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-鳴り止まない蒼き残響(レゾナンス)-
Episode1 -7月19日-
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(カラン、コロン…)
乾いた音が校舎の廊下に響く。期末テストが終わり、夏休みまであと数日。真夏の太陽がジリジリと照りつける中、放課後の教室は妙に静かだった。
私は窓の外を眺めながら、どこか上の空だった。
楓「なあ、これ、どうやるんだっけ?」
隣の席から聞こえた声に、ハッと振り返る。視線の先には、教科書を睨みつける彼の横顔があった。
楓くん。幼馴染で、家が近所で小学校の時から仲が良い。勉強はできるのに、たまに抜けているところが彼の魅力…なんて、最近、そんな風に思うことが増えた。
その理由はきっと中学生の頃の文化祭での出来事だろう。
あの日、私は彼と一緒に文化祭をまわる約束をしていた。
でも、時間になっても彼は来なかった。
数十分後、彼はようやく来た。あの時の彼は、とても疲れていた。きっと、私をできる限り待たせたくないっていう気持ちがあったのだろう。
そう思うと、私は嬉しさを感じた。それから、彼に魅力を感じ始めたのだろう。
蒼葉「ああ、ここはね、こうして……」
自然と手が伸びて、彼の教科書を指差す。私と彼の間には、他の誰にも踏み込めない、曖昧で、だけど確かな距離があった。
私は人見知りで、クラスメイトと話す時も緊張してしまうけれど、彼といる時は、なぜかいつも通りの自分でいられた。
それは、きっと彼が不器用ながらも、いつも私のペースに合わせてくれるからだろう。
彼が「なるほど!」と声を上げ、私の顔を覗き込む。その真っ直ぐな視線に、ドキリと胸が鳴った。
思わず目を逸らし、頬が赤くなるのを感じた。
蒼葉(いけない、いけない。いつもの私でいなくちゃ。)
夏休みの宿題の話題から、自然と世間話へ移る。今年の夏は、例年以上に暑くなるらしい。
楓「なぁ、今年の夏結構暑いらしいぞ」
蒼葉「そうなんだ…私達も気をつけようね…」
そんな他愛ない会話の端々に、私だけが感じ取る、微かな心のざわめきがあった。
それは、もうすぐ始まる夏休みと、その先に控える7月31日の予感だった………。
-✳-
帰り道、私は緊張して、彼と多少距離が空いていた。
距離が空いているにも関わらず、私は彼の隣を歩き続ける。
蒼葉「そういえば、今年も夏祭りあるみたいだよ!」
私は思い切って言った。多少遠回しに誘っているが彼には伝わっているだろうか?私は、少し不安だった。
楓「ねっ!俺結構楽しみかも」
蒼葉「えっ…!?あ、うん…」
私はつい裏声が出てしまった。彼が楽しみって言ってくれた...!嬉しさを隠しきれていないまま、時間は過ぎていく…。
蒼葉「ね、ねぇ…!」
楓「ん?どうした?」
蒼葉「今年もさ、一緒に…夏祭り…行かない…?」
私は、照れながらも彼を夏祭りに誘った。やっと言えた…!
私の不安な気持ちは無くなった。
楓「……」
彼は若干戸惑っていた。もしかして、私の気持ちが伝わらなかったのかな…?再び不安な気持ちが蘇る。
蒼葉「えっと…やっぱり無理かな…?」
楓「いや…そういうことじゃなくて…」
蒼葉「じゃあ…どういうこと…?」
楓「その…小さい頃の事、思い出しちまって…」
小さい頃、小さい頃…。私の頭には何度も、この言葉が過った。
あれは確か私達が小学生だった頃の事…。
(回想)
蒼葉「ねぇ、本当に平気…?」
楓「大丈夫だってば!」
私は小学生の時、何度か一緒に夏祭りに行ったことがある。
私は人が多くて怖かったが、彼が手を繋いで一緒に居てくれた事を今でも覚えている。
あの頃の私は人見知りが酷く、外に出る時はいつも彼か、両親がいないと外に出ることはできなかった。
楓「蒼葉!花火見に行こうぜ!」
蒼葉「えぇ…怖いよ…人多いし…」
楓「大丈夫!俺がいるから!」
私は当時、彼の言葉が唯一の救いだった。不器用な彼でも、私の事をここまで思ってくれている。そう思うと、私は安心する。
蒼葉「じゃあ…いいよ…」
私は恐る恐る手を差し伸べた。その瞬間、彼は私の手を優しく握ってくれた。とても嬉しかった。
そうして、2人は花火の見える場所へと向かった。
人混みを上手く駆け抜けながら、目的地へと進んでいく。
-✳-
蒼葉「わぁ...!綺麗だね!」
私は彼と手を繋ぎながら、目を輝かせて花火を見つめる。
この時の私の視線は、花火に釘付けされていた。
楓「なぁ、蒼葉」
蒼葉「何?楓くん」
楓「その…大きくなったらまた…一緒に来ような」
蒼葉「うん!」
私は彼に満面の笑みを見せた。
(現在)
蒼葉「それじゃあ、また明日ね」
楓「ああ、また明日」
私達は、お互い手を振って別れた。若干寂しいという気持ちはあったが、また明日会えると思うと我慢できる気がする。
蒼葉「ただいま…」
双葉「お姉ちゃんお帰り!!」
一目散に出迎えてくれたのは妹の双葉だった。双葉は、現在14歳。私の3つ下だ。
14歳になったと言っても、中身は相変わらず子供。でも、そんな双葉が私はずっと大好きだった。
蒼葉「ただいま~双葉。良い子にしてた~?」
子供っぽい双葉が好きなのか、私はいつも双葉を子供扱いしてしまう。もう双葉は14歳なのに…。
私は、双葉の頭を撫でて、自分の部屋へと向かった。
部屋に入った瞬間、私は荷物を置いてすぐにベットに寝転がった。脳裏には、先程の出来事が何度も過る。
蒼葉「はぁ…私本当に誘っちゃった…」
そう思うと、急に恥ずかしくなってくる。
蒼葉「私…大丈夫かな…」
私が彼を夏祭りに誘ったのには、理由がある。
それは、彼に好きという気持ちを伝える為だ。
人見知りで恥ずかしがり屋な私がそんな事できるわけないだろうと、周りは思うかもしれないが、私は本気だった。
夏祭りの花火大会、最後の大きな花火と共に、彼へと愛の告白をする。それが私の理想だった。
(頑張るか……)
(コン、コン)
突然ドアをノックする音が聞こえた。
蒼葉「誰?」
双葉「私!双葉!」
蒼葉「双葉か……入っていいよ!」
その瞬間、部屋のドアが開く。
蒼葉「どうしたの?」
双葉「お母さん、今日お仕事で帰りが遅いみたいだって。」
蒼葉「うん、わかった。ありがとね」
双葉「お風呂沸いてるけど、お姉ちゃん入る?」
蒼葉「ううん、先、双葉入ってきて」
双葉「わかった!」
そう言って、双葉は私の部屋から出て行く。出て行った後、私は再び考え事を始めた。
私は心の中で強く呟いた。視線を天井から、机の上に置いたスマートフォンの画面へと移す。真っ暗な画面に、自分の顔がぼんやりと映っていた。
蒼葉(告白、か…)
人見知りの私が、愛の告白。想像するだけで、心臓がバクバクと音を立てる。それでも、このチャンスを逃したくなかった。
これまでずっと、幼馴染という心地よい関係に甘えて、本心を隠してきた。でも、もう、そんな自分は嫌だ。
私はスマホを手に取り、検索窓に「夏祭り 告白」と打ち込んだ。ありきたりな言葉が並ぶウェブサイト。
そんなもの、今の私には何の役にも立たない。私が伝えたいのは、もっと特別な、楓くんにだけ届く言葉だ。
蒼葉(どんな言葉がいいんだろう…?)
ぼんやりと、花火が咲き誇る夜空を想像する。最後の大きな花火。その轟音にかき消されないように、そして、楓くんの心にまっすぐ届くように。
ストレートすぎるのは恥ずかしい。でも、遠回しすぎて伝わらないのも嫌だ。
頭の中で、何度も言葉を組み立てては、壊す。
「好きです」――いや、だめだ。
「ずっと一緒にいたい」――それは遠回しすぎる?
「楓くんのこと、大切に思ってる」――これはあれかな?
悶々と考えていると、ふと、小学生の頃の夏祭りのことを思い出した。あの時、楓くんはどんな顔をして花火を見ていただろう。
きっと、いつもの優しい笑顔だったに違いない。
蒼葉(あの笑顔を、私だけのものにしたい……)
そんなことを考えていると、自然と頬が緩んだ。同時に、期待と不安が入り混じった波が、胸の奥から押し寄せる。
もし、私の気持ちが彼に届かなかったら?幼馴染の関係も壊れてしまったら?
でも、それでも、私は伝えたい。この夏、この夏祭り。私にとって、それは楓くんとの関係を変える、たった一度のチャンスなのだから。
私はベットから体を起こし、机に向かった。ノートとペンを取り出す。まだ言葉はまとまらないけれど、頭の中のモヤモヤを、少しずつでも形にしていこう。
蒼葉(まずは、どんな浴衣を着ようかな。楓くん、どんな色が似合うって言ってくれるかな……)
小さな決意を胸に、私は双葉がお風呂から出てくるまで、ノートに向かい続けた。外からは、まだ蝉の声が降り注いでいた。
私は、しばらく色々書いては消してを繰り返して、試行錯誤した。
しばらくして、浴室からお湯を流す音が止まり、双葉の賑やかな声が聞こえ始めた。
双葉「お姉ちゃん、お風呂空いたよー!」
蒼葉「はーい!」
私はノートとペンを置き、急いでパジャマを持って浴室へと向かった。湯気が立ち込める浴室は、熱気でむんむんしていた。
-✳-
湯船に浸かると、全身の緊張がふわりと解けていくのを感じる。温かい湯に包まれながらも、私の頭の中は、先ほどまで考えていたことでいっぱいだった。
蒼葉(告白の言葉、どうしよう。浴衣も……)
蒼葉(楓くん…何て言えば喜んでくれるかな…)
シャワーを浴びて、さっぱりと浴室から出ると、洗面所から香ばしい匂いが漂ってきた。
双葉「お姉ちゃん、ご飯できたよー!」
蒼葉「今行くー!」
双葉の声に呼ばれて、急いで体をタオルで拭いて、服を着て、ダイニングキッチンへと向かった。テーブルには簡単な夕食が並んでいた。
お母さんがいない日は、双葉と私で簡単に済ませることが多い。
蒼葉「わぁ、美味しそう!」
双葉「でしょ? 双葉特製だよ!」
双葉は得意げに胸を張る。簡単なものだけど、双葉が作ってくれた料理はいつも温かくて、ホッとする味だ。
蒼葉&双葉『いただきます!』
2人で一斉に食べ始める。私は双葉の作ったご飯を食べるのは初めてではないが、相変わらず美味しい。
蒼葉「双葉」
双葉「なぁに?お姉ちゃん」
蒼葉「双葉料理上手だから、きっといいお嫁さんになれるね」
双葉「そ、そんな…恥ずかしいよ…」
蒼葉「もう!何照れてるのよ~!」
私は、双葉をからかった。
二人で他愛ない話をしながら夕食を摂る。今日の学校であったこと、テレビの話、夏休みの予定……。
そんな会話の合間にも、私の頭の片隅には、ずっと楓くんのことがあった。
双葉は、私が何か考えていることに気づいているのかいないのか、無邪気に笑いながら今日の出来事を話している。
蒼葉(この夏は、きっと忘れられない夏になる)
そう心に誓いながら、私は双葉の作った夕食をゆっくりと味わった。明日は、学校で楓くんに会う。
そして、7月31日。その日まで、私は何をすればいいのだろう。
私の頭の中には、ただ、それだけしか浮かんでいなかった。
-✳-
気付いたら時間は夜の10時。
私と双葉はそろそろ寝る時間だ。
双葉「ふわぁ…お姉ちゃん眠いよ…」
蒼葉「もうこんな時間だもんね…」
蒼葉「双葉は明日学校?」
双葉「ううん。私は明日から夏休み~」
蒼葉「いいな…私まだ全然先だよ…」
双葉「夏休みはお姉ちゃんとたーくさん遊ぶ!」
蒼葉「全く、双葉はこの歳になっても可愛いね」
私は、そっと微笑んで双葉の頭を撫でた。双葉はとても嬉しそうに、私に満面の笑みを見せた。
双葉「えへへっ!」
その時の双葉の顔は、まるで天使のようだった。
蒼葉「双葉1人で寝れる?」
双葉「もぅ~!私子供じゃないよ!」
蒼葉「はいはい」
私は双葉と、他愛ない話を寝る寸前まで続けた。
そして、時間は30分程経っていた。
蒼葉「おやすみ双葉」
双葉「うん!おやすみお姉ちゃん!」
2人は互いの部屋に入った。
