異世界転生はもう飽きた。100回転生した結果、レベル10兆になった俺が神を殺す話

閃幽零

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許せなかっただけだ

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(勝てはしないが……しかし、ニーの硬さがあれば、逃げる時間は余裕で稼げるか……?)




 多くは稼げないだろうが、数秒でやられるという事はないだろう。




(……ニーは強いが、シグレは弱いな。ステは、俺と同じくらい……けど、GODレベルが解放されていないから、HPとMPが普通に低い。あいつは、ただのザコだ)




 プロパティアイで見通したシグレのステータスは、色々と酷かった。

 ホルスド相手では、まったく戦力にはなりえない。




(……シグレがもらったのは召喚系のチートで、俺はGODレベルというチート……神様からもらった力、どっちもスゲぇっちゃあスゲぇんだけど、ことこの状況においては、どっちも、クソの役にもたたねぇな……)




 ゼンは、ニーとホルスドの力の差を計算しつつ、




(二分くらい稼いでくれれば、どうにか出来るか? 気付かれた時点で終わりって事を考えると、大胆には動けねぇ……慎重に、気配を消して、ゆっくりと……となれば、五分くらいは稼いでもらいたいところだが……どうかなぁ……ニーのHP見えないから、その辺の具体的な計算が出来ねぇ……てか、なんで、ニーのステ、HPだけ見えねぇんだ?)







 心の中でブツブツ言いながら、ソーっと大木から降りるゼン。







 その間も、ずっと、左目は閉じたまま。

 何があっても対処できるよう監視は怠らない。







 気配を消して、音をたてないよう、少しずつ距離をとる。




 その間に、
















「ぐっ、ああああああああああああああああああああああ!!」
















 シグレが、訳のわからない攻撃を受けた。

 ニーの反応速度がまったく間に合っていない。

 おそるべき攻撃速度。




 悲鳴をあげるシグレの姿を見て、




「……」




 ゼンの心が、一瞬、グアっと熱くなりかけた――が、




(バカか……落ちつけ。出て行ったって、死体が二つになるだけだ。もし、シグレを哀れに思うってんなら、ここは退いて、あとで、あのホルスドとかいうムキムキ野郎に代償を払わせてやればいい。俺はこれから強くなれる。GODレベルを上げて、魔法を磨いて、いつか、あいつを殺せるようになったら、その時――)
















「ああああああああああああ!!」
















 二発目を受けて、激痛にのたうちまわっているシグレの姿。




 とても見ていられないその姿から、ゼンは目を放さなかった。

 体が、ワナワナと震えている。




 脈が加速していく。




 ――『迷い』の質量が、どんどん重く、深くなっていく。




(やめろ、マジで頼む。出るな。やめろ。動くな。てか、逃げろ。何をしている。だから言ってんだろ、ここで出ていっても死体が二つになるだけだ。意味がねぇ)










 ゼンは、シグレについての情報を頭の中から引っ張り出して並べて揃える。










 なぜ、そんな事をしているのか。

 知らない。

 分からない。







 知りたくない。

 無視したい。

 それが本音のはず。







 なのに、ゼンは、頭の中にあるシグレの情報に目を向けてしまう。

 知りたくないんだ。

 本当に。

 けど、なぜだか、本当に分からないのだけれど、ゼンは、シグレの情報に触れてしまう。







(……田中……シグレ……)




 ゼンは奥歯をかみしめた。




 彼女の情報に触れると、心の奥の方が痛んだ。




 シグレは、高校であった『色々』について、口では、『大した事じゃなかった』、『さほど被害はなかった』と言っていたが、







 まあ、もちろん、当り前の話で、そんな訳はなかった。







 もっといえば、『イジメられていた気の弱い男子』を『助けるつもりはなかった』という発言だって、明らかなウソが混じっている。




 『イジメに参加しなければ空気が読めていない』

 そこまで極まった空気の中で、『何もしない』という『抵抗』は、明らかな『挑発』だ。




 正義感からの行動じゃなかったのは事実。

 示したかったのは正義じゃない。







 ――ただ、許せなかった。







 だから、抵抗した。

 それだけ。
















 その男子は、最初の自己紹介で、花が好きだと言った。

 病気がちのお母さんを元気づけるために、色々な花を買ったり摘んだりしている内に、自分も好きになったと言った。




 ――それが、いじめの始まりだった。




 『あいつ、狙いすぎだろ』

 『いきなりのマザコン暴露とか、勇者だな』




 最初は小さな、ちょっとした冗談交じり。

 次第に加速、妙にヒートアップして、気付けば、取り返しのつかない空気。




 確かに、少し吃音気味で、弱弱しさが少し鼻について、少し可愛い顔をしていたせいで、それが変にカラまって、妙な方向からのヘイトを稼いでしまって、少しだけ頭が良かったものだから、プライドの高い連中のストレス解消の的になって、それでもがんばって、必死に頑張ってニコニコしていたら、それがムカつくと、余計に拍車がかかって――




 悲運と不運が重なって、

 『彼』は壊された。




 おっとりとして、優しくて、気が弱くて、少しだけ強くて、

 だから、誰にも相談できずに、必死に、ニコニコと笑って――







 つまり、単純な話。




 シグレは、自分に言い訳をしながら――必死に戦った。










 確かに、正義じゃなかった。

 絶対に正義ではなかった。

 ただ、許せなかったから、闘った。










 それだけ。










 『汚いものになりたくない』という『そういう【強い】感情』が、隠そうとしても『表』に出てしまう事くらい、そして、『その手の連中』が『そういう【弱い】感情』に対して酷く敏感だって事くらい、







 ――シグレは知っていた。







 そのぐらい、あの世界で、十五年近くも生きていれば、誰だって分かる。

 神様の推理力なんて必要ない。







 当たり前の話なんだ。







 ああ、もちろん、しょうもない闘いだ。

 イジメなんて、小さな問題でしかない。




 大した事じゃない。




 ぬるい問題でしか――
















                           フザケルナ

                           クソドモガ
















 シグレは、闘った。







『あんたがここにおるせいで、あたしまで余計な被害をこうむってんけど? 学校、やめてくれへん? あたしのために』







 ――お母さんが、喜んでくれたから。

 一生懸命、勉強を頑張って、偉いねって。

 そう言ってくれたから、

 だから、やめられない――







 そう言って、必死に血で汚れた笑顔でニコニコしながら、あの地獄にしがみついていたその手を、シグレは、血だらけの足で踏みつけた。

 むりやり、手を放させて、シグレだけがあの場所に残った。







 その闘い方が正しかったかどうか。




 知ったこっちゃないよ、そんな事。







 そんな話じゃないんだ。

 どこまでいったって、




 ――ただ、許せなかった。




 それだけの話でしかないんだ。







 そうやって、

 田中シグレは、

 全力で闘って、傷ついて、




 けど、泣き言を言える相手はもういなくて、

 だから、自分は大丈夫だと必死にごまかして、




 ずっと、ずっと、闘って、闘って







 そして、ここにきた。










 そんな女が、今、目の前で甚振られている。










 ――知りたくない情報だった。

 ――けど、知ってしまった。










 ――ゼンは、




(あのホルスドって野郎にムカついているのは分かった。同郷の同年代を甚振られてムカついている。了解だ。復讐したいって気持ちはOK、了解。それは充分に分かった。けど、頼む。ここでは動くな。頼むから、行くな)




 己の感情に抵抗する。




 頭の中が、異常なほど高速で回転する。

 思考しようとは思っていない。

 むしろ、脳死して逃げたいと思っている。




 だが、とまらない。




(逃げろ。行くな。意味がない。というか、シグレがどうなろうと知ったことか。同郷? 同年代? ほんのちょっとだけ哀れな過去を背負っている? はぁあああああ? それがなんだ、アホか)




 本気で思う。

 本音。




 飾りのない、心の声。




(つい数分前まで、顔も知らんかった奴で、数時間前までは、存在すら知らんかったヤツだぞ。それなのに、なんだ? どうした? 俺はラノベの主人公か? 違うだろ? 違うよな? てか、むしろ、いつも、軽蔑してただろ? なんで、知らんヤツを助けるんだって。ありえねぇだろって。ふざけんなって。そう思って生きてきただろうが。だから、行くな。絶対に行くな。後悔しかしない。無意味、無意味、無意味ぃいい!)



















「……ふむ。どうやら、貴様の悲鳴では、イレギュラーを動かす事はできないらしい。となれば、これ以上は時間の無駄。さっさと壊して組み立て直すとしようか」



















 言いながら、ホルスドは、指先を、シグレの足ではなく、彼女の心臓に向けた。




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