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39:庭園で──グレン視点

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「どういうことなんだ、これは」

 一番上の腹違いの兄、ベンジャミンの誕生日を祝うパーティーまで時間があるからと庭園をぶらついていると、嫌な光景を目にした。

 噴水の脇で目にしたのは、ベンジャミンやつと、それと一緒にいるのは祝福魔法の女か?
 何故この二人が、庭園で手と手を取り合っている。

 お互い熱を帯びたような眼差しで見つめ合う姿は、知らない者が見れば恋人同士に映るだろう。

 祝福魔法の女は知っているのか?
 その男が帝国の第一皇子にして、皇太子ベンジャミンだということを。
 そしてあいつ、ルシアナの婚約者だということを。

 ベンジャミンは知っているのか?
 その女が自分の婚約者の友人だということを。

 婚約者がいる立場で、婚前から他の女にうつつを抜かすというのか。

 確かに皇帝ともなれば、複数の妻を娶ることも珍しくはない。
 現皇帝ですら、亡くなった俺の母を含めて三人の妻がいるのだから。

 だが皇太子の間は、ひとりの妻のみ許されている。
 ベンジャミン、知らない訳ではないだろう?
 
「くそっ。人の気も知らないで」

 手に入れることは出来ないと分かっていた。
 それでもあいつの、ルシアナの笑顔をずっと見ていたいと思うのは、止められない。
 それがダメなことは分かっているんだ。分かって……。

 奴が、ベンジャミンが彼女の婚約者だから……だから俺は。
 奴でなければ、なんとしてでも彼女を奪ってやるというのに。
 奴でなければ……。

 なのになんでその奴が、彼女を裏切るような真似をする!

 こうしている間にも、あの二人はにこやかに談笑なんかしやがって。
 今日がいったいどんな日か、分かっているのか?

 あぁ、くそっ。
 とにかく、こんな光景を彼女に見せる訳にはいかない。
 もし登城しているのなら、庭園には来させないようにしなければ。

 噴水が見えなくなる前、一度だけ振り向いた。
 
 拳を握りしめる。
 二人は抱き合い、抱擁を交わしていた。

 こんな光景、絶対──!?

 あの垣根の向こうにいるのは、まさか……。
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