婚約破棄ですか？ 慰謝料は貰いますよ。

1話

「おい、セシル」

「なんでしょうか、ヴァード様？」

「そういうわけだから、お前との婚約は破棄させてもらうぞ。私は別の女と付き合うことにする」

「ヴァード様……どういうことですか？」


　意味が分からなかった。いきなり婚約者のヴァード・クトリフ侯爵に婚約破棄を言い渡されたわけで……信じれらなかった。

「ヴァード様、いきなり婚約破棄だなんてどういうことですか？　何かの冗談ですか？」

「冗談なわけあるか。お前は色々とうるさい奴だと分かったからな。婚約破棄も辞さないということだ」


　私がヴァード様にうるさく言ったのは、ヴァード様に問題があるからだ。彼は浮気紛いのことを色々としていたのだし。うるさく言われて当然なわけで……。


「婚約破棄だなんて、納得できません！　うるさく言われているのは、ヴァード様に原因があるからではありませんか！」

「本当にうるさい奴だな、お前は……侯爵ともなれば、人付き合いが豊富になるのは当然のことだ。合わせて肉体関係も豊富になっているのだよ」


　めちゃくちゃな理論だった。ヴァード様は普通に善悪の区別が付いていないように見える。

「とにかく婚約破棄は決定事項だ。私はセシル・ミスト伯爵令嬢より上の女と結婚するさ」

「そうですか、まさか、そんなことを言われるとは思っていませんでした……」


　本当に信じられない。なぜ、こんなにも婚約破棄を普通の顔で言う人が存在するなんて。これがヴァード・クトリフ侯爵の本性……あり得ない思いだ。


「わかりました、ヴァード様」

「婚約破棄を認めてくれるか。感謝するぞ」

「ただし、慰謝料は絶対に多くいただきます。相場以上の慰謝料を貰いますが、問題ありませんね？」


　渾身の反論だった。私は納得いっていない……でも、ヴァード様は絶対に認めないはずだ。だからこそ、最低でも多くの慰謝料を請求してやろうと思ったわけで。


「何を馬鹿なこと言っているんだ？　セシル、お前如きが慰謝料を請求できる立場だと思っているのか？」

「えっ！？　どういうことですか……？　慰謝料を支払わない？」

「当たり前だろう？　侯爵がどうして伯爵令嬢に慰謝料を出さないといけないんだ？」


　どういう理屈だろうか。おおよそ侯爵の言葉ではない。これは侯爵家の権力を行使しているということだろうか……信じられない。

「というわけだから、さっさと出て行ってもらおうか。私もなにかと忙しいのでな」

「ちょっと待ってください……いくらなんでもこれは……！」

「出て行かないのであれば、力づくで追い出すがそれでも良いのか？」

「ヴァード様……！」


　ヴァード様は本気のようだった。これ以上粘ったとすれば、私は大怪我をしてしまうかもしれない。選択の余地がなかった。私は荷物をまとめて、彼の屋敷から出て行った。どうしてこんなことに……。