自分の部屋に戻り、ドアをそっと閉める。途端に、部屋の中に静寂が訪れた。
まるで、さっきまでの双葉との賑やかな時間は、夢だったかのように。ベッドに腰を下ろし、ふう、と深く息を吐き出す。
双葉の前では、いつものしっかり者のお姉ちゃんを演じていたけれど、一人になった途端、体の奥から緊張と高揚感が押し寄せてくる。
視線を机の上に置いたスマートフォンの画面へと移す。真っ暗な画面に、自分の顔がぼんやりと映っていた。
(告白、か…)
人見知りの私が、愛の告白。改めて想像するだけで、心臓がバクバクと音を立てる。それでも、このチャンスを逃したくなかった。
これまでずっと、幼馴染という心地よい関係に甘えて、本心を隠してきた。でも、もう、そんな自分は嫌だ。
かすかに花火が咲き誇る夜空を想像する。最後の大きな花火。その轟音にかき消されないように、そして楓に届くように。
頭の中で、何度も言葉を組み立てては、壊す。
悶々と考えていると、ふと、去年の夏祭りのことを思い出した。あの時、楓くんはどんな顔をして花火を見ていただろう。
(あの笑顔を、私だけのものにしたい……)
そんなことを考えていると、自然と頬が緩んだ。同時に、期待と不安が入り混じった波が、胸の奥から押し寄せる。
もし、私の気持ちが彼に届かなかったら?幼馴染の関係も壊れてしまったら?
でも、それでも、私は伝えたい。だって、それは楓くんとの関係を変える、たった一度のチャンスなのだから。
乾いた音が校舎の廊下に響く。期末テストが終わり、夏休みまであと数日。真夏の太陽がジリジリと照りつける中、放課後の教室は妙に静かだった。
私は窓の外を眺めながら、どこか上の空だった。
楓「なあ、これ、どうやるんだっけ?」
隣の席から聞こえた声に、ハッと振り返る。視線の先には、教科書を睨みつける彼の横顔があった。
楓くん。幼馴染で、家が近所で小学校の時から仲が良い。勉強はできるのに、たまに抜けているところが彼の魅力…なんて、最近、そんな風に思うことが増えた。
その理由はきっと中学生の頃の文化祭での出来事だろう。
あの日、私は彼と一緒に文化祭をまわる約束をしていた。
でも、時間になっても彼は来なかった。
数十分後、彼はようやく来た。あの時の彼は、とても疲れていた。きっと、私をできる限り待たせたくないっていう気持ちがあったのだろう。
そう思うと、私は嬉しさを感じた。それから、彼に魅力を感じ始めたのだろう。
蒼葉「ああ、ここはね、こうして……」
自然と手が伸びて、彼の教科書を指差す。私と彼の間には、他の誰にも踏み込めない、曖昧で、だけど確かな距離があった。
私は人見知りで、クラスメイトと話す時も緊張してしまうけれど、彼といる時は、なぜかいつも通りの自分でいられた。
それは、きっと彼が不器用ながらも、いつも私のペースに合わせてくれるからだろう。
彼が「なるほど!」と声を上げ、私の顔を覗き込む。その真っ直ぐな視線に、ドキリと胸が鳴った。
思わず目を逸らし、頬が赤くなるのを感じた。
蒼葉(いけない、いけない。いつもの私でいなくちゃ。)
夏休みの宿題の話題から、自然と世間話へ移る。今年の夏は、例年以上に暑くなるらしい。
楓「なぁ、今年の夏結構暑いらしいぞ」
蒼葉「そうなんだ…私達も気をつけようね…」
そんな他愛ない会話の端々に、私だけが感じ取る、微かな心のざわめきがあった。
それは、もうすぐ始まる夏休みと、その先に控える7月31日の予感だった………。
-✳-
帰り道、私は緊張して、彼と多少距離が空いていた。
距離が空いているにも関わらず、私は彼の隣を歩き続ける。
蒼葉「そういえば、今年も夏祭りあるみたいだよ!」
私は思い切って言った。多少遠回しに誘っているが彼には伝わっているだろうか?私は、少し不安だった。
楓「ねっ!俺結構楽しみかも」
蒼葉「えっ…!?あ、うん…」
私はつい裏声が出てしまった。彼が楽しみって言ってくれた...!嬉しさを隠しきれていないまま、時間は過ぎていく…。
蒼葉「ね、ねぇ…!」
楓「ん?どうした?」
蒼葉「今年もさ、一緒に…夏祭り…行かない…?」
私は、照れながらも彼を夏祭りに誘った。やっと言えた…!
