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32:それが彼女の願い
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神眼。
その目で見た魔法陣を、一瞬にして記憶し発動することが可能になる。
魔法には全て属性が存在する。地水火風、雷、氷、聖と闇。
魔法が使える使えないを抜きにしても、人には適正不適正の属性を持っているの。
ほとんどの人は、適正属性一つ、残りは不適正。
つまり魔法が使えたとしても、一つの属性のみってこと。
たまーに複数の属性に適性がある、賢者と呼ばれるような人はいるけどね。
それでも全属性に適性がある人は、これまでの歴史では存在したことがない。
ただし──
「適正はなくとも、全ての魔法を網羅出来る方法はございます」
そう言って司祭様が一冊の本を私に見せてくれた。
「ここです。まず大前提として鑑定眼の持ち主であることが絶対条件でございます」
「鑑定眼……私、ずっと自分のは鑑定スキルだと思っていました」
「仕方ございません。鑑定スキルと鑑定眼の能力は、まったく同じものですので。
そして鑑定スキルに鑑定眼、どちらかを所有している方は意外と、ご自身を鑑定なさらない方が多いようですので」
自分のことは自分が一番よく知っている。
そんな感じで鑑定することはないものね。
鑑定スキルは、もちろんスキルのこと。だけど鑑定眼はスキルではなく、特異体質みたいなものだってこと。
神眼は鑑定眼の上位覚醒版なので、もちろん特異体質に入る。
鑑定スキルもレアだけど、鑑定眼はもっとレア。
今の時代だと、鑑定眼を持っている人物はこの国には私ひとりだけ。
他の国を見ても、一国にひとりいるかどうかなんですって。
私、チート級!
そのうえ神眼にも覚醒している。
この神眼の持ち主こそが、全属性の魔法を使える唯一の人だってこと。
そう……この私が、全属性、全ての魔法の使い手となったのだ。
オーッホッホッホッホ!
「ここに最強の悪役令嬢が爆誕したのよ!」
「ル、ルシアナ様?」
「あ、なんでもございません。ほんとなんでもないの。それよりエリーシャさんは……」
エリーシャは先ほど、急に眩暈を起こして休んでいる。
「ご心配ございません。あれほど巨大な魔法陣を作った上に、初覚醒でしたので、今になって疲れが現れたのでしょう」
「そう。それならいいんだけど」
「しかし私はなんと幸運なことか」
そう言って司祭様が興奮気味に修練の間にある女神像に祈る。
「幸運、なんですか?」
「はい! 数十年にひとり現れるかどうかという神眼の覚醒と、そして聖女の誕生に立ち会えたのですから!」
「せい、じょ……ぁ、エリーシャさん!?」
そうだ。エリーシャって、原作二巻の中盤から聖女と呼ばれるようになってたんだった。
でも今はまだ、原作一巻の後半手前。
早すぎる……けど、そうか、私が彼女に祝福の魔法が使えるって教えちゃったから流れがズレちゃったんだわ。
「そっかぁ。エリーシャさん、聖女様なのね」
「えぇ。あれほど大きな祝福の魔法をお使いになられるのは、聖女ただひとりですから」
女神に愛されし娘。
そんな彼女の力が、この国を救うことになる。
「聖女様! お加減はもうよろしいので?」
休んでいたエリーシャが起き上がって、私たちの所へとやって来た。
まだ足元はおぼつかないみたい。
「エリーシャさん、大丈夫?」
「はい。ご心配をおかけしました」
「ううん。あんな凄い魔法だったんだ。疲れて当然よ」
「そうです、聖女様。ささ、お座りになって、ゆっくりなさってください」
司祭様にそう言われ、私の隣に腰を下ろす。だけどその顔はどこか寂しげだった。
「どうしたの、エリーシャさん」
「……あの、私」
「うん」
ちらりとこちらを見て、それから顔を伏せて言葉を続けた。
「私、聖女がなんなのかよく分かりません。私はただ、魔法を使いたかっただけで、誰かの役に立てたらいいなって、そう思っただけなんです」
「その結果が、あれだったのよ」
「でも私っ。私……聖女だなんて……」
エリーシャは眉尻を下げ、不安そうな表情を浮かべた。
不安。そう、不安なんだね。
確かに聖女って、具体的になんなの? と問われると、なんなんだろう。
行き成り「あなたは今日から聖女です!」と言われて「はい、わかりました!」と言える人はそういないと思う。
「エリーシャさんは、エリーシャさんよ。あなたがやりたいと思っていたことを忘れず、その為に自分の力を使えばいいだけ」
「ルシ……アナ様。私、私……聖女だなんて呼ばれたくありません」
「うん。あなたはエリーシャだものね」
「はい。はい。ひとりの人間として、見て頂きたいです」
それが彼女の願い。
「司祭様。エリーシャさんは神のように崇め奉られたくないんですよ。この子はエリーシャ。聖女という壁を作ってしまわず、これまで通り、親しみを込めて名前で呼んであげてください」
私がそう話すと、司祭様は目を丸くした後、頷き、優しい笑顔を見せてくれた。
「分かりました。ではこれからも、エリーシャ様と、お呼びさせていただきます」
