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補償
しおりを挟む「お、襲われたのだぞ! 我が国は! 被害は甚大だ! 魔人衆には、死者も出ている!」
「襲われたという証拠はあるのかね」
「常識的に考えて、一人で乗り込む訳があるまい。サーナ王女の意見を私は支持する」
そこで、流石に状況が見えてきたサリエリが、我慢できないとばかりに、
「やつは、我が王の城で、何の理由もなく暴れた! 私は翼をむしりとられた! それが事実だ!」
追撃するように、リーンが、
「勇者の非常識ぶりは誰もが理解しているはずだ!」
「勇者が常識外れの存在であることは、もちろん承知。しかし、サーナ王女が言ったように、さしもの勇者も、流石にそこまでの無茶を敢行する事はないだろう。いや、あえていうならば、むしろ、勇者だからこそありえない。もし、貴国の天守――『カル帝国の軍でも落とせなかった魔王城のような要塞』に一人で乗り込んだらどうなるか、常識外れの力を有する勇者ならばこそ、誰よりも正確に予測できるはず」
「それに、翼をむしられたという、先ほどのサリエリ殿の主張だが……普通に、背中にあるじゃないか」
「これは、ラムドが治してくれたのだ!」
「ラムド殿が?」
「……何を言っとるんだ。ラムド・セノワールは召喚士だろう」
「多少のかすり傷をなおす程度の魔法取得ならばともかく、なくした翼を、それほど完璧に再生させられるほどの回復魔法などは、当然使えないはずだ」
「嘘は嘘を呼ぶ。そして最後には破綻する。摂理だな」
「嘘では無い! ラムドは、特殊な道具を召喚して――」
「はっ、特殊な道具の召喚ねぇ」
「それを言っておけば、まさか、なんでも通るとでも?」
「ふふっ。ほんとうに便利ね、ラムド・セノワールという存在は。うらやましいわ」
そこで、彼・彼女らは、呆れを込めた苦笑をしてみせて、
「もう、モンスターの嘘につきあうのも飽きた」
「愚かしい……やはり、しょせんは魔物。知性がたりない」
やれやれと首をふり、少々大げさに肩をすくめてみせる各国の代表たち。
サリエリが言葉を紡ぐのを防ぐように、サーナ王女が、少し語気を強めて、
「すべての状況証拠が物語っている。やはり、我が弟は、魔王国に誘い込まれて殺されたのだろう。ああ、なげかわしい」
事実がねじ曲がっていく。
魔王国の罪が出来あがっていく。
この状況を受けて、絶望的な表情をするリーン。
その後ろで絶句しているサリエリ。
二人とも、もう流石に理解できている。
どちらも賢くないが、ここまでくれば、流石にわかる。
――仕組まれた。
――言葉は通じない。
――ハナからこちらの話を聞く気などない。
――やつらは魔王国から、ただ、むしりとる気だ。
――真実を殺す気だ。
リーンとサリエリは、フーマーの使徒たちに視線を向ける。
どうにかしてくれないかという懇願の表情。
しかし、
「我々は最後まで見届ける。しかし、こたびの諍(いさか)いにも介入はしない」
ハッキリと言い切った。
いつだってそう。
フーマーは観察者であり続ける。
いつも傍観者に徹し、常に一歩引いたところにいる。
よく言えば公平、悪く言えば無関心。
――と、そこで、トーン共和国の主席カバノンが、
「さて、結論は出たようだし、具体的な補償プランについて話し合おうか。金貨はもちろんだが、それ以外にも融通してもらいたいモノは多い。我が国では、現在、魔カード製作用の魔石が、少しばかり不足している状態にある。その補填をしていただけるというのなら、今回の件は水に流そう。平和のために」
「我が国では『南大陸で採れる薬草』の継続的な援助をのぞんでいる。かつ、採取に関して、できるだけ、こちらの要望に耳をかたむけてもらいたい。根が残っていないと意味がない薬草などもあるのでね。『煩雑に刈取っただけの雑草』を流されても困る。……この要求を、こころよく呑んでいただけるのであれば、勇者の件はなかった事にしても構わない。平和のために」
「どんな謝罪を受けようと、人類の宝である勇者を……我が弟を殺されたという痛みが癒える訳ではない。しかし、相当の補償を約束してくれるのなら、これからも、貴国との友好関係は維持したいと考えているわ。平和のために」
好き勝手を言い始めた各国の代表たち。
そんな中で、セア聖国の代表が、
グっと身を乗り出してきて、
「我が国は資源をのぞまない。そのかわり、ラムド・セノワールの研究成果をいただきたいな」
そう言ったのを聞いて、他国の者達がピクっと耳を動かした。
「たぐいまれな才覚でもって切り開いてきた『ラムド式の召喚道』、その案内役をしていただく事だけが我が国の望み。ぜひ、我が国の召喚士を啓蒙していただきたい」
どの陣営も、
(((なに、勝手に切り込んでいやがる……ふざけるなよ)))
不快感をあらわにしている。
空気がピリつく。
流れが変わる。
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