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12話

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「オムニ殿、シズハ嬢……もう少し話をしたいのだが」

「話でしょうか? それはどちらの話になりますか?」

「そんなことは言わなくても分かるだろう。フィリアとのことだよ」

「……わざわざ、この視察地に来てまで彼女の話をするというのは……私としては納得が出来ないのですが……」


「これは私からの友好的な提案に過ぎないよ。嫌なら断ってくれて構わない」

「……」


 オムニ様は何も答えなかった。先ほどの慰謝料を支払うという話では納得いかないのは、ライマ様も同じなのだと思うわ。私だって納得しているわけではないし……慰謝料なんて支払うのが当たり前のところだから。

 ライマ様は断っても良いとしているけれど、断ることを許さない雰囲気は出しているようだった。


「はあ……わかりました、ライマ王子殿下。貴方様との話には乗りましょう。ただし、日にちを空けていただけますか? この場は視察地だ……婚約破棄の話には適さないと思いますので」


「よかろう、オムニ殿。婚約破棄の件で話ができるのなら日にちが空いたって構わないさ。日取りなどはそちらで決めてくれるのかな?」

「左様でございます、お決め致しますよ。連絡は……フィリアに送ってよろしいのですか?」

「ああ、それで構わないよ。フィリアもそれでいいかな?」

「ええ、大丈夫です」

 オムニ様からの連絡が来るのは困ってしまうけれど、ライマ王子殿下の連絡先なんて分からないだろうから、これは仕方ないわね。


「……それでは、話もまとまったと思いますので、私達はこれで失礼させていただきます」

「失礼致します、王子殿下」


 オムニ様とシズハ様の二人は頭を下げてその場から去って行った。オムニ様はともかくとして、シズハ様は終始、動揺していたわね。自分達が悪いことを自覚しているのかもしれない。オムニ様は……終始、ポーカーフェイスで分かりにくかったけれど、一言、謝罪をして欲しかったとは思うわ。


「なんとかなったか……しかし、オムニ殿は……想像していたのよりも冷静だったな」

「観察されていたのですか?」

「ああ、まあそういうことになるか。私の立場で婚約破棄の件を問い詰めればもっと動揺するかと思っていたのだが、そうでもなかったな。しかし、苦肉の策とも言える慰謝料で誤魔化そうとしたところは、動揺の現れと言えるのかもしれない」


「次の話し合いの時、どのようになるのでしょうか?」

「それは分からないが、向こうも何らかの対策を講じて来るかもしれないな……気を付けるに越したことはない」


 対策……か。一体どんなものなのかしら? 宗主国の王子であるライマ様に撃てる対策なんて、ないように思えるけど……。
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