40 / 45
第二章
話し合い
しおりを挟む
風呂から上がった麗が、吉行の隣に座った。バツの悪そうな顔をしていた。
「ごめん。お酒飲みに行ってた。」
「別にいいよ。何も悪くないよ。俺の方こそごめん。タバコ…。」
「私の前で吸ってないから、大丈夫よ。」
麗は、少し笑っていた。久しぶりに、麗の笑顔を見た気がする。
「気づいてた?」
「気づいてたわよ。匂いで分かる。」
「そっか。ごめん。」
「それより、誰と飲みに行ってたか、聞かないの?」
「俺は、麗を信じてるから、聞かない。それに…夜、家を空ける俺が悪い。」
「それは、仕事だから仕方ないじゃない。」
「最近、避けるみたいにして、ごめん。辛いのは、麗なのに。」
「違うの。なかなか妊娠しなくて、申し訳ないというか…なんか、うまく言えないけど、焦りみたいな。私、どうしても子どもが欲しくて。でも、吉行はそこまでじゃないみたいだから…。」
「俺だって、子どもは欲しい。けど、麗が辛い思いするぐらいなら、いらない。俺は、麗のことが好きだから、麗が幸せって、思えることがしたい。」
「体が辛いんじゃないの。私は、吉行と子どもを育てたいの。うまくいかないこともあるけど、それイコール不幸せではないわ。本当に、体は大丈夫だから、私のそばにいてくれる?」
「それでいいの?俺、麗に何もしてあげられないよ。」
「それがいいの。私は、吉行に何かしてもらいたいんじゃなくて、一緒にいてほしいの。近くで、見ててほしいの。うまくいかない時、一緒にいてくれたら、それだけで十分。」
吉行は、その言葉を聞いて、麗に対して何かしてあげなくてはいけないと、力んでいたが、麗が望んでいたのは、一緒にいて共感することだったのかもしれないと、気がついた。
「もっと早く話せばよかったな。」
「そうね。そしたら、こんなにモヤモヤすることもなかったかもしれないわね。」
少しスッキリした。
「次の排卵日も、お義兄さん、大丈夫って言ってたから、一応、最後の人工授精…。やってみるね。」
「うん。俺も行くよ。」
「ありがとう。」
麗は、吉行の肩にもたれかかった。
「今日ね、高校の同級生…そう、私達のお披露目会の時に、飾り付け手伝ってくれた子のひとりが、おめでたで…。みんなで集まってたの。」
「そっか。みんな集まれてよかったね。」
「うん。でも、私、なんかモヤモヤしちゃって、みんなと分かれてから、またひとりで飲みに行っちゃった。ホステス時代に使ってたバーで、よく知ってる所だから、吉行が心配するようなことはないわよ。」
「飲みたい時もあるよ。でも、やっぱりひとりは危ないから、次からは俺の店に来てよ。」
「うん。」
「ごめん。麗の気持ちから逃げてて。」
「大丈夫。私もごめん。ちゃんと言わないと、分からないわよね。」
吉行は、キッチンから、さっきマスターにもらったお土産の酒を麗に見せた。
「明日、休みでしょ?もう少し、飲まない?」
「いいわよ。吉行は、仕事でしょ?」
「俺は、夕方からだから、大丈夫だよ。」
東北地方の日本酒や、信州のワイン、沖縄の泡盛に、北海道の地ビール、四国の焼酎。日本各地の地酒が数種類箱に詰められていた。
「すごいわね。日本一周旅行でもしたのかしら?」
「ちゃんぽんしたら、ヤバそうだ。どれか1本にしようか?」
「そうね。」
「どれがいい?」
麗は、箱の中から、信州のワインを取り出した。赤ワインのハーフボトルだった。
「これが、気になるわ。」
「飲んでみようか。」
吉行は、ワイングラスに麗の選んだワインを注いだ。香ばしい香りがした。
「じゃあ、仲直り記念に…乾杯。」
「ケンカしてたわけじゃないわよ。」
麗は、クスクス笑いながらグラスを合わせた。元売れっ子ホステスだけあって、所作が綺麗だ。
「あっ。すごくフルーティー。」
美味しそうにワイン飲んでいる顔を見て、やっぱり麗とずっと一緒にいたいと、吉行は思った。きちんと、麗と向き合って、寄り添っていこうと、心に強く誓った。
「酸味と渋みのバランスが絶妙。さすがマスターだなぁ。今度、お礼言わないと。」
他の地酒も試してみたいと思ったが、飲み過ぎてしまいそうだったので、やめておいた。
数日後、マスターから店に、10ケース分もの地酒が届いた。2号店の方にも、同じだけ届いていた。さすがに、これはもらい過ぎだと思い、吉行は、マスターに電話をした。
『マスター。地酒、届きました。』
『おう。届いたか。店で使ってくれ。』
『ありがとうございます。でも、いくらなんでも、多すぎですよ。お金払いますから。』
『いいんだ。受け取ってくれ。俺の気持ちだ。』
『でも…。』
『いいから。他に金遣うところもないしな。』
『そんなことないですよ。まだまだ、先は長いんですから、無駄遣いしないでください。』
『無駄じゃねぇよ。俺が好きでやってるんだから。』
『じゃあ、今度、ご馳走させてください。』
『そうだな。』
『何がいいですか?』
マスターは、少し考えてから、
『手作り料理が食いたいな。煮物とかそういう物。』
『分かりました。僕、料理のセンスがイマイチなので、麗と一緒に何か作りますよ。』
『おう。』
次の休みの日、吉行は、さっそく麗に、手伝ってもらい、肉じゃが、赤魚の煮付け、ほうれん草のごま和えを作った。夕方、マスターの自宅へ届けに行った。しばらくゆっくりすると言っていたので、連絡はせず、ひとりで突然行って驚かそうとした。
マスターの自宅は、単身者向けのマンションだった。部屋の前に行くと、ポストには、管理会社の張り紙がしてあり、空き部屋になっていた。引っ越したなんて話は聞いていなかったので、マスターに、すぐに電話をかけた。
『マスター。あの、今、マスターのマンションに来たんですけど…空き部屋って、なっていて…。』
『なんだ…。そうか…。悪かったな。わざわざ。』
『引っ越したんですか?僕、さっそく手料理持って来たんですけど、どこに届けましょう?』
マスターは、しばらく黙っていたが、
『吉行、他のやつには言うんじゃねぇぞ。』
と言って、今、住んでいる場所の住所を伝えた。
『今から車で、行きますね。』
そう言って吉行は、電話を切った。
すぐに、車に乗り、さっき聞いた住所をナビにセットした。目的地が、郊外にある総合病院付属のホスピスだった。
「どういうこと?」
つい、声に出してしまった。マスターは、病気だったのか?一瞬頭の中が真っ白になった。ホスピスとは、緩和ケアをする所ではなかったかと、積極的な治療はしないで、自分らしく最期を迎える場所。吉行の中では、そんなイメージだった。
「ごめん。お酒飲みに行ってた。」
「別にいいよ。何も悪くないよ。俺の方こそごめん。タバコ…。」
「私の前で吸ってないから、大丈夫よ。」
麗は、少し笑っていた。久しぶりに、麗の笑顔を見た気がする。
「気づいてた?」
「気づいてたわよ。匂いで分かる。」
「そっか。ごめん。」
「それより、誰と飲みに行ってたか、聞かないの?」
「俺は、麗を信じてるから、聞かない。それに…夜、家を空ける俺が悪い。」
「それは、仕事だから仕方ないじゃない。」
「最近、避けるみたいにして、ごめん。辛いのは、麗なのに。」
「違うの。なかなか妊娠しなくて、申し訳ないというか…なんか、うまく言えないけど、焦りみたいな。私、どうしても子どもが欲しくて。でも、吉行はそこまでじゃないみたいだから…。」
「俺だって、子どもは欲しい。けど、麗が辛い思いするぐらいなら、いらない。俺は、麗のことが好きだから、麗が幸せって、思えることがしたい。」
「体が辛いんじゃないの。私は、吉行と子どもを育てたいの。うまくいかないこともあるけど、それイコール不幸せではないわ。本当に、体は大丈夫だから、私のそばにいてくれる?」
「それでいいの?俺、麗に何もしてあげられないよ。」
「それがいいの。私は、吉行に何かしてもらいたいんじゃなくて、一緒にいてほしいの。近くで、見ててほしいの。うまくいかない時、一緒にいてくれたら、それだけで十分。」
吉行は、その言葉を聞いて、麗に対して何かしてあげなくてはいけないと、力んでいたが、麗が望んでいたのは、一緒にいて共感することだったのかもしれないと、気がついた。
「もっと早く話せばよかったな。」
「そうね。そしたら、こんなにモヤモヤすることもなかったかもしれないわね。」
少しスッキリした。
「次の排卵日も、お義兄さん、大丈夫って言ってたから、一応、最後の人工授精…。やってみるね。」
「うん。俺も行くよ。」
「ありがとう。」
麗は、吉行の肩にもたれかかった。
「今日ね、高校の同級生…そう、私達のお披露目会の時に、飾り付け手伝ってくれた子のひとりが、おめでたで…。みんなで集まってたの。」
「そっか。みんな集まれてよかったね。」
「うん。でも、私、なんかモヤモヤしちゃって、みんなと分かれてから、またひとりで飲みに行っちゃった。ホステス時代に使ってたバーで、よく知ってる所だから、吉行が心配するようなことはないわよ。」
「飲みたい時もあるよ。でも、やっぱりひとりは危ないから、次からは俺の店に来てよ。」
「うん。」
「ごめん。麗の気持ちから逃げてて。」
「大丈夫。私もごめん。ちゃんと言わないと、分からないわよね。」
吉行は、キッチンから、さっきマスターにもらったお土産の酒を麗に見せた。
「明日、休みでしょ?もう少し、飲まない?」
「いいわよ。吉行は、仕事でしょ?」
「俺は、夕方からだから、大丈夫だよ。」
東北地方の日本酒や、信州のワイン、沖縄の泡盛に、北海道の地ビール、四国の焼酎。日本各地の地酒が数種類箱に詰められていた。
「すごいわね。日本一周旅行でもしたのかしら?」
「ちゃんぽんしたら、ヤバそうだ。どれか1本にしようか?」
「そうね。」
「どれがいい?」
麗は、箱の中から、信州のワインを取り出した。赤ワインのハーフボトルだった。
「これが、気になるわ。」
「飲んでみようか。」
吉行は、ワイングラスに麗の選んだワインを注いだ。香ばしい香りがした。
「じゃあ、仲直り記念に…乾杯。」
「ケンカしてたわけじゃないわよ。」
麗は、クスクス笑いながらグラスを合わせた。元売れっ子ホステスだけあって、所作が綺麗だ。
「あっ。すごくフルーティー。」
美味しそうにワイン飲んでいる顔を見て、やっぱり麗とずっと一緒にいたいと、吉行は思った。きちんと、麗と向き合って、寄り添っていこうと、心に強く誓った。
「酸味と渋みのバランスが絶妙。さすがマスターだなぁ。今度、お礼言わないと。」
他の地酒も試してみたいと思ったが、飲み過ぎてしまいそうだったので、やめておいた。
数日後、マスターから店に、10ケース分もの地酒が届いた。2号店の方にも、同じだけ届いていた。さすがに、これはもらい過ぎだと思い、吉行は、マスターに電話をした。
『マスター。地酒、届きました。』
『おう。届いたか。店で使ってくれ。』
『ありがとうございます。でも、いくらなんでも、多すぎですよ。お金払いますから。』
『いいんだ。受け取ってくれ。俺の気持ちだ。』
『でも…。』
『いいから。他に金遣うところもないしな。』
『そんなことないですよ。まだまだ、先は長いんですから、無駄遣いしないでください。』
『無駄じゃねぇよ。俺が好きでやってるんだから。』
『じゃあ、今度、ご馳走させてください。』
『そうだな。』
『何がいいですか?』
マスターは、少し考えてから、
『手作り料理が食いたいな。煮物とかそういう物。』
『分かりました。僕、料理のセンスがイマイチなので、麗と一緒に何か作りますよ。』
『おう。』
次の休みの日、吉行は、さっそく麗に、手伝ってもらい、肉じゃが、赤魚の煮付け、ほうれん草のごま和えを作った。夕方、マスターの自宅へ届けに行った。しばらくゆっくりすると言っていたので、連絡はせず、ひとりで突然行って驚かそうとした。
マスターの自宅は、単身者向けのマンションだった。部屋の前に行くと、ポストには、管理会社の張り紙がしてあり、空き部屋になっていた。引っ越したなんて話は聞いていなかったので、マスターに、すぐに電話をかけた。
『マスター。あの、今、マスターのマンションに来たんですけど…空き部屋って、なっていて…。』
『なんだ…。そうか…。悪かったな。わざわざ。』
『引っ越したんですか?僕、さっそく手料理持って来たんですけど、どこに届けましょう?』
マスターは、しばらく黙っていたが、
『吉行、他のやつには言うんじゃねぇぞ。』
と言って、今、住んでいる場所の住所を伝えた。
『今から車で、行きますね。』
そう言って吉行は、電話を切った。
すぐに、車に乗り、さっき聞いた住所をナビにセットした。目的地が、郊外にある総合病院付属のホスピスだった。
「どういうこと?」
つい、声に出してしまった。マスターは、病気だったのか?一瞬頭の中が真っ白になった。ホスピスとは、緩和ケアをする所ではなかったかと、積極的な治療はしないで、自分らしく最期を迎える場所。吉行の中では、そんなイメージだった。
0
あなたにおすすめの小説
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる