首と足首に、鉄の枷がついているが、鎖は外れている。
「……素晴らしい」
サイケルは、自身の両手をまじまじと見つめながら、
「私は、今、神になった。『究極』に至った魂。……わかるか、ユンドラ。……すなわち……」
とても、穏やかな口調で、
「――『命』が……完成したのだ」
一度、プルプルッと震えてから、バタンと倒れ込む。
そして、動かなくなった。
――とてつもなく長い闘いだった。
ひたすら回避タンクに徹するアダムと、その後方から『貫撃』の魔法でチマチマと削っていくユンドラ。
泥臭く、血なまぐさく、みっともなく、しかし、二人は闘いきった。
その様子を見ていたセンは、アクビをしながら、
(長かったなぁ……いや、こうなるのは分かっていたけどさぁ。アダムもユンドラもサイも、全員、ハンパにHPと防御力が高くて、けど、火力はおしなべて低いから、なかなか決着がつかないっていう……まあ、それでも、神同士の闘いほど退屈じゃなかった訳だが……それ考えると、俺らの闘いって本当に酷いな)
間合いを奪い合う無音無動の睨みあいだけで一日が終わった事もある。
やっている当人連中は、まだ、真剣に闘っている分、そういう意味ではマシだが、見ている側としては地獄である。
「はぁ、はぁ……はぁ、はぁ…………はぁ……アダム……感謝するわ……本当に、心から」
ふいに、ユンドラが、アダムに礼を述べた。
感極まって、つい声が漏れてしまったといった感じ。
「ぁあ……勝て……た……」
右目から涙がこぼれた。
「出ら……れる……信じられない……ワタシは出られる!!」
喜びと疲労から、情緒が若干、おかしくなっている。
自分でも分かっているが、止められない。
ユンドラが、そんな『後から振り返ると恥ずかしくて死にたくなる現象』に陥っていると、
「解析――完了――」
倒れたまま顔だけをあげたサイケルの目が青白く輝き、
「不完全ナ神ノ種――今ナラバ、マダ――奪イ取レル――僥倖――」
アダムが、
「ん、なんだまだ生きていたのか。しぶといヤツだ。今、楽に――」
トドメをさそうとした、その時、
――彼女の肉体が、
パァァァァァァァァンンンッッッ!!
と、膨張しすぎた風船のように弾け飛んだ。
「――なっ??!!」
バラバラになったアダムの肉片を目の当たりにして、ユンドラが悲鳴をあげた。
血は一瞬で蒸発し、パラパラと無数の毛髪が宙を舞う。
そして、その欠片が、
「スゥウウウウゥ!!」
サイケルに吸い込まれていく。
それは、コンマ数秒の出来ごと。
知覚が追いつかない、ほんの一瞬の出来事だった。
――アダムの『全て』を体内に取り込んだ、その瞬間、
サイケルの全身が、
「キタァアアアアアアアアア!!」
プシュゥウっと黒煙を吐きながら、カァアアアアっと強く発光しだした。
常人の眼であれば一瞬で潰れるほどの光量。
とんでもない勢いで噴出された黒煙はどんどん激しく強くなり、
ついに、その空間は、輝きと黒煙だけに包まれた。
そして、五秒後、
「ぷはぁ……すぅう……はぁ……」
サイケルが深呼吸をすると、黒煙は薄くなり、輝きもおさまっていった。
「はぁ……はぁ……」
アダムを取り込んだサイケルは、先ほどまでの、『ケルベロス亜種を無理矢理人型にしたような無理のあるフォルム』ではなく、完全な『人』の形状になっていた。
『アダムをモデルとした魔人』といった風貌。
スラリと伸びた肢体。
その先にある手首と足首に、鉄の枷がついているが、鎖は外れている。
「……素晴らしい」
サイケルは、自身の両手をまじまじと見つめながら、
「私は、今、神になった。『究極』に至った魂。……わかるか、ユンドラ。……すなわち……」
とても、穏やかな口調で、
「――『命』が……完成したのだ」
1
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
狙って追放された創聖魔法使いは異世界を謳歌する
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーから追放される~異世界転生前の記憶が戻ったのにこのままいいように使われてたまるか!
【第15回ファンタジー小説大賞の爽快バトル賞を受賞しました】
ここは異世界エールドラド。その中の国家の1つ⋯⋯グランドダイン帝国の首都シュバルツバイン。
主人公リックはグランドダイン帝国子爵家の次男であり、回復、支援を主とする補助魔法の使い手で勇者パーティーの一員だった。
そんな中グランドダイン帝国の第二皇子で勇者のハインツに公衆の面前で宣言される。
「リック⋯⋯お前は勇者パーティーから追放する」
その言葉にリックは絶望し地面に膝を着く。
「もう2度と俺達の前に現れるな」
そう言って勇者パーティーはリックの前から去っていった。
それを見ていた周囲の人達もリックに声をかけるわけでもなく、1人2人と消えていく。
そしてこの場に誰もいなくなった時リックは⋯⋯笑っていた。
「記憶が戻った今、あんなワガママ皇子には従っていられない。俺はこれからこの異世界を謳歌するぞ」
そう⋯⋯リックは以前生きていた前世の記憶があり、女神の力で異世界転生した者だった。
これは狙って勇者パーティーから追放され、前世の記憶と女神から貰った力を使って無双するリックのドタバタハーレム物語である。
*他サイトにも掲載しています。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる