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遠すぎる天上
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扉の先は、色合いこそシックだが、とてつもなく豪華な調度品で溢れた会議室だった。
「別に、指定の時間に遅れた訳ではない。ムスカ、謝る必要はないよ」
そう声をかけたのは、『圧倒的な超越者オーラを放っているムスカ』よりも、さらにグっと深みのある気品を有する老人『アンドロメダ』。
アンドロメダは、続けて、
「むしろ、みな早すぎる。私が一番かと思ったが……『百済くだらの若姫』が一番じゃった」
視線の先に座っている女性。
見た目は三十台で、この中にいる者の中では、最も若いが、老人達に負けず劣らないビリビリとした高貴さを醸し出している。
「百済の頭目である私が、沙良想衆の方々より遅れる訳にはまいりますまい」
その発言に、ピクっと耳を動かしたのは、隣に座っている、初老(50前後)だがムキムキの、白い短髪の男。
楽連筆頭『長強ちょうきょう』。
(それは、つまり、私よりは遅れても構わないということか? どいつもこいつも、ナメくさりおって。私がその気になれば……くっ)
ギリっと奥歯をかみしめている長強の横に座っている老婆、
第二アルファの代表『アクエリアス』が、
「へりくだりおるのう。今、この中じゃと、最も『天上』に近いのはぬしじゃというのに」
言われて、百済の頭目――コードネーム『ウルトラバイオレット001(UV1)』は、うやうやしく頭を下げながら、
「御冗談を」
その謙遜を受けて、対極する位置に座っている、
「ルプス(第7アルファ代表)」と「ライラ(第8アルファ代表)」が、
「かー、やかましいわっ、自分でも思っておるくせに」
「あーあー、うらやましいのう」
「結局、武がある者の方が近いんじゃよなぁー、あーあー、うらやましい、うらやましい」
沙良想衆に属する者も、当然、それなりの武は有している。
というか、全員、ぶっちゃけ、勇者ハルスよりも強い。
アンドロメダに至っては、ホルスド・シャドーを瞬殺できる強さを有している。
ただ、それでも、UV1や長強と比べれば遥かに劣るのだ。
「御二方……それは、武を有しながら、まだまだ『上』には上がれそうにない私に対するあてつけですか?」
長強に睨まれて、
ルプスとライラは、ニっと快活に笑って、
「楽連の筆頭に嫌味などいう訳があるまい」
「そうそう、恐や、恐や」
「ジジイども……」
「もう、ぬしも大概、ジジイじゃがのう」
「最初に会った時は黒かった髪も、今では、随分と白く……くくっ」
「……ちっ」
ルプスとライラは、ノリがいいだけで、悪意を持っている訳ではない。
長い付き合いで、それが分かっている長強は、鬱陶しそうに舌を打つだけで、それ以上は何も言わなかった。
二人に対する『ちょっとしたイラつき』よりも、今は、
(実際、私も随分と年をとってしまった……)
しっかりとシワの入った己の手を見つめながら、
(若造だった頃よりも、私は遥かに強くなった。今の私は、ただ若かっただけのあの頃よりも遥かに強い。……だが、年を重ねるごとに感じるのは、武の極みがどんどん遠くなっていくという目眩めまいだけ……強くなるほどに、九華の御方々が有する武の遠さを痛感するだけではないか……)
神族の方々は、その底辺である『九華の第十席』であっても格が違う。
楽連筆頭から天上に上がった者は全部で6名いるが、その全員が、長強を片手で殺せる。
九華の主席である『ジャミ猊下』に至っては、強すぎて、自分が100万人いても勝てないと確信させられるほどの、もはや生命としての器や格といった『全て』が違う、果てなき高みに在る。
五聖命王や三至天帝ともなれば、会った事がないので、もうなんのこっちゃ分からないというレベル。
神帝陛下?
いない、いない、そんなの。
(日々を重ねるごとに、『己ごときの手が、あんな世界(天上)に、届く訳がない』という絶望だけが募っていく)
今の『天下』で最も『武の極み』に近い者は、間違いなく『長強』だが(なんでもありなら、UV1が確定で勝つが)、そんな彼の目からしても、天上は遠すぎて影も見えない雲の上の世界。
そして、長強の『この想い』は、他の者も等しく思っている。
天上は、遠すぎる。
だが、
(しかし……)
それでも諦めずに手を伸ばし続けるのは、常に、欲望が絶望を上回るから。
『上』は、あまりにも眩しい。
心をかきむしる、天の光。
ここにいるみな、理解できている。
『己が真に渇望しているすべて』が『天上』にある。
――九華の第十席――
――すなわち神の領域――
喉から手が出る地位。
本物の神格化。
// もちろん、本当の意味での『神』になる訳ではない。
だが、彼らからすれば、
全然知らん世界で『超位存在』になるよりも、
『ゼノリカの天上』に名を連ねる事の方が価値がある。 //
(諦めきれない……私では役者が不足している……そんな事は分かっている……だが、あきらめきれないのだ……)
目をそむけようとしても、ぐつぐつと湧き上がってくる欲望。
本当なら、欲望などという俗な言葉は使いたくない。
この感情は、とてつもなく高尚なものだ。
九華の第十席に名を連ねたいと欲するのは、
確かに、自己を満たすため、
だが!
決して、えらぶりたいからという訳ではない。
チヤホヤされたいとか、崇められたいとか、
そんな下らない理由ではない。
『そんなもの』が、この命を満たしてなどくれない事くらい、全員が理解している。
――振りかざすための権威や、膨れ上がっただけの富――
そんなものは、どれだけ積み重なっても、ただ惨めになって、空虚さが募るだけ。
この『命』というワガママな器を、『真に満たしてくれるもの』はただ一つ。
滅私の究極。
奉仕の極致。
『我』ではなく『全』に届く。
『完全なる世界平和を実現させるシステムの一部』になるという事。
決定権を持たぬただの手足ではなく、重要な中枢の一部になること。
神になるとは、
そういう事だ。
「別に、指定の時間に遅れた訳ではない。ムスカ、謝る必要はないよ」
そう声をかけたのは、『圧倒的な超越者オーラを放っているムスカ』よりも、さらにグっと深みのある気品を有する老人『アンドロメダ』。
アンドロメダは、続けて、
「むしろ、みな早すぎる。私が一番かと思ったが……『百済くだらの若姫』が一番じゃった」
視線の先に座っている女性。
見た目は三十台で、この中にいる者の中では、最も若いが、老人達に負けず劣らないビリビリとした高貴さを醸し出している。
「百済の頭目である私が、沙良想衆の方々より遅れる訳にはまいりますまい」
その発言に、ピクっと耳を動かしたのは、隣に座っている、初老(50前後)だがムキムキの、白い短髪の男。
楽連筆頭『長強ちょうきょう』。
(それは、つまり、私よりは遅れても構わないということか? どいつもこいつも、ナメくさりおって。私がその気になれば……くっ)
ギリっと奥歯をかみしめている長強の横に座っている老婆、
第二アルファの代表『アクエリアス』が、
「へりくだりおるのう。今、この中じゃと、最も『天上』に近いのはぬしじゃというのに」
言われて、百済の頭目――コードネーム『ウルトラバイオレット001(UV1)』は、うやうやしく頭を下げながら、
「御冗談を」
その謙遜を受けて、対極する位置に座っている、
「ルプス(第7アルファ代表)」と「ライラ(第8アルファ代表)」が、
「かー、やかましいわっ、自分でも思っておるくせに」
「あーあー、うらやましいのう」
「結局、武がある者の方が近いんじゃよなぁー、あーあー、うらやましい、うらやましい」
沙良想衆に属する者も、当然、それなりの武は有している。
というか、全員、ぶっちゃけ、勇者ハルスよりも強い。
アンドロメダに至っては、ホルスド・シャドーを瞬殺できる強さを有している。
ただ、それでも、UV1や長強と比べれば遥かに劣るのだ。
「御二方……それは、武を有しながら、まだまだ『上』には上がれそうにない私に対するあてつけですか?」
長強に睨まれて、
ルプスとライラは、ニっと快活に笑って、
「楽連の筆頭に嫌味などいう訳があるまい」
「そうそう、恐や、恐や」
「ジジイども……」
「もう、ぬしも大概、ジジイじゃがのう」
「最初に会った時は黒かった髪も、今では、随分と白く……くくっ」
「……ちっ」
ルプスとライラは、ノリがいいだけで、悪意を持っている訳ではない。
長い付き合いで、それが分かっている長強は、鬱陶しそうに舌を打つだけで、それ以上は何も言わなかった。
二人に対する『ちょっとしたイラつき』よりも、今は、
(実際、私も随分と年をとってしまった……)
しっかりとシワの入った己の手を見つめながら、
(若造だった頃よりも、私は遥かに強くなった。今の私は、ただ若かっただけのあの頃よりも遥かに強い。……だが、年を重ねるごとに感じるのは、武の極みがどんどん遠くなっていくという目眩めまいだけ……強くなるほどに、九華の御方々が有する武の遠さを痛感するだけではないか……)
神族の方々は、その底辺である『九華の第十席』であっても格が違う。
楽連筆頭から天上に上がった者は全部で6名いるが、その全員が、長強を片手で殺せる。
九華の主席である『ジャミ猊下』に至っては、強すぎて、自分が100万人いても勝てないと確信させられるほどの、もはや生命としての器や格といった『全て』が違う、果てなき高みに在る。
五聖命王や三至天帝ともなれば、会った事がないので、もうなんのこっちゃ分からないというレベル。
神帝陛下?
いない、いない、そんなの。
(日々を重ねるごとに、『己ごときの手が、あんな世界(天上)に、届く訳がない』という絶望だけが募っていく)
今の『天下』で最も『武の極み』に近い者は、間違いなく『長強』だが(なんでもありなら、UV1が確定で勝つが)、そんな彼の目からしても、天上は遠すぎて影も見えない雲の上の世界。
そして、長強の『この想い』は、他の者も等しく思っている。
天上は、遠すぎる。
だが、
(しかし……)
それでも諦めずに手を伸ばし続けるのは、常に、欲望が絶望を上回るから。
『上』は、あまりにも眩しい。
心をかきむしる、天の光。
ここにいるみな、理解できている。
『己が真に渇望しているすべて』が『天上』にある。
――九華の第十席――
――すなわち神の領域――
喉から手が出る地位。
本物の神格化。
// もちろん、本当の意味での『神』になる訳ではない。
だが、彼らからすれば、
全然知らん世界で『超位存在』になるよりも、
『ゼノリカの天上』に名を連ねる事の方が価値がある。 //
(諦めきれない……私では役者が不足している……そんな事は分かっている……だが、あきらめきれないのだ……)
目をそむけようとしても、ぐつぐつと湧き上がってくる欲望。
本当なら、欲望などという俗な言葉は使いたくない。
この感情は、とてつもなく高尚なものだ。
九華の第十席に名を連ねたいと欲するのは、
確かに、自己を満たすため、
だが!
決して、えらぶりたいからという訳ではない。
チヤホヤされたいとか、崇められたいとか、
そんな下らない理由ではない。
『そんなもの』が、この命を満たしてなどくれない事くらい、全員が理解している。
――振りかざすための権威や、膨れ上がっただけの富――
そんなものは、どれだけ積み重なっても、ただ惨めになって、空虚さが募るだけ。
この『命』というワガママな器を、『真に満たしてくれるもの』はただ一つ。
滅私の究極。
奉仕の極致。
『我』ではなく『全』に届く。
『完全なる世界平和を実現させるシステムの一部』になるという事。
決定権を持たぬただの手足ではなく、重要な中枢の一部になること。
神になるとは、
そういう事だ。
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*この作品は“小説家になろう“にも掲載しています
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