異世界転生はもう飽きた。100回転生した結果、レベル10兆になった俺が神を殺す話

閃幽零

文字の大きさ
162 / 380

偽善と可能性

しおりを挟む
「なにやら、興味深い結論が出たようだな」




 うんうんと頷きながら、そんな事をつぶやくホルスドに、ゼンは言う。




「てめぇ……なんで、黙って見ていた? どうせなら、ゲロビかなんかで吹っ飛ばしてくれれば、この狂ったバカ女と、さっきみたいなクソ以下の会話をしなくてすんだってのに……」




「愚問だな。そこの女が、私の『なぜ戻ってきたのか』という質問に答えてくれていたから、一応、質問した手前、最後まで聞いていただけの話。というか、それ以外の理由などないだろう? 私に答えていた訳ではなかったが、結果が同じなら別に構わない。さて、疑問もスッキリしたことだし、そろそろ絶望を再開しようか」




 ホルスドは、いい笑顔で、




「私は実に運がいい。男の方の眷属……貴様の存在は実にすばらしい肥料となりうる。貴様が死ねば、女の方の眷属は、より美しく壊れる事だろう。こうなったら、貴様は絶対に逃がさない。慎重に、丁寧に、じっくりと……究極の絶望を演出してやる」







 両手の、すべての指をパキパキと鳴らしながら、







「優秀な肥料になりうる、愚かで無様で何より無能な、男の眷属よ。実益をかねた褒美をやろう。1分やる。別れの言葉を交わすがいい。できるだけ、感情を交わしあえ。この上なくセンチメンタルに頼むぞ。貴様らの絆が深まれば深まるほど、それが壊された時の芸術性が増す」




「なんつーか、てめぇ……ほんと、いい感じにくさってんな。しっかりと嫌いだぜ。不幸を眺めて何が楽しいんだ。いや、分かっているさ。そういうのにしか受容器が反応しないヤツ。いるんだよな、実際。なんでかわかんねぇけど、そういう野郎は実在する。意味がわかんねぇ。クソが……ほんと、ムカつくわぁ……殺してぇ……絶対に出来ないけど……くそが……自分の弱さに、何よりもムカつく……」




 『ホルスドみたいなヤツが実在する』という事実はどうでもいい。

 趣味嗜好は千差万別。




 多種多様で、だからこそ、世界は無色じゃなくなっていく。




 問題なのは、『そういうやつらが存在する』って事実じゃなく、『そういうムカつく連中相手に【己のエゴ】を通す【力】がない』って現実。










 ――力。




 向こうの世界でいえば、権力や金。







 ここでなら、

 魔法の知識や剣の腕。







 力を持たないという悪。

 それが今のゼンが犯している罪。







 ――両手を上げて愛や正義を騙るつもりはねぇ――







 それは最も醜い悪だ。

 『通せない偽善』は『悪』にも劣る。




 この世に本物の善はない。

 そのぐらい知っている。




 だからこそ、偽善は尊い。

 ゆえに、口だけの偽善は醜くもある。




 表裏一体とか、そんなかったるい話じゃない。

 付随する前提の違いだ。




 善なんて存在しないと知りながら、それでも貫こうとする決死の想いが『偽善』だ。

 だから、それを穢す、上澄みだけのハリボテは許せねぇ。




 偽善をおためごかしに使うんじゃねぇ。

 偽善は、『存在しない善』なんかよりも遥かに貴とうとい、数少ない本物なんだ!!




 つまりは、而しかして!




 ――欲しいのは、

 理不尽な悪を黙らせるエゴ――







 ――罪(神)を殺す力――







 それでも『善ゼン』でありたいと『願う心』――そんな『業』を貫く力。

 醜いばかりの、けれど尊い『我』を通すための可能性。







(せめて、もう少し時間があれば……いや、それは言い訳だ……意味ねぇ)







 心の中でボソっとそう言ってから、ゼンは、シグレの目をチラっと見る。

 イライラする。




 せめて、







 せめて、誰かを救えて死ねたなら、







 ――まだ――
















「バカ女が、バカ女が、バカ女が……」
















 命の価値なんて知らねぇ。

 重さなんか知った事か。

 命に重さがあるっていうなら、その量りはなんだ?