私の不安な気持ちは無くなった。
楓「……」
彼は若干戸惑っていた。もしかして、私の気持ちが伝わらなかったのかな…?再び不安な気持ちが蘇る。
蒼葉「えっと…やっぱり無理かな…?」
楓「いや…そういうことじゃなくて…」
蒼葉「じゃあ…どういうこと…?」
楓「その…小さい頃の事、思い出しちまって…」
小さい頃、小さい頃…。私の頭には何度も、この言葉が過った。
あれは確か私達が小学生だった頃の事…。
(回想)
蒼葉「ねぇ、本当に平気…?」
楓「大丈夫だってば!」
私は小学生の時、何度か一緒に夏祭りに行ったことがある。
私は人が多くて怖かったが、彼が手を繋いで一緒に居てくれた事を今でも覚えている。
あの頃の私は人見知りが酷く、外に出る時はいつも彼か、両親がいないと外に出ることはできなかった。
楓「蒼葉!花火見に行こうぜ!」
蒼葉「えぇ…怖いよ…人多いし…」
楓「大丈夫!俺がいるから!」
私は当時、彼の言葉が唯一の救いだった。不器用な彼でも、私の事をここまで思ってくれている。そう思うと、私は安心する。
蒼葉「じゃあ…いいよ…」
私は恐る恐る手を差し伸べた。その瞬間、彼は私の手を優しく握ってくれた。とても嬉しかった。
そうして、2人は花火の見える場所へと向かった。
人混みを上手く駆け抜けながら、目的地へと進んでいく。
-✳-
蒼葉「わぁ...!綺麗だね!」
私は彼と手を繋ぎながら、目を輝かせて花火を見つめる。
この時の私の視線は、花火に釘付けされていた。
楓「なぁ、蒼葉」
蒼葉「何?楓くん」
楓「その…大きくなったらまた…一緒に来ような」
蒼葉「うん!」
私は彼に満面の笑みを見せた。
(現在)
蒼葉「それじゃあ、また明日ね」
楓「ああ、また明日」
私達は、お互い手を振って別れた。若干寂しいという気持ちはあったが、また明日会えると思うと我慢できる気がする。
蒼葉「ただいま…」
双葉「お姉ちゃんお帰り!!」
一目散に出迎えてくれたのは妹の双葉だった。双葉は、現在14歳。私の3つ下だ。
14歳になったと言っても、中身は相変わらず子供。でも、そんな双葉が私はずっと大好きだった。
蒼葉「ただいま~双葉。良い子にしてた~?」
子供っぽい双葉が好きなのか、私はいつも双葉を子供扱いしてしまう。もう双葉は14歳なのに…。
私は、双葉の頭を撫でて、自分の部屋へと向かった。
部屋に入った瞬間、私は荷物を置いてすぐにベットに寝転がった。脳裏には、先程の出来事が何度も過る。
蒼葉「はぁ…私本当に誘っちゃった…」
そう思うと、急に恥ずかしくなってくる。
蒼葉「私…大丈夫かな…」
私が彼を夏祭りに誘ったのには、理由がある。
それは、彼に好きという気持ちを伝える為だ。
人見知りで恥ずかしがり屋な私がそんな事できるわけないだろうと、周りは思うかもしれないが、私は本気だった。
夏祭りの花火大会、最後の大きな花火と共に、彼へと愛の告白をする。それが私の理想だった。
(頑張るか……)
(コン、コン)
突然ドアをノックする音が聞こえた。
蒼葉「誰?」
双葉「私!双葉!」
蒼葉「双葉か……入っていいよ!」
その瞬間、部屋のドアが開く。
蒼葉「どうしたの?」
双葉「お母さん、今日お仕事で帰りが遅いみたいだって。」
蒼葉「うん、わかった。ありがとね」
双葉「お風呂沸いてるけど、お姉ちゃん入る?」
蒼葉「ううん、先、双葉入ってきて」
双葉「わかった!」
そう言って、双葉は私の部屋から出て行く。出て行った後、私は再び考え事を始めた。
私は心の中で強く呟いた。視線を天井から、机の上に置いたスマートフォンの画面へと移す。真っ暗な画面に、自分の顔がぼんやりと映っていた。
蒼葉(告白、か…)
人見知りの私が、愛の告白。想像するだけで、心臓がバクバクと音を立てる。それでも、このチャンスを逃したくなかった。
これまでずっと、幼馴染という心地よい関係に甘えて、本心を隠してきた。でも、もう、そんな自分は嫌だ。
私はスマホを手に取り、検索窓に「夏祭り 告白」と打ち込んだ。ありきたりな言葉が並ぶウェブサイト。
そんなもの、今の私には何の役にも立たない。私が伝えたいのは、もっと特別な、楓くんにだけ届く言葉だ。
蒼葉(どんな言葉がいいんだろう…?)
ぼんやりと、花火が咲き誇る夜空を想像する。最後の大きな花火。その轟音にかき消されないように、そして、楓くんの心にまっすぐ届くように。
ストレートすぎるのは恥ずかしい。でも、遠回しすぎて伝わらないのも嫌だ。
頭の中で、何度も言葉を組み立てては、壊す。
「好きです」――いや、だめだ。
「ずっと一緒にいたい」――それは遠回しすぎる?
「楓くんのこと、大切に思ってる」――これはあれかな?
悶々と考えていると、ふと、小学生の頃の夏祭りのことを思い出した。あの時、楓くんはどんな顔をして花火を見ていただろう。
きっと、いつもの優しい笑顔だったに違いない。
蒼葉(あの笑顔を、私だけのものにしたい……)
そんなことを考えていると、自然と頬が緩んだ。同時に、期待と不安が入り混じった波が、胸の奥から押し寄せる。
もし、私の気持ちが彼に届かなかったら?幼馴染の関係も壊れてしまったら?
でも、それでも、私は伝えたい。この夏、この夏祭り。私にとって、それは楓くんとの関係を変える、たった一度のチャンスなのだから。
私はベットから体を起こし、机に向かった。ノートとペンを取り出す。まだ言葉はまとまらないけれど、頭の中のモヤモヤを、少しずつでも形にしていこう。
蒼葉(まずは、どんな浴衣を着ようかな。楓くん、どんな色が似合うって言ってくれるかな……)
小さな決意を胸に、私は双葉がお風呂から出てくるまで、ノートに向かい続けた。外からは、まだ蝉の声が降り注いでいた。
私は、しばらく色々書いては消してを繰り返して、試行錯誤した。
しばらくして、浴室からお湯を流す音が止まり、双葉の賑やかな声が聞こえ始めた。
双葉「お姉ちゃん、お風呂空いたよー!」
蒼葉「はーい!」
私はノートとペンを置き、急いでパジャマを持って浴室へと向かった。湯気が立ち込める浴室は、熱気でむんむんしていた。
-✳-
湯船に浸かると、全身の緊張がふわりと解けていくのを感じる。温かい湯に包まれながらも、私の頭の中は、先ほどまで考えていたことでいっぱいだった。
蒼葉(告白の言葉、どうしよう。浴衣も……)
蒼葉(楓くん…何て言えば喜んでくれるかな…)
シャワーを浴びて、さっぱりと浴室から出ると、洗面所から香ばしい匂いが漂ってきた。
双葉「お姉ちゃん、ご飯できたよー!」
蒼葉「今行くー!」
双葉の声に呼ばれて、急いで体をタオルで拭いて、服を着て、ダイニングキッチンへと向かった。テーブルには簡単な夕食が並んでいた。
お母さんがいない日は、双葉と私で簡単に済ませることが多い。
蒼葉「わぁ、美味しそう!」
双葉「でしょ? 双葉特製だよ!」
双葉は得意げに胸を張る。簡単なものだけど、双葉が作ってくれた料理はいつも温かくて、ホッとする味だ。
蒼葉&双葉『いただきます!』
2人で一斉に食べ始める。私は双葉の作ったご飯を食べるのは初めてではないが、相変わらず美味しい。
蒼葉「双葉」
双葉「なぁに?お姉ちゃん」
蒼葉「双葉料理上手だから、きっといいお嫁さんになれるね」
双葉「そ、そんな…恥ずかしいよ…」
蒼葉「もう!何照れてるのよ~!」
私は、双葉をからかった。
二人で他愛ない話をしながら夕食を摂る。今日の学校であったこと、テレビの話、夏休みの予定……。
そんな会話の合間にも、私の頭の片隅には、ずっと楓くんのことがあった。
双葉は、私が何か考えていることに気づいているのかいないのか、無邪気に笑いながら今日の出来事を話している。
蒼葉(この夏は、きっと忘れられない夏になる)
そう心に誓いながら、私は双葉の作った夕食をゆっくりと味わった。明日は、学校で楓くんに会う。
そして、7月31日。その日まで、私は何をすればいいのだろう。
私の頭の中には、ただ、それだけしか浮かんでいなかった。
-✳-
気付いたら時間は夜の10時。
私と双葉はそろそろ寝る時間だ。
双葉「ふわぁ…お姉ちゃん眠いよ…」
蒼葉「もうこんな時間だもんね…」
蒼葉「双葉は明日学校?」
双葉「ううん。私は明日から夏休み~」
蒼葉「いいな…私まだ全然先だよ…」
双葉「夏休みはお姉ちゃんとたーくさん遊ぶ!」
蒼葉「全く、双葉はこの歳になっても可愛いね」
私は、そっと微笑んで双葉の頭を撫でた。双葉はとても嬉しそうに、私に満面の笑みを見せた。
双葉「えへへっ!」
その時の双葉の顔は、まるで天使のようだった。
蒼葉「双葉1人で寝れる?」
双葉「もぅ~!私子供じゃないよ!」
蒼葉「はいはい」
私は双葉と、他愛ない話を寝る寸前まで続けた。
そして、時間は30分程経っていた。
蒼葉「おやすみ双葉」
双葉「うん!おやすみお姉ちゃん!」
2人は互いの部屋に入った。
自分の部屋に戻り、ドアをそっと閉める。途端に、部屋の中に静寂が訪れた。
まるで、さっきまでの双葉との賑やかな時間は、夢だったかのように。ベッドに腰を下ろし、ふう、と深く息を吐き出す。
双葉の前では、いつものしっかり者のお姉ちゃんを演じていたけれど、一人になった途端、体の奥から緊張と高揚感が押し寄せてくる。
視線を机の上に置いたスマートフォンの画面へと移す。真っ暗な画面に、自分の顔がぼんやりと映っていた。
(告白、か…)
人見知りの私が、愛の告白。改めて想像するだけで、心臓がバクバクと音を立てる。それでも、このチャンスを逃したくなかった。
これまでずっと、幼馴染という心地よい関係に甘えて、本心を隠してきた。でも、もう、そんな自分は嫌だ。
かすかに花火が咲き誇る夜空を想像する。最後の大きな花火。その轟音にかき消されないように、そして楓に届くように。
頭の中で、何度も言葉を組み立てては、壊す。
悶々と考えていると、ふと、去年の夏祭りのことを思い出した。あの時、楓くんはどんな顔をして花火を見ていただろう。
(あの笑顔を、私だけのものにしたい……)
そんなことを考えていると、自然と頬が緩んだ。同時に、期待と不安が入り混じった波が、胸の奥から押し寄せる。
もし、私の気持ちが彼に届かなかったら?幼馴染の関係も壊れてしまったら?
でも、それでも、私は伝えたい。だって、それは楓くんとの関係を変える、たった一度のチャンスなのだから。
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