「はい、司祭様っ」
エリーシャも嬉しそうに返事をした。
その目で見た魔法陣を、一瞬にして記憶し発動することが可能になる。
魔法には全て属性が存在する。地水火風、雷、氷、聖と闇。
魔法が使える使えないを抜きにしても、人には適正不適正の属性を持っているの。
ほとんどの人は、適正属性一つ、残りは不適正。
つまり魔法が使えたとしても、一つの属性のみってこと。
たまーに複数の属性に適性がある、賢者と呼ばれるような人はいるけどね。
それでも全属性に適性がある人は、これまでの歴史では存在したことがない。
ただし──
「適正はなくとも、全ての魔法を網羅出来る方法はございます」
そう言って司祭様が一冊の本を私に見せてくれた。
「ここです。まず大前提として鑑定眼の持ち主であることが絶対条件でございます」
「鑑定眼……私、ずっと自分のは鑑定スキルだと思っていました」
「仕方ございません。鑑定スキルと鑑定眼の能力は、まったく同じものですので。
そして鑑定スキルに鑑定眼、どちらかを所有している方は意外と、ご自身を鑑定なさらない方が多いようですので」
自分のことは自分が一番よく知っている。
そんな感じで鑑定することはないものね。
鑑定スキルは、もちろんスキルのこと。だけど鑑定眼はスキルではなく、特異体質みたいなものだってこと。
神眼は鑑定眼の上位覚醒版なので、もちろん特異体質に入る。
鑑定スキルもレアだけど、鑑定眼はもっとレア。
今の時代だと、鑑定眼を持っている人物はこの国には私ひとりだけ。
他の国を見ても、一国にひとりいるかどうかなんですって。
私、チート級!
そのうえ神眼にも覚醒している。
この神眼の持ち主こそが、全属性の魔法を使える唯一の人だってこと。
そう……この私が、全属性、全ての魔法の使い手となったのだ。
オーッホッホッホッホ!
「ここに最強の悪役令嬢が爆誕したのよ!」
「ル、ルシアナ様?」
「あ、なんでもございません。ほんとなんでもないの。それよりエリーシャさんは……」
エリーシャは先ほど、急に眩暈を起こして休んでいる。
「ご心配ございません。あれほど巨大な魔法陣を作った上に、初覚醒でしたので、今になって疲れが現れたのでしょう」
「そう。それならいいんだけど」
「しかし私はなんと幸運なことか」
そう言って司祭様が興奮気味に修練の間にある女神像に祈る。
「幸運、なんですか?」
「はい! 数十年にひとり現れるかどうかという神眼の覚醒と、そして聖女の誕生に立ち会えたのですから!」
「せい、じょ……ぁ、エリーシャさん!?」
そうだ。エリーシャって、原作二巻の中盤から聖女と呼ばれるようになってたんだった。
でも今はまだ、原作一巻の後半手前。
早すぎる……けど、そうか、私が彼女に祝福の魔法が使えるって教えちゃったから流れがズレちゃったんだわ。
「そっかぁ。エリーシャさん、聖女様なのね」
「えぇ。あれほど大きな祝福の魔法をお使いになられるのは、聖女ただひとりですから」
女神に愛されし娘。
そんな彼女の力が、この国を救うことになる。
「聖女様! お加減はもうよろしいので?」
休んでいたエリーシャが起き上がって、私たちの所へとやって来た。
まだ足元はおぼつかないみたい。
「エリーシャさん、大丈夫?」
「はい。ご心配をおかけしました」
「ううん。あんな凄い魔法だったんだ。疲れて当然よ」
「そうです、聖女様。ささ、お座りになって、ゆっくりなさってください」
司祭様にそう言われ、私の隣に腰を下ろす。だけどその顔はどこか寂しげだった。
「どうしたの、エリーシャさん」
「……あの、私」
「うん」
ちらりとこちらを見て、それから顔を伏せて言葉を続けた。
「私、聖女がなんなのかよく分かりません。私はただ、魔法を使いたかっただけで、誰かの役に立てたらいいなって、そう思っただけなんです」
「その結果が、あれだったのよ」
「でも私っ。私……聖女だなんて……」
エリーシャは眉尻を下げ、不安そうな表情を浮かべた。
不安。そう、不安なんだね。
確かに聖女って、具体的になんなの? と問われると、なんなんだろう。
行き成り「あなたは今日から聖女です!」と言われて「はい、わかりました!」と言える人はそういないと思う。
「エリーシャさんは、エリーシャさんよ。あなたがやりたいと思っていたことを忘れず、その為に自分の力を使えばいいだけ」
「ルシ……アナ様。私、私……聖女だなんて呼ばれたくありません」
「うん。あなたはエリーシャだものね」
「はい。はい。ひとりの人間として、見て頂きたいです」
それが彼女の願い。
「司祭様。エリーシャさんは神のように崇め奉られたくないんですよ。この子はエリーシャ。聖女という壁を作ってしまわず、これまで通り、親しみを込めて名前で呼んであげてください」
私がそう話すと、司祭様は目を丸くした後、頷き、優しい笑顔を見せてくれた。
「分かりました。ではこれからも、エリーシャ様と、お呼びさせていただきます」
「はい、司祭様っ」
エリーシャも嬉しそうに返事をした。
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