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25話 とりけせよ、今の言葉……
しおりを挟む25話 とりけせよ、今の言葉……
「……ぅ……ぅうう……」
ラットの悲鳴に気づいた看守が駆けてくるが、センを見た瞬間、靴音が止まる。
ラットは視線で救いを求めるが、看守は顔をそむけ、知らんぷりを決めた。
勇気のある看守もいれば、ことなかれ主義の看守もいる。
千差万別。
人それぞれ。
――ラットの人生はずっとこう。
なんというか、基本、運がない。
誰も助けてくれない。
だから、自力で全部どうにかするしかなかった。
けど、どうにかしようともがくたびに、決まって誰かが邪魔をする。
……センに頭を踏まれたまま、ラットは涙をぼろぼろ流す。
「俺の人生……なんで、こんなクソみたいなんだよ……」
悲痛な声が砂に吸い込まれた。
ヤードは一瞬、呼吸を止めたように静まる。
遠くで波がこすれる音だけが微かに聞こえ、
周囲の囚人たちの喋り声も小刻みに消えていった。
そんなラットに、センは、ボソっと、
「本当に大変だな。同情するぜ。お前の人生は最悪だ。生きる価値のない生ごみ。お前は、この世で最も不幸な男。下の下の下。天は人の上に人を山ほど創ったが、お前の下は誰も創らなかった。底辺の下のカマの底を這いずる便所虫。それがお前だ。ハム太郎ボーイ」
センの声は低く、冷たい。
だが周囲に響くと不思議と柔らかく、砂粒がヒソヒソと落ちるような音を伴った。
センの足に残る砂の感触が、ラットのこめかみにじんと伝わる。
「……」
「どうした? なんとか言ってみろよ。もっと、自分を悲観しろ。自分は世界一の不幸だと嘆けよ。それが唯一のアイデンティティなんだろ?」
「……バカにするな……」
ぷるぷると震えながら、ラットは、血をかみしめて、
「必死に生きてきたんだ……お前なんかに……俺の人生を……笑われる筋合いは……ないっ」
プライドをゼロにできる処世術が売りの男……だが、譲れないものもある。
目の奥が熱く、タンがからむ。
ここで殺されたとしても叫ばなければいけない誇り――どんなに不幸でも必死に這いつくばって生きてきたというたった一つの自負が、喉元で震えた。
「別に笑ってねぇぞ。同情してやっているだけだ。なんせ、お前は世界一不幸な男だからな」
「世界一不幸なやつなんか……いない。下には下がいる……目が見えなくなったベアは……もう俺より下だ。五体満足の俺より……あいつの方が不幸だ」
すこし離れた場所にいる看守の表情が瞬間的に強張るが、すぐに視線を逸らした。
センは鼻で笑い、
「いやいや、御謙遜を。お前の人生は間違いなく世界一不幸で最低だ」
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