 くだらないテンプレが、頭の中で濁っていく。




 けど、思うんだよ。




 どうせ死ぬなら、『せめて欲しかった』、って。







 ――『この為に産まれてきたんだ』って『誇り』が欲しかった――







「逃げればよかった、逃げればよかった、逃げればよかった、逃げればよかった、逃げればよかった……」




「後悔された分だけ、嬉しぃなってくるなぁ。それほどの『しんどい決断』を、あんたは、あたしのために下してくれたんやから」




「お前のためじゃない」




「ほな、なんのため?」




「……うるっせぇよ、どいつもこいつも……それは俺が一番聞きたい事なんだよ、クソが」




 吐き捨ててから、




「くそくそくそ、せっかく、念願だった異世界に来られたってのに……チートまでもらったってのに……結局、何も出来ずに終わっちまった……せめて、GPだけでも使って死にたかった……」




 その発言を聞いて、シグレの頭に戻ってきていたニーが、




「? 何を言っているの? 使いたいなら、使えばいいんじゃない? ていうか、なんで使っていないの? GPでステータスの一つでも上げていれば、今よりはマシに戦えていたはずなのに」




 その発言を受けて、ゼンは、深く溜息をつきながら、







「……使い方がわかんねぇんだよ」







 恥ずかしそうに、そう言った。

 みっともなさで死にたくなる。

 あと数秒で死ぬってのに、

 どうして、死にたくなるのだろう。




 ――なんて、そんなくだらない事を考えていると、ニーが、










「は? 使い方? そんなの、数真に呼びかければいい……だけ……――」
















「「――」」
















 互いに、顔を見合わせて沈黙。










 ニーの発言を聞いた瞬間、ゼンの頭が高速で回転する。

 同時に、ニーの頭も回転していた。










 知らない?

 ウソでしょ?

 なんで?

 まさか、御主人、教えずに送りだした?

 なにやってんの、御主人!!










 言いたいことが溢れ出ているニーの脳内。

 それと比べて、ゼンの思考は明確で単純だった。










 知っているのか?

 使えるのか?




 だったら――
















 ――まだ、可能性は――
















「残り10秒。実に無意味な時間だった。まったくセンチメンタルでも色っぽくもない、どころか、傷をなめ合いすらしない。最悪だ。もう少し楽しい会話をしてほしかったが……ふん、もういい。これ以上時間をやっても、どうせ同じだろう。バカ二匹を合わせても楽しい反応は起こらない。勉強になった。――0。では、死ね」




 言いながら、ピンと伸ばした指をゼンの心臓に向けたホルスド。

 高まっていく、指先の魔力。

 収束していく力。

 ポっと光る直前。




 圧縮された時間の中で、







(間に合え――)







 ゼンは、
















「限定空間、ランク5!!」
















 叫びながら、ゼンは、『注文の多い多目的室』を地面に突き刺した。




しおりを挟む
感想 96

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

狙って追放された創聖魔法使いは異世界を謳歌する

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーから追放される~異世界転生前の記憶が戻ったのにこのままいいように使われてたまるか!  【第15回ファンタジー小説大賞の爽快バトル賞を受賞しました】 ここは異世界エールドラド。その中の国家の1つ⋯⋯グランドダイン帝国の首都シュバルツバイン。  主人公リックはグランドダイン帝国子爵家の次男であり、回復、支援を主とする補助魔法の使い手で勇者パーティーの一員だった。  そんな中グランドダイン帝国の第二皇子で勇者のハインツに公衆の面前で宣言される。 「リック⋯⋯お前は勇者パーティーから追放する」  その言葉にリックは絶望し地面に膝を着く。 「もう2度と俺達の前に現れるな」  そう言って勇者パーティーはリックの前から去っていった。  それを見ていた周囲の人達もリックに声をかけるわけでもなく、1人2人と消えていく。  そしてこの場に誰もいなくなった時リックは⋯⋯笑っていた。 「記憶が戻った今、あんなワガママ皇子には従っていられない。俺はこれからこの異世界を謳歌するぞ」  そう⋯⋯リックは以前生きていた前世の記憶があり、女神の力で異世界転生した者だった。  これは狙って勇者パーティーから追放され、前世の記憶と女神から貰った力を使って無双するリックのドタバタハーレム物語である。 *他サイトにも掲載しています。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

処理中です...