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これから毎日国を焼こうぜ。

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 ザワっとした。
 濃厚な雑音。
 各国の首脳陣の眼球に血が走った。
 わずかに、冷たい汗がツーっと流れる。

 しかし、騒ぐ者はいなかった。
 空気は、すぐに弛緩した。
 決して落ちついたのではなく、ただ緩やかに整った。

 ここにいるのは、全員が、国を背負っている者。
 そして、ラムドもその一人。
 ラムドは、召喚バカだが、その頭脳はピカイチ。

 強固な前提が、ここにいる者達の心を強制的かつ自動的に落ちつかせた。


 誰もがニっと笑って、ラムドを見る。
 この時点では、みな、ラムドの行動を、極めて愚かな悪手だと認識していた。
 この時点では、まだ、『へー、ラムドでも衝動的になることがあるのか、へーへー』くらいにしか思っていない。


 ゆえに、まず、カバノンが、

「何を言っているのか、分かっているのか」

 挑発的に、

「犯した罪を暴かれて、つい熱くなってしまう気持ちも分からないでもないが、まあ、落ちつきたまえ」

 カバノンは、冷静に、慎重に、己が声の質を調節する。
 リーンに対するよりも遥かに気を使っていると分かる態度で、しかし主張の強固さはそのままに、

「若返って、血の気が増している……のかどうか知らないが……『この場』は、貴様のような、浮世離れした仙人の出る幕ではない。下がっていたまえ、ラムド・セノワール。温情をもって、先ほどの愚か極まりない発言は、聞かなかった事にしてやるから――」

 と、そこで、
 ラムドは、

「トーン共和国の国家主席カバノン・イヌリン・クリアランス。お前んトコの巫女は、確か、俺が勇者を殺すシーンを目撃したんだったな。どんな風に殺されたと言っていた?」

 かなり、無礼な口の利き方だ――とは思ったものの、俗世から離れた仙人(違うステージにいる者)相手に礼儀を説いても仕方がないと判断したカバノンは、

「貴様の召喚獣によって、に決まっているだろう」

 特に感情を込めずに、そう答えた。

 ちなみに、実際のところは、知らない。
 本当は誰もそのシーンを見てなどいないのだから。
 ゆえに詳細は語れない。
 しかし、問題はない。
 ラムドは召喚士。
 それが全てを物語る。

 だが、そんな事はラムド(ゴート)も理解しているわけで――

「俺は召喚士なんだから、そんな事は当たり前だろ。お前はバカか」

「ば……か? 口を慎め、醜いバケモノ」

 ピリっとする。
 場に熱がともる。
 いくつかの感情が加速する。

「俺は、お前に、勇者が、どんな召喚獣によって殺されたか言ってみろと言っているんだ」

「そんな事を貴様に答える義務がどこにある、無礼者」

 流石に我慢ができなくなって、ラムドの失礼な態度について言及しはじめるカバノン。
 迫力が増していく――が、ラムドは、カバノンの気迫など意に介さず、

「いや、あるだろ。ほんとバカだな、お前」

 やれやれと首をふってから、

「いいか、バカ。お前は、俺に対し、『あなたは犯罪者だから謝りなさい』と、ふざけた言いがかりをつけてきたんだぞ? ならば、俺がお前に対し『その証拠を出しなさい』と求めるのは当然であり、その際、そっちに証拠開示の義務が生じるのも当たり前。こんなこと、いちいち言われなくても分かれ、バカ」

「……どちらが愚かしいかという問題提起をするのなら、明らかにそちら側の非が大きいと思うがね。貴様が喋れば喋るほど、魔王国は不利になる」

「証拠がないから提示なんかできない。となれば、論点をズラすしかねぇわな。けど、いくらゴールポストを動かしても無意味。強気に詭弁を並べ続けることでケムにまこうとしても無駄だ。俺を、この弱腰なバカ殿と同等に考えるなよ」

 ラムドは、ドンと机を殴り、とことん堂々とした態度で、カバノンを睨みつけ、

「まず、最初に断言しておこうか。俺がこの場で何をし何を言おうと、魔王国が不利になるってことは一切ない!」

「ふん……なぜ、そんなことが言い切れる」

「その問いが答えだ。前提で、『俺に教えてもらわなければ分からない』というテメェの現状が、何よりの証拠なんだよ」

「意味がわからん」

「意味が分からない、ね。はっ、最悪手。大バカ、確定。お前は、今、自ら『わたしは嘘をつきました、本当は何も知りません』と告白したようなものなんだが、その事にも気付けていない」

「ははっ……やれやれ」

 カバノンは、鼻で笑ってから、

「論点をすり替えてケムにまこうとしているのは、どこからどう見ても、貴様の方――」

「トーンの巫女とやらが、本当に『俺が勇者を殺すところ』を見ていたら、お前に、こう報告するはずだ。ラムドに対する口の利き方には気をつけてください――と」

「いいかげんにしないか。ぐだぐだと、中身も意味もない迂遠なだけの戯言を並べたてて……結局、何が言いたい? さっぱり見えてこない」

「本当に頭が悪い。脳を使えよ、バカ野郎。もし、お前が、本当に俺の力を知っていたならば、お前みたいなショボいザコは、俺に対して心底からビビるしかなく、決して、俺に対し、そんなナメた口はきけないと言っているんだ」

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