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19話 追跡開始。
しおりを挟む19話 追跡開始。
センは応接室の片隅に置かれた省内端末に視線を移した。
緊張に支配された空気を裂くように、静かに言い放つ。
「……庁内ネットワークに入る。パスを寄越せ」
その言葉に、事務次官が即座に立ち上がった。
青ざめた顔、だがためらいはなかった。
すでに、彼らは完全に『服従』していた。
「は、はい……こちらでございます……」
机の引き出しから取り出されたのは、認証用の紙片とICトークン。
震える手でそれを差し出す事務次官。
センは鼻で笑い、無造作に受け取った。
「いい子じゃないか。ホッペにチューしてやろうか?」
「い、いえ、光栄ですが……」
「怯えるなよ。とって食いやしない。お前が腐らない限りな」
言いながら、指先を軽く払うと、パスワード入力欄に自動で文字列が走り、二段階認証の壁を一瞬で突破した。
画面に一覧が浮かび上がる。
――〈支給端末リスト〉。
その中に、ひときわ赤く点滅する名前があった。
〈闇川権之助 支給スマートフォン〉。
センの目が細められる。
「……はっけーん」
次の瞬間、端末の位置情報が画面上にピンとして突き刺さった。
地図上で、逃げ惑う点が震えるように移動している。
「全国民に告ぐ。ゲームの難易度を下げてやるよ。……獲物の居場所を、共有してやる」
★
全国民のスマホに、黒地のマップが浮かび上がる。
赤いピンの名は〈闇川権之助〉。
その軌跡は、リアルタイムで震えるように動いていた。
【SNS】
〈うわ……マジで位置特定されてんじゃん!〉
〈やば、センエース、なんでもできるなっ〉
〈これなら追える! 誰か合流できるやつ!〉
〈殺すなよ! 殺したら賞金もらえねぇんだぞ!〉
★
警察無線。
『――こちら港北署、至急確認を。対象の位置情報が全国に流出しています』
「……これはまずいな」
「どうします? 我々も捕まえにいきますか? 32億もらえますよ」
「あほか。それが警察の言うことか」
「冗談ですよ」
「……先に確保するしかない。群衆に囲まれたら闇川の命が危ない」
「センエースに『殺すな』と言われているので、大丈夫では?」
「……追い詰められれば自殺するかもしれん」
「あ、そっか。まずいっすね、それ……色々と」
そこへ、本部からの無線が割り込んだ。
『――全署に通達……対象の身柄を最優先で確保……いや待て、暴動を刺激するな……』
『防衛省の連中が動いている? 確認中……とにかく現場判断で……』
通信の背後で複数の声が入り乱れ、指揮系統が混乱しているのが聞き取れる。
『ヘリ部隊はすでに展開中……ただし撃つな、繰り返す、撃つな!』
「……本部も混乱してるな」
「でしょうね」
「仕方ない。捕まえにいくか」
「足ぐらいなら撃ってもいいですよね?」
「……アホ」
★
各地の市民も動き出す。
ドライバーは車をUターンさせ、
配達員は自転車のハンドルを切り、
ランナーは走る方向を変える。
農家の軽トラが田舎道で待ち伏せし、釣り人が河川敷の車両を見張る。
会社員がスマホを掲げて『こっちに来た!』と叫び、
居酒屋のテレビを見ていた客が一斉に外へ飛び出す。
――三十二億の懸賞金。
怒りと欲望が絡み合い、日本中が一つの巨大な『ハンター集団』へと変貌していった。
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