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しおりを挟む「エリス、今話した通り、私はナープと婚約することになった。お前とは婚約破棄だ」
「モトレー様、そんな……!」
突然の婚約破棄の話。私は理解できなかった。目の前にいる人は私の婚約者であり、モトレー・クリオス伯爵だ。私の名前はエリス・ミュール。今年で17歳になる子爵令嬢であり、モトレー様とは最近になって婚約をした。
それなのに……。
「モトレー様、どうか考え直してください! 浮気が原因の婚約破棄だなんて。クリオス伯爵家の名が汚れてしまいますよ?」
「うるさい奴だな。浮気とはずいぶんな話じゃないか。私がいつ浮気をしたと言うんだ? 単にお前が私の域には達していなかっただけの話だろう?」
「夜になると、ナープ様を連れ込んでいるのは知っています。あれを浮気を言わずして、何を浮気と言うんですか?」
ナープ・アマリ―伯爵令嬢はモトレー様の幼馴染なはずだ。仲が良いのは認めるけれど、流石にベッドを同じにするのは浮気以外の何ものでもないはず。私は既にその現場を何回も見ていた。
「浮気などは存在しない。表沙汰にならない事件は素通りされていくものだからな」
「表沙汰にはならない? どういう意味ですか?」
浮気による婚約破棄は必ず表沙汰になる。婚約破棄自体は国王陛下からの許可がないと出来ないはずだし。その時にバレるのは明白であるけれど……モトレー様は余裕の表情を崩していなかった。
「浮気は存在していないのだよ、エリス。分かっているな? そんなものは最初からなかった。そういうことだ」
「ま、まさか……モトレー様……」
「今回の婚約破棄はお前の能力が足りていなかったから行われたんだ。そうとしか表沙汰にはならない」
「そんな……!」
モトレー様は浮気の件を隠蔽するつもりだった。そんなこと許せない……!
「黙っておけよ、エリス。もしも、表沙汰にしたら……その時はお前の家がどうなるか、わかっているだろうな?」
「も、モトレー様……嘘……」
「浮気なんて存在しなかった。これが皆に伝わる真実だ。お前は能力不足ゆえに婚約破棄をされてしまうんだよ。ま、自業自得というやつだな」
モトレー様は婚約破棄を絶対にするつもりのようだった。話は既に浮気の件の隠蔽に差し掛かっていたのだから。私は何も言うことができなくなった。私が下手に騒げば監禁されるかもしれないし、何よりもお父様たちに危害が加えられるだろう。ミュール家は子爵家でしかないし、クリオス伯爵家には到底及ばない。
「……」
こんなことが現実に起こるなんて思わなかった。地位で勝るモトレー様は簡単に婚約破棄をし、さらに浮気の隠蔽まで行おうと言うのだから。そしてそれは確定してしまうだろう。誰もモトレー様に逆らうことはできないのだから。
私は彼の屋敷から追い出され、強制的に能力の未熟な子爵令嬢というレッテルが貼られた。婚約破棄の成立だ。
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