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12話 売上の向上

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 カイル王子殿下御用達のお店……そういう触れ込みをした結果でもあるけれど、私の薬屋は売上を大きく伸ばしていた。材料が必要なく、いわゆる魔法的な能力で生み出せる薬草や毒消し草……お店経営に回ることで、私のスキルを再確認できた形になっている。


 立地条件が墓地の近くということもあって、客足が遠のいている側面もあると思うけど、それでも冒険者を中心に、私の店に来るお客さんは確実に増えていた。これもお店の場所を提供してくれたアミルと、安全の保障をしてくれたカイル王子殿下のおかげだと思う。


 このまま順調に進んで行けば、私は一生左団扇の人間になることができるかもしれないわ。といっても、仕事をしている時点で、左団扇は無理なんだけどね……。


「うふふ、ご機嫌ですわね、エメラダ」


 ふと隣を見ると、アミルが笑顔で私に視線を合わせていた。私の上機嫌の根幹は彼女にある……私はつい、アミルを抱きしめてしまった。


「きゃあ……! ど、どうしたんですの? 私にそっちの気はありませんことよ?」

「ちょっと、なに変な勘違いしてるのよ……! でも、お礼みたいなものね」

「お礼ですか……?」


 アミルが薬屋経営を推奨してくれなかったら、現在の私は存在しないわけで……そういう意味では、彼女は大きな功労者と言えるかもしれない。お金でどうこうという領域ではないけれど、見合った報酬を払わないとね。


「アミルには本当に感謝してる! アミル自身の仕事もあるのに……本当にありがとう!」


 言葉ではとても感謝を言い表すことはできないけれど、私は精一杯のトーンでアミルに伝えた。


「ありがとうございます、エメラダ。その気持ちはとても嬉しく思いますわ。でも、これは親友として私が行ったこと……必要以上の感謝はいりませんわ」

「アミル……」


 それがアミルの本音なんだと思う。ただ、友人の為に行った善意ということかしら。アミルは本当に返礼を求めてはいない……報酬という形では贈りたいと思うけど、これ以上の言葉でのお礼は、逆に迷惑になるかもしれないわね。

 私はアミルの意志を尊重し、それ以上は言わないでおくことにした。このやり取りの間にも、お客さんは訪れてくれている……私は作り置きしていた薬草などを切らさないように、精神を集中させるのに全力を尽くした。


 簡単な商売ではないけれど、楽しいと思える薬屋経営……私はこの商売を末永く続けていきたいと思っている。
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