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26:その努力は報われていない

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「愛してもいない相手と、そこまでして必死に婚約する理由。それと別荘の売却……もしや侯爵家は──」

 グレン卿はそう言って、金色の瞳で私を見下ろした。

 ダメ。

 それ以上言わないで。
 知られる訳にはいかないの。

 皇子との結婚の理由が、借金の返済のためだなんて知られたら……。
 お父さまは爵位を剥奪されてしまう!

 せっかく自力での借金返済の目処が立って来たのに、今それを帝国皇室に知られたら我が家は──。

「い、いや、悪い。俺の、ただの憶測だ」
「──ねがい」

 皇室に知られたらどうなるか。
 それを考えただけで、恐怖に震えて目頭が熱くなってきた。

「お、お嬢様」
「ルシアナ様っ。も、もうお帰りになられませんと」
「お願い、します……お願い」

 ローラとアッシュ卿の言葉をさえぎって、気づけば私はグレン卿に縋っていた。

「その憶測は、グレン卿、あなたの心の中に留めてください。お願い。お願いします」

 あぁ、涙出そう。こんなところで泣いちゃあ、グレン卿に迷惑かけちゃうのに。

「約束する」

 え……。
 それを望んでいるはずなのに、ふいに掛けられた言葉に驚いて彼を見上げた。
 顔が……ちかっ!

 でも、いつも不愛想なのに、今、凄く……優しい顔。

 あ、戻った。

「お、憶測でものを言って、俺も恥をかきたくない」
「……あ、ありがとう」

 安堵して、体の力が抜けた。

「おいっ」
「だ、大丈夫です。ちょっと、緊張が解けただけで」

 膝カックンされたわけでもないのに、倒れそうになって、それを彼が支えてくれる。
 椅子に座り直して、ふぅっと呼吸を整えた。

 グレン卿も椅子に座り直し、また指パッチンで店員を呼んでいる。
 カッコいい。私もやりたい。
 運ばれて来たジュースには、氷は入っておらず。すると彼が小さな魔法陣を作って、氷を生み出した。
 グラスを私に差し出す。

「ありがとうござます。いいですね、氷の魔法。いつでも冷たいジュースが飲めて」
「北部では暖かい飲み物の方が好まれる」
「あはは。北部は寒いっていいますもんね」

 確かに寒いところで冷たいジュースは飲みたくないわ。
 ストローにそっと口をつけて、一口飲む。
 はぁ、落ち着く。

「その……多い、のか?」
「へ?」

 グレンが明後日の方角を見ながら、そう尋ねて来た。

「金」

 と短く捕捉する。ううん、捕捉になってない。
 だから考えた。彼が何を尋ねて来たのかを。

 金が多い? 金……あぁ、借金は多いのかってことね。

「ビックリするぐらいですよ」

 私の返答に、彼が目を丸くする。信じられない、といった顔だ。

「だが侯爵家では、いくつか大きな事業を」
「えぇ……五年ぐらい前から、急に……。お父さまも有能な執事も、どうしてそうなったのか原因が分からないってぐらいで」
「急に?」

 そう。急にだ。
 それまで侯爵家の事業はうまく言っていた。それは子供の私でも分かるほどに。
 だけど五年前から突然、事故やらなにやらで経営が傾き始めて……それでも規模が大きいから、一つ解決すればまた以前のように。
 そう思ってお父さまも従業員も頑張ってきた。

 今のところ、その努力は報われていない。
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