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第二章
プロポーズ
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夕食を食べた中華料理屋から、マスターの店までは、歩いてすぐだった。少し前に、結婚の報告をしに来たばかりだったが、今日は、窓際の夜景がよく見える席を予約していた。
「身内なのに、この席いいの?」
麗は、気を遣ってそんなことを言っていた。
「いいの。いいの。たまにはね。」
吉行は、シャンパンを注文した。
「麗好みの、甘口ね。」
「ありがとう。」
今日も麗は、とても綺麗だ。以前のような高価なスーツやワンピースは着なくなったが、カジュアルな洋服もよく似合っている。あまりに、吉行が麗をじっと見つめていたので、
「どうしたの?何かついてる?」
と、不思議そうな顔をしている。
「いや。綺麗だなって思って。」
「また、そんなこと言って。何か欲しい物でもあるのかしら?」
にこにこと笑っている。
「今日は、何してたの?」
吉行は、1日休みだった。
「あぁ、今日ね。洗濯して、部屋の掃除して、買い出しに行って…。麗を待ってた。」
吉行は、ズボンのポケットから、小さな箱を出すと、麗の方を向けて開けた。中には、ダイヤの指輪が入っていた。
「まだ、ちゃんと言ってなかったから。」
吉行は、指輪を麗の左手の薬指にはめた。その左手を、そっと両手で握った。
「麗…。俺と、結婚してください。」
麗は、嬉しそうに、左手の薬指を見た。
「はい。」
吉行は、テーブルの下に用意してあったバラの花束を、麗に渡した。麗は、びっくりしたのと、嬉しいのとが混ざった顔をしていた。
「ありがとう。嬉しい。」
「ちょっとキザだよね。」
吉行は、照れ笑いをして、グラスに残っていたシャンパンを飲み干した。きっと、今までいろんな男性と付き合って来ただろうし、もっと気の利いたことをしてもらっただろうから、このプロポーズは、麗かどう感じたか分からない。でも、吉行が今できることを心を込めてしたつもりだった。
「吉行。ありがとう。私、何もいらないって言ったのに…。わざわざ…私のために。もったいないわ。」
「俺がしたかったんだ。俺の自己満だよ。こんな感じでよかったのか不安。」
吉行は、今、言うべきじゃないと思いつつも、夫婦になるのだから、何でも話すべきだと思って話始めた。
「俺さ、こんなんでいいのかって、いつも不安で自信なくて、ごめん。俺には麗はもったいないって思っちゃうよ。」
「私は、吉行が思ってるような人間じゃないわ。」
麗は、辛そうな顔をした。
「でも、私が吉行のこと好きだから、一緒にいたいって思って…。」
「俺のどこがよかった?」
吉行は、嬉しくなって聞いてみた。
「正直に言うわね…。最初は…顔がすごくタイプだった。でも、一緒にいて、居心地が良かった。素直だし、優しいし、私のためにいろいろしてくれるし。吉行っていう人が好きよ。」
麗は、グラスのシャンパンを飲むと、ふうと、息をついた。
「私ね、ホストに入れ込んでたことがあって、寂しくて。それで、借金しちゃったり、必死で返したけど、結局、自分の所には、何も残らなくて、虚しいわよね。何してるんだろって…。せめて、仕事していっぱい稼ごうって、思った。」
「ホステスの麗も、素敵だったよ。」
「そんなことないわ。あれは偽りの自分。プライドばっかり高くて。嫌な女。」
「お店で人気あったんでしょ?」
「それなりにね…。でも、いつも満たされなかった。」
「俺は、麗に俺の体のことを話しても、受け入れてもらえたことが、本当に嬉しかったよ。」
「今まで、いっぱい辛い思いをして来たよね。私なんかとは、比べものにならないぐらい。」
「そんなの、比べることじゃないし、辛いことは、どんな人にもあるから。」
「吉行は、強いね。強くて優しい。」
「そんなことないよ。俺、自分のこと、周りにカミングアウトしてないから、みんなに嘘ついてるみたいで、後ろめたい気はしてる。」
「カミングアウトしないの?」
「今さら、するつもりはないよ。女性時代の友達とは、疎遠になってるし。それを言ってへんな気を遣わせるのも悪いと思うし。」
「吉行なりの考えがあってのことなのね。いいと思うわ。」
「分からない。どうするのが正しいのか…。」
「何が正しいか…正しい答えはないと思う。吉行が、幸せに過ごせるなら、それでいいんじゃないかな。」
麗は、バラの花束を眺めていた。その綺麗な横顔に、吉行は、つい見とれてしまう。
マスターの店からの帰り道、吉行は、麗と手を繋いで歩いた。
「麗。」
「なあに?」
「もし、違ったらごめん。」
「うん。」
「俺に、気を遣わないで、好きな格好して…その…身長高いの、気にしてるだろ?俺、小さいし。」
「最近、ぺたんこの靴しか履いてないから?」
「ハイヒール履きたかったら、履いてね。」
「私は、ホステスしてた時の格好が窮屈で嫌だったの。だから、今みたいな服が好きよ。」
麗は、にっこり笑うと、
「ありがとう。お披露目会で着る、ウエディングドレスは、憧れのマーメイドラインにするって、決めてるから。」
と、楽しそうに言った。
「マーメイド?」
「そう。身長高い方が似合うのよ。」
「へぇ。」
吉行は、ドレスのことを言われても、ピンと来ないが、麗の希望を叶えてあげたいと思った。
「マスターとも、しっかり打ち合わせしなくちゃいけないな。」
「あと…妊活のことも、少しずつでも進めたい。」
「そうだな。やることいっぱいだ。」
「楽しみね。」
「入籍は、いつにする?」
「4月4日にしない?」
「えっ?俺の誕生日?麗の誕生日の方がいいんじゃない?」
麗の誕生日は、5月1日だった。
「嫌よ。30歳のうちに籍入れたいわ。それに、男の人って、記念日とか忘れちゃうでしょ?だから、誕生日にしておけば、絶対に忘れない。」
麗は、吉行の顔をのぞき込み、
「それに…。」
と、続けた。
「吉行が生まれて来てくれた日に感謝して。」
そう言われて、吉行は嬉しかった。また、鼻の奥がツンとする。最近、涙腺が脆くなってしまったみたいで困る。
「毎年、結婚記念日には、バラの花束贈ってくれる?」
「うん。わかった。約束する。」
「約束よ。」
麗は、また一段と綺麗な表情で笑った。吉行は、この笑顔を絶やさないように、頑張ろうと思った。
「身内なのに、この席いいの?」
麗は、気を遣ってそんなことを言っていた。
「いいの。いいの。たまにはね。」
吉行は、シャンパンを注文した。
「麗好みの、甘口ね。」
「ありがとう。」
今日も麗は、とても綺麗だ。以前のような高価なスーツやワンピースは着なくなったが、カジュアルな洋服もよく似合っている。あまりに、吉行が麗をじっと見つめていたので、
「どうしたの?何かついてる?」
と、不思議そうな顔をしている。
「いや。綺麗だなって思って。」
「また、そんなこと言って。何か欲しい物でもあるのかしら?」
にこにこと笑っている。
「今日は、何してたの?」
吉行は、1日休みだった。
「あぁ、今日ね。洗濯して、部屋の掃除して、買い出しに行って…。麗を待ってた。」
吉行は、ズボンのポケットから、小さな箱を出すと、麗の方を向けて開けた。中には、ダイヤの指輪が入っていた。
「まだ、ちゃんと言ってなかったから。」
吉行は、指輪を麗の左手の薬指にはめた。その左手を、そっと両手で握った。
「麗…。俺と、結婚してください。」
麗は、嬉しそうに、左手の薬指を見た。
「はい。」
吉行は、テーブルの下に用意してあったバラの花束を、麗に渡した。麗は、びっくりしたのと、嬉しいのとが混ざった顔をしていた。
「ありがとう。嬉しい。」
「ちょっとキザだよね。」
吉行は、照れ笑いをして、グラスに残っていたシャンパンを飲み干した。きっと、今までいろんな男性と付き合って来ただろうし、もっと気の利いたことをしてもらっただろうから、このプロポーズは、麗かどう感じたか分からない。でも、吉行が今できることを心を込めてしたつもりだった。
「吉行。ありがとう。私、何もいらないって言ったのに…。わざわざ…私のために。もったいないわ。」
「俺がしたかったんだ。俺の自己満だよ。こんな感じでよかったのか不安。」
吉行は、今、言うべきじゃないと思いつつも、夫婦になるのだから、何でも話すべきだと思って話始めた。
「俺さ、こんなんでいいのかって、いつも不安で自信なくて、ごめん。俺には麗はもったいないって思っちゃうよ。」
「私は、吉行が思ってるような人間じゃないわ。」
麗は、辛そうな顔をした。
「でも、私が吉行のこと好きだから、一緒にいたいって思って…。」
「俺のどこがよかった?」
吉行は、嬉しくなって聞いてみた。
「正直に言うわね…。最初は…顔がすごくタイプだった。でも、一緒にいて、居心地が良かった。素直だし、優しいし、私のためにいろいろしてくれるし。吉行っていう人が好きよ。」
麗は、グラスのシャンパンを飲むと、ふうと、息をついた。
「私ね、ホストに入れ込んでたことがあって、寂しくて。それで、借金しちゃったり、必死で返したけど、結局、自分の所には、何も残らなくて、虚しいわよね。何してるんだろって…。せめて、仕事していっぱい稼ごうって、思った。」
「ホステスの麗も、素敵だったよ。」
「そんなことないわ。あれは偽りの自分。プライドばっかり高くて。嫌な女。」
「お店で人気あったんでしょ?」
「それなりにね…。でも、いつも満たされなかった。」
「俺は、麗に俺の体のことを話しても、受け入れてもらえたことが、本当に嬉しかったよ。」
「今まで、いっぱい辛い思いをして来たよね。私なんかとは、比べものにならないぐらい。」
「そんなの、比べることじゃないし、辛いことは、どんな人にもあるから。」
「吉行は、強いね。強くて優しい。」
「そんなことないよ。俺、自分のこと、周りにカミングアウトしてないから、みんなに嘘ついてるみたいで、後ろめたい気はしてる。」
「カミングアウトしないの?」
「今さら、するつもりはないよ。女性時代の友達とは、疎遠になってるし。それを言ってへんな気を遣わせるのも悪いと思うし。」
「吉行なりの考えがあってのことなのね。いいと思うわ。」
「分からない。どうするのが正しいのか…。」
「何が正しいか…正しい答えはないと思う。吉行が、幸せに過ごせるなら、それでいいんじゃないかな。」
麗は、バラの花束を眺めていた。その綺麗な横顔に、吉行は、つい見とれてしまう。
マスターの店からの帰り道、吉行は、麗と手を繋いで歩いた。
「麗。」
「なあに?」
「もし、違ったらごめん。」
「うん。」
「俺に、気を遣わないで、好きな格好して…その…身長高いの、気にしてるだろ?俺、小さいし。」
「最近、ぺたんこの靴しか履いてないから?」
「ハイヒール履きたかったら、履いてね。」
「私は、ホステスしてた時の格好が窮屈で嫌だったの。だから、今みたいな服が好きよ。」
麗は、にっこり笑うと、
「ありがとう。お披露目会で着る、ウエディングドレスは、憧れのマーメイドラインにするって、決めてるから。」
と、楽しそうに言った。
「マーメイド?」
「そう。身長高い方が似合うのよ。」
「へぇ。」
吉行は、ドレスのことを言われても、ピンと来ないが、麗の希望を叶えてあげたいと思った。
「マスターとも、しっかり打ち合わせしなくちゃいけないな。」
「あと…妊活のことも、少しずつでも進めたい。」
「そうだな。やることいっぱいだ。」
「楽しみね。」
「入籍は、いつにする?」
「4月4日にしない?」
「えっ?俺の誕生日?麗の誕生日の方がいいんじゃない?」
麗の誕生日は、5月1日だった。
「嫌よ。30歳のうちに籍入れたいわ。それに、男の人って、記念日とか忘れちゃうでしょ?だから、誕生日にしておけば、絶対に忘れない。」
麗は、吉行の顔をのぞき込み、
「それに…。」
と、続けた。
「吉行が生まれて来てくれた日に感謝して。」
そう言われて、吉行は嬉しかった。また、鼻の奥がツンとする。最近、涙腺が脆くなってしまったみたいで困る。
「毎年、結婚記念日には、バラの花束贈ってくれる?」
「うん。わかった。約束する。」
「約束よ。」
麗は、また一段と綺麗な表情で笑った。吉行は、この笑顔を絶やさないように、頑張ろうと思った。
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