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20話
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あの日から、しばらく時間が経過した……。
あの日というのはもちろん、レイナがくすぐりの刑を受けてシーザー様の屋敷に監禁されていた時のこと。正確には1か月くらい経過している。
「そういえば、アリス。あれからどうなんだ?」
「あれからっていうのは、何を指すのかしら?」
私とジェームズは馬車に乗って、貴族街を走っていた。向かう先は新しく建造された、彼の屋敷だ。私とジェームズは正式に婚約を締結している。つまりは、彼の屋敷は私の帰るべき場所みたいなもので……なんだか嬉しい。
ちなみに愛犬のジョセフは馬車の後ろから元気に走って付いて来ている。決して虐待なんかじゃないわよ? 魔犬だから馬車くらいの速度は普通に出せるの。
「わんわんっ!!」
「ジョセフ、今日も元気ね」
「ははっ、私達を祝福してくれているのかな?」
「そうかもしれないわね。それで? 何のことを聞きたいの?」
「ああ……レイナとシーザー様のことだよ。彼らは上手くいっているのかな?」
「ああ、そのこと」
彼らのことを私に聞いてくるあたり、ジェームズはあれから、シーザー様とは連絡を取っていないみたいね。趣味の関係でなんだか、男の友情みたいなものが芽生えそうになっていたけど、気のせいだったのかしら。
「普通……らしいわ。あれから特に調教? 紛いのことは受けていないらしいけど。レイナのことだから、すぐに別れを切り出すかと思ったけれど、未だに婚約はそのままよ」
「そうなのか。私が言うのも変だが、レイナはあんまことをされてすぐに別れるものだと思っていたがな」
「そうね……」
私も確かにそのように考えていた。くすぐりの刑から解放された直後のレイナは、とても不満そうだったから。それにシーザー様から特に謝罪の言葉があったとも聞いていない。それなのに、彼ら二人はまだ婚約関係にある。それの意味するところはつまり……。
「もしかして……レイナのお腹の中には既に子供が……?」
結婚前の情事……我が国でもあまり褒められたものとしては認知されていない事柄だ。格好良い見た目とは裏腹にムッツリスケベ気味のジェームズがそう考えても仕方のないことかもしれない。
でも、それは間違いだ。私は首を横に振る。
「私も最初はそれを考えたけれど、どうやらそうではないみたいなのよね」
「そうなのか? じゃあ、一体真実は……?」
真実は……非常に簡単なことだ。
「レイナは元々はシーザー様の外見に惚れたのよ。だから……別れない理由はそれだけ」
「ああ、なるほど。そういうことか」
「ええ、とても単純なことでしょう?」
「まあ、婚約の相手を見た目だけで選ぶのはどうかとは思うが……今回の件でレイナも強くなったと信じたいね」
「それはそうね。あの子には昔から迷惑を掛けられていたけど……たった一人の大切な姉妹であることには変わりないし。今更だけれど、自分のやったことを後悔しているわ」
シーザー様を引き合わせた件……今にして思えば酷いことだったのかもしれない。レイナへの復讐と自由になることを兼ねて行ったのだから。
「まあいいじゃないか。反省する時間はこれからたくさんあるんだし。私が隣に居るからさ」
「ジェームズ……ありがとう。あなたが傍に居てくれれば、私はなんだってできそうだわ」
「ん? 今、なんだって出来そうだと言わなかったかい?」
「さあ、何のことかしら?」
私はジェームズの言葉を適当に受け流して馬車から見える青空を眺めた。本日も驚くほどの晴天だ……今頃、レイナとシーザー様は何をしているのだろうか?
お互いの道は決して交わることはないけれど、時には協力する時が生まれるかもしれない。その時まで、私はより成長を遂げていようと思う。あの妹に負けるのだけは我慢ならないからね。
「わんわんわんっ!」
馬車の背後から迫ってくるジョセフが、とうとう馬車と並行に走り私と視線を交錯させた。ジョセフも私にエールを送ってくれているみたいね。私は非常に周りの環境に恵まれていると思う。今も、そしてこれからも貴族令嬢として頑張っていけるだろう。
そう……ジェームズ・ルーグナー公爵の傍らで……。
それにしても……ジェームズとの子作りはどんな感じになるのかしら? 変態的な要求とかはしてこないわよね……?
おしまい
あの日というのはもちろん、レイナがくすぐりの刑を受けてシーザー様の屋敷に監禁されていた時のこと。正確には1か月くらい経過している。
「そういえば、アリス。あれからどうなんだ?」
「あれからっていうのは、何を指すのかしら?」
私とジェームズは馬車に乗って、貴族街を走っていた。向かう先は新しく建造された、彼の屋敷だ。私とジェームズは正式に婚約を締結している。つまりは、彼の屋敷は私の帰るべき場所みたいなもので……なんだか嬉しい。
ちなみに愛犬のジョセフは馬車の後ろから元気に走って付いて来ている。決して虐待なんかじゃないわよ? 魔犬だから馬車くらいの速度は普通に出せるの。
「わんわんっ!!」
「ジョセフ、今日も元気ね」
「ははっ、私達を祝福してくれているのかな?」
「そうかもしれないわね。それで? 何のことを聞きたいの?」
「ああ……レイナとシーザー様のことだよ。彼らは上手くいっているのかな?」
「ああ、そのこと」
彼らのことを私に聞いてくるあたり、ジェームズはあれから、シーザー様とは連絡を取っていないみたいね。趣味の関係でなんだか、男の友情みたいなものが芽生えそうになっていたけど、気のせいだったのかしら。
「普通……らしいわ。あれから特に調教? 紛いのことは受けていないらしいけど。レイナのことだから、すぐに別れを切り出すかと思ったけれど、未だに婚約はそのままよ」
「そうなのか。私が言うのも変だが、レイナはあんまことをされてすぐに別れるものだと思っていたがな」
「そうね……」
私も確かにそのように考えていた。くすぐりの刑から解放された直後のレイナは、とても不満そうだったから。それにシーザー様から特に謝罪の言葉があったとも聞いていない。それなのに、彼ら二人はまだ婚約関係にある。それの意味するところはつまり……。
「もしかして……レイナのお腹の中には既に子供が……?」
結婚前の情事……我が国でもあまり褒められたものとしては認知されていない事柄だ。格好良い見た目とは裏腹にムッツリスケベ気味のジェームズがそう考えても仕方のないことかもしれない。
でも、それは間違いだ。私は首を横に振る。
「私も最初はそれを考えたけれど、どうやらそうではないみたいなのよね」
「そうなのか? じゃあ、一体真実は……?」
真実は……非常に簡単なことだ。
「レイナは元々はシーザー様の外見に惚れたのよ。だから……別れない理由はそれだけ」
「ああ、なるほど。そういうことか」
「ええ、とても単純なことでしょう?」
「まあ、婚約の相手を見た目だけで選ぶのはどうかとは思うが……今回の件でレイナも強くなったと信じたいね」
「それはそうね。あの子には昔から迷惑を掛けられていたけど……たった一人の大切な姉妹であることには変わりないし。今更だけれど、自分のやったことを後悔しているわ」
シーザー様を引き合わせた件……今にして思えば酷いことだったのかもしれない。レイナへの復讐と自由になることを兼ねて行ったのだから。
「まあいいじゃないか。反省する時間はこれからたくさんあるんだし。私が隣に居るからさ」
「ジェームズ……ありがとう。あなたが傍に居てくれれば、私はなんだってできそうだわ」
「ん? 今、なんだって出来そうだと言わなかったかい?」
「さあ、何のことかしら?」
私はジェームズの言葉を適当に受け流して馬車から見える青空を眺めた。本日も驚くほどの晴天だ……今頃、レイナとシーザー様は何をしているのだろうか?
お互いの道は決して交わることはないけれど、時には協力する時が生まれるかもしれない。その時まで、私はより成長を遂げていようと思う。あの妹に負けるのだけは我慢ならないからね。
「わんわんわんっ!」
馬車の背後から迫ってくるジョセフが、とうとう馬車と並行に走り私と視線を交錯させた。ジョセフも私にエールを送ってくれているみたいね。私は非常に周りの環境に恵まれていると思う。今も、そしてこれからも貴族令嬢として頑張っていけるだろう。
そう……ジェームズ・ルーグナー公爵の傍らで……。
それにしても……ジェームズとの子作りはどんな感じになるのかしら? 変態的な要求とかはしてこないわよね……?
おしまい
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