平行線

ライ子

文字の大きさ
3 / 45
第一章

つぶれる

しおりを挟む
吉行のバイト先のバーは、駅から少し離れた雑居ビルの8階にあった。大人の隠れ家的な感じがして、大学生の虎徹や梨花には、少し敷居が高いような気がした。客層も、サラリーマンっぽい人が多かった。店内は、落ち着いた木目調のシックな内装で、窓から見える夜景と、見事にマッチしていた。
マスターは、黒のスーツに身を包み、白髪で短髪。隙のない一見怖そうな印象を受けるが、虎徹と梨花が、吉行の友達と知ると、
「吉行の友達?そうか、よろしくな。」
と、笑顔で話しかけてくれた。
「今のマスター?めちゃダンディ。カッコイイね。」
梨花はテンション高めで、楽しそうだ。
「どう?こてっちゃん、気に入った?」
「うん。でも、俺らみたいな学生が来る所じゃないよな。」
「私は、素敵だと思う。」
「ありがとう。俺は、この店好きで、カフェのバイトより、こっちの方が多いかな。」
虎徹と吉行は、ハイボール、梨花はマスター特製のカクテルで乾杯した。
思い起こせば、吉行は、午前中からずっと飲んでいるが、顔色ひとつ変わらなかった。
「吉行、酒強いな。俺、だいぶ酔ってきた。」
虎徹がそう言うと、
「そうかな?俺も酔ってるよ。」
と言いながら、ハイボールを水みたいにゴクゴク飲んだ。梨花は、カクテルを美味しそうに飲んでいた。
「今日は、楽しかったな。こてっちゃん、また遊ぼうよ。」
「吉行、忙しいだろ?バイトばっかりで。」
「うーん。そうだけど、講義の空き時間とかさ。俺のレポートやってくれてもいいし。」
「なんだそれ。なんで、吉行のレポートやんなきゃなんねぇんだよ。」
くだらない会話をしつつ、虎徹は、かなり酔ってきていた。
「俺んち、この近くだから、いつでも泊まりに来てよ。もう少し飲む?」
「じゃあ、ハイボールおかわり。」
虎徹は、1日中友達と遊んだのは、久しぶりだった。最初は、なんて強引なんだと思ったが、最終的には楽しかった。この変なやつのことをもっと知りたいし、仲良くしてもいいかもしれないと思えてきた。虎徹は、ハイボールをおかわりしたぐらいから、記憶がない。梨花が終電に間に合わなくなるから、先に帰ると言っていたような、言っていないような…。

気がついたら、ベッドで眠っていた。
「頭痛てぇ…。」
ローテーブルに、パソコンと灰皿、百貨店で買った化粧品の紙袋が置いてあるのが目に入った。部屋の隅には、ダンベルが置いてあり、紺色カーテンからは、薄日が差し込んでいた。
(朝?あれ?何してたっけ…?)
「梨花は⁈」
「こてっちゃん、おはよう。」
「吉行?あっ。そっか。バーで飲んで…。」
記憶がなかった。ここは、吉行の部屋か?
「はい。水。こてっちゃん、つぶれちゃうんだもん。マスターと、ここまで運んだんだけど、覚えてない?」
「覚えてない。梨花は?」
「終電で帰ったよ。俺がちゃんと、駅まで送った。」
「そっか。ありがとう。頭痛い。」
「ハイボールがダメだった?」
吉行は、昨日1日中飲んでいたはずなのに、ケロリとしている。
「今日、日曜だけど、バイトとか大丈夫?」
「うん。夕方から、バイト。」
「シャワー浴びる?」
「うん。」
「着替えがなくてさ、俺のじゃ、小さいだろうから、下着は、コンビニで買って来たけど。」
「ありがとう。」
虎徹は、重い体を起こして、シャワーを浴びた。少しスッキリした。
「大丈夫?しじみの味噌汁飲む?レトルトだけど。」
「いいや。もう少し寝させて。」
虎徹は、再びベッドにもぐった。
「うん。ゆっくりしてって。悪いけど、俺、今からバイトだから、適当に休んでって。鍵はポストに入れといてくれたらいいし。」
吉行は、身支度を済ませていた。昨日の疲れはないのだろうか?タフなやつだな。
「俺、料理しないから、何もないけど、飲み物ぐらいなら、冷蔵庫にあるから、よかったら飲んで。じゃあ、行ってきます。」
吉行は、足早に部屋を出て行った。時計を見たら、午前9時を少し回ったところだった。カフェのバイトかな?ローテーブルを見ると、化粧品の紙袋がなくなっていた。佐藤先輩に、渡すつもりなのだろう。うまく行くといいな、と思った。
喉に渇きを感じ、冷蔵庫を開けた。
(本当に、何もないな。あいつ、何食ってんだ?)
冷蔵庫には、水と、炭酸水と、ビールしか入っていなかった。
虎徹は、もうひと眠りしようと、寝返りを打った。ふと、ベッドの横に積んである雑誌が目に入った。バスケ関連の雑誌だった。
(あいつ、バスケ好きなのかな?サークルに誘ってみようかな。)
そのまま、ウトウトしていたら、いつの間にか、夕方になっていた。慌てて、吉行の部屋を出た。まだ少し頭が痛い。一旦、自分の部屋に戻って、バイト先に急いだ。なんとかバイトには間に合ったが、1日無駄にした気分だった。次、吉行と遊ぶ時は、酒の飲み方に気をつけようと思った。
(あれ?俺、また吉行と遊ぼうとしてる?)
虎徹は、自然と吉行と遊ぶつもりになっている自分が、少しおかしかった。

吉行からは、後日、佐藤先輩に、誕生日プレゼントを無事に渡せたと報告があった。でも、それだけだった。進展があったのか、なかったのか、聞いても教えてくれなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...