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12話

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「自分の家だと思ってゆっくりしてくれ」

「し、失礼いたします……」


 私は全身を緊張感に包まれながら、バルサーク様が案内してくれた一室に入った。そこに置いてあるソファに座らせていただく。バルサーク様は私が座ったのを見計らって対面のソファに腰を下ろした。


 私達二人が座ったのを見計らい、エリーゼさんとヨハンさんは隅の方へと移動した。それから程なくしてコーヒーが運ばれてくる。高級そうなお茶菓子と一緒に……。完璧なタイミングに正直、驚いてしまった。おそらく相当に訓練された使用人達なんだと思う。


 エリーゼさんとヨハンさんは相変わらず笑顔なので、接しやすくはあるけれど、護衛という印象があまりない。


「なんだか、不思議な感じです……」

「そうか? あまり落ち着かないか?」

「はい……こんな立派なお屋敷をいただけるなんて、とても了承できません」

「ローザの立場からすれば、当然、そうなるか」

「はい……」


 バルサーク様はどこか残念そうにしていたけれど、私がこの屋敷を貰い受けることを断るというのは予想していたようね。外観はローザハウスに似ているけれど、庭の面積や建物内部の装飾品の豪華さはかなりの差があると言えるだろう。

 こんな豪邸を理由もなく受け取るなんて、とてもじゃないけど出来るわけがない。もちろん、バルサーク・ウィンドゥ大公殿下の命令ともなれば別の話かもしれないけれど……。ただ、バルサーク様がそんな無茶な命令をするとはとても思えない。私の気持ちを考えてくれていそうだし。


「とりあえず、この屋敷の件は保留にしておこうか。なんだか、保留ばかりで申し訳ないが……」

「いえ、そんなことは……」

「ただ、私は昔からローザ嬢のことは見ていた。パーティーでの一幕だったり、家族や親戚と遊んでいる時だったり……」

「そんなところまで、見ていてくれたのですか……? どうして……?」

「一目惚れだ」

「ええっ!?」


 私は一気に顔が真っ赤になっていくのを感じた。まさか、バルサーク様の口からそんな言葉が出るなんて思わなかったから。

「とまあ、それは冗談だが……」

「じょ、冗談なんですね……驚きました……」

「私は今でこそ自分を制御出来ているとは思うが昔は違った。貴族の最上位クラスの立場にいずれは立つ存在……王族として生まれた責任に苛まれていたんだ。そんな時、君の姿が目に入った。貴族令嬢であるはずの君はとても自由に楽しさを享受しているように映ったのだ。ああ、これは私の勝手な憶測だ。当時の君にも色々な悩みを抱えていたということは承知している」

「いえ、そういっていただき光栄です」

「少なくとも私の中で希望の光のように映ったのだ。これは……ある意味では一目惚れというやつだろうか。それからだ、ローザ嬢の姿を自然と追うようになったのは」

「左様でございましたか、そのようなことが……」


 私の一挙手一投足がまさか、バルサーク・ウィンドゥ大公殿下に希望を与えていたなんて……世の中、何が起きるか本当に分からないわね。当時はお互いに幼かった時期でもあるだろうし、猶更、感受性が豊かだったのかしらね。

「幼い頃、私はリシェルに手を焼かされていました。彼女は自分の容姿に絶対の自信をもっていましたし……対外的な態度は良かったはずです」

「だろうな。しかし、なぜだか私は彼女には惹かれなかった。口に出すことは難しいが……本能が悟っていたのかもしれない」

「なるほど……本能ですか……」


 だとしたら、バルサーク様の嗅覚は幼い頃から凄まじかったということになる。あのリシェルの外面を遠くから見て看破するなんて、並大抵のことではないはずだし。

「さて、明日以降、早速始めるとしようか」

「な、何をでしょうか……?」

「決まっているだろう? 調子に乗り過ぎた妹に自分の立ち位置を分からせるのだよ」


 この時のバルサーク様は先ほどまでと一転して真剣な表情をしていた。それに呼応するかのように、エリーゼさんとヨハンさんも、ポキポキと拳の骨を鳴らしている。

 バルサーク様もそうだけれど、エリーゼさんとヨハンさんのギャップが特に怖かった。やっぱりこの二人は、バルサーク様の専属護衛なんだと実感できるほどに。
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