平行線

ライ子

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第一章

傷心

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翌日、虎徹は、大学の講義が終わると、吉行が入院している病院に、向かった。
病室の前に行くと、誰かと話しているような声がした。
「あっ。こてっちゃん。」
吉行が、廊下から、中の様子を伺っていた虎徹に、気がついた。
「昨日は、ありがとう。助かったよ。」
昨日よりは、元気そうに見えたが、まだ辛そうだった。
「弟が、お世話になってます。」
ベッドの横にいたのは、華奢で整った顔つきの20代後半ぐらいの男性だった。どことなく吉行と雰囲気が似ていた。
「いっ、いえ、こちらこそ。」
「兄ちゃん、曽根崎虎徹くん、俺の大学の友達で、昨日、ここまで連れて来てくれたんだ。」
「いい友達ができたんだな。よかった。」
吉行の兄は、虎徹に、名刺を渡すと、
「僕の会社、ここからは、ちょっと遠いけど、来られない距離ではないので、もし、何かあったら、連絡ください。こいつ、なかなか連絡して来ないから。」
「分かりました。」
「兄ちゃん、いいって、大丈夫だから。」
「大丈夫じゃないから、入院こんなことになったんだろ?じゃあ、そろそろ帰るから、しっかり治せよ。」
そう言うと、吉行の兄は、病室を出て行った。ふと、名刺を見ると、法律事務所のもので、陸奥誉むつほまれと書いてあった。
「吉行のお兄さんって、弁護士なのか?カッコイイな。」
「昔から、出来が良くて、カッコ良かった。戸籍変える時も、法律変わったばっかりで…兄ちゃんが動いてくれたんだ。」
吉行は、少し悔しそうにつぶやいた。
「でも、俺は、吉行もカッコイイと思う。自分のこと、自分で考えて行動して、スゴイと思う。」
「やめろよ。照れるから。」
吉行は、照れ笑いをしながら、ベッドに横になった。
「佐藤先輩、吉行のこと、心配してた。」
「うん。そっか。俺昨日、悪いことしちゃったからなぁ。」
「そうなんだ。」
虎徹は、昨日、吉行の部屋の前で立ち聞きしてしまったことは、黙っていた。
「杏奈に…杏奈さんに、会うことある?」
「明日、サークルで会うよ。」
「そっか。」
「連絡してみたら?」
「うん。そうする。こてっちゃんも、うつるといけないから、早く帰った方がいいよ。」
「わかった。ちゃんと寝てろよ。」
吉行は、ベッドの中から軽く手を上げて見送った。

翌日、虎徹は、サークルで杏奈に、吉行から連絡があったか聞いてみた。
「何もないよ。吉行、私が余計なことしたから、怒ってるのかも。」
「そんなことないですよ。あいつ、佐藤先輩のこと…。」
あんまりしゃべると、立ち聞きしていたことが、バレると思い、
「お見舞い、一緒に行きますか?」
「いいのかな?」
「俺、講義のノート渡したら、すぐ帰るんで。」

サークルの活動が終わると、虎徹は、梨花も誘って、杏奈と3人で、吉行のお見舞いに行くことにした。
吉行は、ずいぶん回復してきたみたいで、顔色もよくなっていた。杏奈を廊下で待たせて、虎徹と梨花の2人で病室に入った。
「よお。だいぶ良さそうだな。」
「おかげさまで。明日、退院できそうだよ。」
「そっか。じゃあ、ノートいらないぐらいだったかな?」
「いや。ありがとう。助かるよ。」
梨花は、差し入れの栄養ドリンクを渡した。
「梨花ちゃんも、わざわざありがとう。」
「ううん。早くよくなってね。」
「ありがとう。うつるといけないから、早く帰った方がいい。」
虎徹は、梨花を連れ、病室を後にした。
杏奈は、病室の外で入りにくそうにしていた。でも、意を決したように、入って行った。虎徹は、少し離れた談話スペースで、梨花と一緒に待つことにした。

「吉行。」
吉行は、突然、杏奈が訪ねて来て、戸惑った。
「どうして来たの?」
「心配だからだよ。」
「彼氏に勘違いされるから、やめろって、言っただろ?」
「大丈夫。あの人は、気にしないから。」
(あの人か…。)
吉行は、ショックを隠しきれない。
「俺が、大丈夫じゃないから。」
「私達、高校の時からの付き合いじゃない。大学にも、同じ高校から来てる子、他にいないし。だから…。」
「だから、俺は、大学からやり直したかった。男として。新しい環境で。」
「私がサポートするよ。」
「俺が、杏奈を追いかけるみたいにして、受験したのが悪かった。」
「私が、吉行に手術を勧めたんだよ。だから、私に責任ある。」
「責任って何?」
吉行は、杏奈を見つめて言った。
「確かに、死ぬほど悩んでた時に、相談したけど、俺は、自分の意思で、こうするって決めたんだ。だから、杏奈が責任なんて感じなくていいんだよ。」
「でも…。」
「杏奈の中では、俺は、いつまでたっても、幸穂のままなんだよ。」
「そんなこと…。」
「ごめん。もう、帰って。」
「吉行。私にできることないの?」
「俺が、杏奈の近くにいたかっただけなんだ。でも、もうこれ以上は、辛い。」
吉行は、もう一度、杏奈を真っ直ぐに見ると、
「俺の気持ちなんて、杏奈には分かんないよ。俺が、どんな気持ちで…。」
「ごめん。吉行…ごめん…私…。」
「もう、帰って…。今は、話したくない。」
吉行は、それきり布団を被ってベッドにもぐりこんでしまった。

吉行の病室から出て来た杏奈は、泣いているようだった。梨花が後を追う。
「虎徹は、吉行くんの方、見てきて。」
「わかった。」 
虎徹が、病室に入ると、吉行は、布団を被ったままだった。
「吉行。」
「……。」
「ごめん。俺が佐藤先輩、連れてきた。」
「みんな俺に謝るけど、誰も悪くない。」
吉行は、布団から顔を出すと、
「カッコ悪いな。もう大丈夫だから、ありがとう。」
とても大丈夫そうには見えなかったが、吉行のひとりにして欲しいとうオーラに、虎徹は、病室を後にした。病院を出たところで、梨花と合流した。
「杏奈先輩、大丈夫って言って帰っちゃった。」
梨花は、吉行の事情を知らない。とても心配そうな顔をしている。
「そうなんだ。」
虎徹は、そうとしか言えなかった。
吉行に対して、何もできない。自分の無力さが嫌になった。
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