12 / 188
トコ5話 センエースの記憶。
しおりを挟むトコ5話 センエースの記憶。
その頃、薬宮図子のノートPCにも、見慣れぬ数字が跳ね上がっていた。
〔アクセス解析:海外流入+1200%/主要言語=英語、中国語、フランス語〕
通知ポップは絶え間なく点滅するが、彼女は書くことに夢中で視界に入れていない。
世界の喧噪と、六畳の部屋の静寂は、奇妙にずれたまま並走していた。
――文章とにらめっこする薬宮図子は、中心にいながら何も知らない。
六畳の部屋から紡がれた物語は、確実に歴史の炎に混じり始めていた。
トコのノートPCは、深夜のワンルームで熱を吐いていた。
ブラウザを更新するたび、数字が跳ね上がる。
PV:12,090 → 87,699 → 230,097。
ブクマ:532 → 1,027 → 9,008。
EXP:3,012 → 295,533。
(……エグ……これもう完全にバズやん……ちょっと伸びすぎて、逆にこわなってきた……)
通知は途切れず、コメント欄は熱狂と混乱で埋まっていた。
『誰か、この作者に取材して! 渋谷の空気そのまま』
『生々しすぎる。もしかして、センエース本人が作者?』
『センエースって何者? 素性、出てこないの?』
『人間? それとも兵器? マジで怖い』
SNSのトレンドにも同じ叫びがあふれていた。
#救世主降臨
#地獄の独裁者
#正体不明の少年
#センエースの正体
(……みんな、知りたがっとる。センエースが何者かって……)
その瞬間、画面が唐突に黒に塗りつぶされた。
――〔PS/SYSTEM〕条件達成。
《センの記憶・遠景》が解放可能になりました。
《センの記憶・遠景》(必要EXP:5,000)
《センの記憶・近景》(必要EXP:20,000)
(……余裕で見れるようになっとる……)
喉がひとりでに鳴った。
「センの記憶……何が見えるんやろ……」
トコはクリックした。
錠前が外れるような乾いた音が響き、画面に指示が浮かぶ。
『目を閉じて、【メモリアイ】と唱えてください』
息を呑んで、まぶたを閉じる。
狭い部屋の空気が急に濃くなり、心臓が耳の奥で暴れ出す。
「……メモリアイ」
暗闇が裂け、映像が流れ込んでくる。
――教室。
放課後の夕暮れ。
斜陽が差し込み、机の列が長い影を落としていた。
制服姿の少年がひとり、机に突っ伏している。
(……高校? これ……日本の……)
黒髪の、どこにでもいる男子高校生。
けれど、その瞳をトコは知っていた。
「……セン、エース……?」
その少年は、誰もいない教室でぽつりと呟く。
『この世界、マジでクソだな……汚職、多すぎる。俺に力があったら、全員、皆殺しにしてるぜ』
その声とともに、トコの視界はすっと闇に沈んだ。
――《センの記憶・遠景》終了。
さらなる深層記憶の解放条件:EXP 500,000。
(……これだけ? 次は五十万……桁違いやん。無理やろ……でも今のって……ただの高校生? 中二病みたいなこと言うとったけど……まさか、あれが……センエース?)
胸の奥がざわつく。呼吸が乱れ、指先が震える。
(……二万の近景も見よかな……いや、その前に、この感情を形にしたい……っ)
熱に追われるように、トコはキーボードを叩きつけるようにして、見たままを書き殴った。
投稿ボタンを押すと同時に、通知が爆発する。
『え、なにそれ? セン=日本の高校生ってマジ?』
『転生って伏線だった?』
『ソースどこ? なんで作者が知ってんの?』
『さすがにネタやろw でも妙にリアル』
『皆殺しだぜwww 中二病すぎて草』
『高校生のときからこんなこと考えてたんか……やば』
『特定班はよ! 卒アル流出まだ?』
SNSはさらに熱を帯びる。
#センの正体
#高校生説
#フェイクニュース
#転生文学
(……信じる人も笑う人も、みんな同じや。知りたがっとる。センのことを……)
トコは拳を握った。
自分だけが『答えの一部』を知っている。
その感覚は、恐ろしいほどの高揚を伴って迫ってくる。
(……二万の近景も……見よう。もっと……知りたい。センエースのことを、全部……!)
トコは再び目を閉じ、震える唇で唱えた。
「――メモリアイ」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!
ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。
ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。
そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。
問題は一つ。
兄様との関係が、どうしようもなく悪い。
僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。
このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない!
追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。
それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!!
それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります!
5/9から小説になろうでも掲載中
天城の夢幻ダンジョン攻略と無限の神空間で超絶レベリング ~ガチャスキルに目覚めた俺は無職だけどダンジョンを攻略してトップの探索士を目指す~
仮実谷 望
ファンタジー
無職になってしまった摩廻天重郎はある日ガチャを引くスキルを得る。ガチャで得た鍛錬の神鍵で無限の神空間にたどり着く。そこで色々な異世界の住人との出会いもある。神空間で色んなユニットを配置できるようになり自分自身だけレベリングが可能になりどんどんレベルが上がっていく。可愛いヒロイン多数登場予定です。ガチャから出てくるユニットも可愛くて強いキャラが出てくる中、300年の時を生きる謎の少女が暗躍していた。ダンジョンが一般に知られるようになり動き出す政府の動向を観察しつつ我先へとダンジョンに入りたいと願う一般人たちを跳ね除けて天重郎はトップの探索士を目指して生きていく。次々と美少女の探索士が天重郎のところに集まってくる。天重郎は最強の探索士を目指していく。他の雑草のような奴らを跳ね除けて天重郎は最強への道を歩み続ける。
男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺
マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。
その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。
彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。
そして....彼の身体は大丈夫なのか!?
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる