平行線

ライ子

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第一章

日常

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吉行は、退院した翌週から、普段通り大学に来た。
「こてっちゃん、おはよう。」
「おう。おはよう。もう、いいのか?」
「熱はないし、食欲も戻ったから、大丈夫だよ。これ、講義のノート、ありがとう。」
吉行は、虎徹にノートを返すと、
「今日の昼メシは、何にしようかなぁ?」
と、虎徹の顔をチラッと見た。
「え?俺、奢るの?」
「快気祝い。」
吉行が、にこにこしながら、虎徹の様子を伺う。
「しょうがねぇなぁ。」
「やった。」
普段通りだった。不気味なくらいに。杏奈とのことは、吹っ切れたのだろうか?長い付き合いみたいだし、そう簡単にいくわけないと、虎徹は思っていたが、吉行本人には、聞けなかった。
そんな、虎徹の様子をみて、吉行は、
「杏奈さんのこと、ごめんな。みっともないところ見せた。」
「いや。」
「もう、これでスッキリしたから。あの人にとって、俺は女友達の延長で、そこからはどうなるでもないんだ。」
「いいのか?」
「いいも何も、しょうがないだろ?彼氏だっているんだし。俺が出る幕ないでしょ。」
虎徹は、何とも言えない表情で、吉行を見た。
「そんな顔すんなよ。こっちが惨めになる。こてっちゃんは、今まで通りでいてくれたら、ありがたい。」
吉行は、バイトも今まで通り続けるし、何も変えるつもりはないと言っていた。

数日後、梨花から、友達と一緒に、吉行がバイトしている駅前のカフェに行ったことを聞いた。
「吉行くん、普通だった。杏奈先輩も、同じ時間帯にいたけど、ふたりとも、前と変わらない感じだった。」
「そっか。じゃあ、俺が気にし過ぎてるのかな?」
「吉行くんって、杏奈先輩のこと好きだったんだよね。」
「うん。」
「でも、杏奈先輩に彼氏が出来て、吉行くんが失恋しちゃったって、ことだよね。」
「うん。」
(そんな簡単な話じゃないけどな…。)
「吉行くん、モテるから、すぐ可愛い彼女ができるよ。」
「そうだな。」
虎徹は、絶対吉行が無理してると、分かっていても、どうしていいのか分からなかった。

そんなある日、珍しく吉行から、酔い潰れたから、迎えに来て欲しいと、虎徹の携帯に電話があった。正しくは、吉行のバイト先のバーのマスターから、連絡があったのだが。
バーに着くと、カウンターで眠りこける吉行がいた。
「マスター、すみません。吉行、酒強いんですけどね。」
「あぁ。虎徹か。悪いな。今日は、店混んでて、吉行こいつ部屋まで送って行けなくて。」
カウンターの上を見ると、山盛りのタバコの吸殻に、飲みかけのグラスが置いてあった。
「吉行。何してんだよ。帰るぞ。」
「うーん。帰らないー。」
「しょうがないなぁ。」
虎徹は、吉行の隣に座った。
「で、やけ酒して、スッキリした?」
「した。」
「じゃあ、帰るぞ。みんなに迷惑だ。」
「嫌になる。女々しいよな。」
「そんなもんだ。次、またいいが現れるって。」
「俺には、現れない。」
「家まで送るから、ほら立てって。」
虎徹は、無理矢理吉行を立ち上がらせて、バーから引きずり出した。吉行のアパートは、バーのすぐ近くだった。ヨロヨロと、千鳥足の吉行を支えながら、部屋の前まで来た。
「鍵は?」
「気持ち悪い…。」
「ちょっと、待て。」
虎徹は、吉行のカバンの中をあさり、キーケースを取り出すと、急いでドアを開け、吉行を抱えてトイレに直行した。
吉行の背中をさすりながら、
「どんな飲み方したんだよ。」
「吐いてもスッキリしないな…。」
「吉行…、頑張れよ。」
「ん?」
「頑張ってるやつに、言っちゃいけないって、よく言われてるけど…俺には、これしか言えない。」
「ありがとう。こてっちゃん。」
しばらくトイレで、うずくまっていた吉行だったが、吐くものもなくなり、ヨロヨロとベッドまで歩くと、そのまま眠ってしまった。
虎徹は吉行が、おかしな行動をとらないか心配で、泊まっていくことにした。近くのコンビニで、水や食料等、必要な物を買って戻ると、吉行は、さっきと変わらない体勢で眠っていた。
「吉行、シャワー借りるぞ。」
独り言のように、眠っている吉行に話しかけて、シャワーを浴びた。やっぱり、吉行は、同じ体勢で眠っていた。
(生きてるか?)
虎徹は、心配になって、近くに寄ってみたが、寝息が聞こえてきた。
(本当に、綺麗な顔してるな…。)
眠っている吉行に、呟いた。
「未練タラタラでもいいんじゃねぇの?男って、意外と女々しいぞ。俺なんて、元カノからもらったプレゼントとか、いまだに持ってるし…。」
「え?マジで?」
眠っていたと思った吉行が、ムクっと起き上がった。
「わっ。起きてたのかよ⁈」
「うん。で、元カノに、何もらったんだよ。」
ニヤニヤしながら、虎徹を見つめる。
「とっ時計とか、キーケースとか…なんでもいいだろ。」
「そっかー。」
また、吉行は、ベッドに倒れ込む。
「そんなことより、大丈夫なのか?」
「うん。だいぶ醒めてきた。シャワー浴びてくるわ。」
虎徹は、吉行がシャワーを浴びている間に、部屋の片付けをした。

「片付けしてくれたんだ。ありがとう。」
吉行が、ボクサーパンツ1枚で歩いて来た。なぜか、目のやり場に困る虎徹に、
「こてっちゃん。胸は、ないって」
と、吉行は、Tシャツを着ながら言った。確かに、胸は平らだった。思ったより引き締まった体をしていた。
「あぁ、そうか。ごめん。」
「もともと、胸は小さかったんだよね。」
吉行は、遠くを眺めるような目つきで言った。
「後悔してるのか?」
「してないよ。ちゃんと自分の体になったと思ってる。」
「俺に、何か出来ることってある?」
吉行は、しばらく考えて答えた。
日常ふつうに、いて欲しい。」
「ふつうって?」
「こうやって、バカみたいに飲んだ時に、フォローしてくれたり、大学で一緒に授業受けたり、飯食ったりさ。そういう友達いなかったから。」
「わかった。」
吉行は、嬉しそうに笑うと、
「もう少し寝るわ。こてっちゃん、ベッド使う?」
「俺は、ソファで寝る。」
「じゃあ、おやすみ…今日は、ありがとう。」
吉行は、すぐに寝息を立てて眠ってしまった。虎徹は、いろいろと考えてしまって、なかなか寝付けなかった。
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