8 / 9
8話 お店について その1
しおりを挟む「この薬をいただけますか?」
「毎度、ありがとうございます」
「私はこのアイテムを2ダースいただきたいのだけれど……」
「少々、お時間をいただいて宜しいでしょうか?」
「構わないですよ」
あれからしばらくして、私の店はさらに忙しくなっていった。自らの領地で薬屋のチェーン店を作る貴族も訪れるようになったため、仕入れ元の様相も呈しているからだ。いえ、この店は仮店舗だし、個人経営のお店なんですけれど……。
「あの、少しよろしいですか?」
「なんでしょうか?」
先ほど、私のアイテムを2ダース購入してくれた人に尋ねている。この方は薬屋のチェーン展開事業をしている、マグアイ・コスパ伯爵だ。伯爵自らが訪れているのが凄いけど、不思議な点があった。
「前にチェーン店舗を経営していると伺いましたが、私の店のアイテムだけではとても数が足りないと思うのですが……?」
「ええ、わかっております。これらのアイテムはあくまでも見本です」
「見本……?」
「はい、見本です。従業員を雇い、アイテムの複製作業をさせているのですよ。品質は当然、メドロア様ほどにはならないでしょうが、商品としては十分な物を作っております」
「な、なるほど……」
やはり、伯爵様だけあって考えることが利益に傾いているのね。品質は落ちるけど、安いアイテムを大量に生産するってことか。薄利多売というやつかしら……確かにチェーン店舗にするなら、それがもっとも効率が良いだろうけれど。
「メドロア様、ご安心を。オニキス家にも利益が入るようにロイヤリティとして、売り上げの何パーセントかを上納いたしますよ」
「上納って……なんだか、怪しい雰囲気がするんですが……」
「ふふ、確かに。ですが、商売をする上では重要なことです。メドロア様も覚えておいた方が良いでしょう。そうでなければ、自らの才能を掠め取られてしまうかもしれませんよ?」
マグアイ様はおそらく、私の為に言ってくれているのだろう。仕入れ元の様相を呈するようになって、仕入先からのロイヤリティ等がまったくない状態が続いた場合、言い方は悪いけれど、私の薬がただ売られているだけになってしまうからね。
個人で使用するお客様はともかくとして、私の薬を他の店で出す予定の人々には、個別に話し合いをした方が良いかもしれないわね。
「そう言えば、メドロア様はアゼールト・ローマン公爵の下で働いていらっしゃったのですかな?」
「あ、はい……元婚約者でもありました」
「ほほう、その時に明確な給料は出ていたのですか?」
「一応出てはいましたが、4万ゴールド前後とかなり曖昧な数字でしたね。婚約者だったので、契約書なども交わしていませんでしたし……」
「ふ~む、それはいけませんな。体よく利用されていただけに思われます。それに月に4万ゴールド……ははは、これ程のアイテムを作れるお方を4万ゴールドで雇うとは、ローマン公爵のアイテム製造ラインは相当に潤っていたでしょうな」
ま、まさか……役立たずとまでは言われなかったけれど、私の代わりは普通にいるみたいに言われていたけれど……。
「4万ゴールドというのは流石に安すぎる。5倍の20万ゴールドを支払ってもまだ、お釣りが来るレベルではないですかな」
なんだかいつの間にか、コスパ伯爵との売り上げについての話し合いになっていた。とても興味のあるテーマではあるので、私も真剣に聞いていたけれど。
それにしても、20万ゴールド……!? 一般的な国民の10倍の給料になるのだけれど……いやいや、流石にそれはおかしいわ。私はたくさんいる錬金術師の一人でしかないのだし。
0
あなたにおすすめの小説
「無能な妻」と蔑まれた令嬢は、離婚後に隣国の王子に溺愛されました。
腐ったバナナ
恋愛
公爵令嬢アリアンナは、魔力を持たないという理由で、夫である侯爵エドガーから無能な妻と蔑まれる日々を送っていた。
魔力至上主義の貴族社会で価値を見いだされないことに絶望したアリアンナは、ついに離婚を決断。
多額の慰謝料と引き換えに、無能な妻という足枷を捨て、自由な平民として辺境へと旅立つ。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです
藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。
家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。
その“褒賞”として押しつけられたのは――
魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。
けれど私は、絶望しなかった。
むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。
そして、予想外の出来事が起きる。
――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。
「君をひとりで行かせるわけがない」
そう言って微笑む勇者レオン。
村を守るため剣を抜く騎士。
魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。
物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。
彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。
気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き――
いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。
もう、誰にも振り回されない。
ここが私の新しい居場所。
そして、隣には――かつての仲間たちがいる。
捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。
これは、そんな私の第二の人生の物語。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?
卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。
柊
ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。
そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。
すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる