伯爵は意気揚々と婚約破棄をしたが、彼女の領内での努力を甘く見ていたようです

マルローネ

文字の大きさ
1 / 13

1話 婚約破棄されたアリサ

しおりを挟む

 私ことアリサ・シドニーは男爵家に生まれた長女だ。マリンキー地方を治めるバルカン・ヨーゼフ伯爵の婚約者になることが出来た。これは家としては非常に大きな収穫と言える。私にはグレス兄さんがいるので、私は結婚しなければいずれは一般人になる身だった。

 シドニー家自体の歴史が浅いのと男爵という立場所以の話だ。グレス兄さんはお父様の跡を継いで男爵としての地位を確立できるだろうけど、女である私は違った。そういう意味では22歳の誕生日に婚約者が決まったのは大きいと思う。

「バルカン様……私はもう我慢できません……」

「何を言うんだ、アリサ。可愛い顔が台無しだよ?」

 バルカン様は私を舐めまわすように見ていた。私は思わず引いてしまう……将来の夫への態度として考えればあまり良くないことだとは思う。でも、私は我慢することが出来なかった。彼の……バルカン様の浮気について問い質しているのだ。

 最初は、私みたいな男爵令嬢を婚約者に据えてくれたバルカン様には感謝しかなかった。自分ではそこまで考えていなかったけれど、私の外見を好きになってくれたのも嬉しかった。22歳という年齢はオウデール王国内ではやや遅咲きの歳になる。早い貴族令嬢は10代での婚約が普通だから。まあ、それには色々と理由があるのだけれど……そんな私をマリンキー地方という広大な土地を治める伯爵様が選んでくれた。

 これは素直に嬉しいことだ。バルカン様は今年で32歳になるけれど、今回で3度目の婚約になる。ややその回数が気にはなったけど、蓋を開けてみるとそういうわけだったのだ。

「幼馴染の方を含めて、複数の女性と関係を続けていますよね? それを止めていただけませんか?」

「それは無理な注文だ、アリサ。私はアリサを大切にしていきたいと思っているが、浮気は止められないのだ。ああ、こういう場合は浮気とは言わないか。私の立場が必要とする付き合いみたいなものだろう」

「……」

 もっともらしいことを言ってはいるけど、単なる浮気を誤魔化す為の手段でしかない。1年間この方の傍に居てそれが分かってしまった。

 私はこの1年間、彼の領地について色々と勉強してきたのだけれど、彼は色々と理由をつけては仕事をサボる人でもあった。

「バルカン様のお言葉にはもう騙されません。お願いですから、今の浮気相手全てとの関係を絶ってください。お願いします」

「……ちっ、お堅い奴だな。そんな気はしていたが……この1年間、身体を許さなかったのもそれが関係しているのか」

「ば、バルカン様……?」

 その時、バルカン様の口調が変化した。普通に怖い……私の印象はそんな感じだった。

「もういいよ、アリサ。お前の美しい身体は非常にもったいないが……婚約破棄だ。今すぐ、この屋敷を出て行け」

「バルカン様……!? 何をおっしゃっているんですか……?」

 意味が分からない言葉が飛んできた。何を言っているんだろう、この人は……?

「うるさい! お前とは婚約破棄だ! 単なる男爵令嬢が良い気になりやがって! 私に対してそんな口を利けるとは良い度胸だな? ああ?」

「バルカン様……そんな……」

「今すぐ出て行け、アリサ。お前は顔と身体が非常に好みだったが、仕方ない。別の男を見つけることだ。まあ、身分の低いお前など私が捨てれば誰も拾ってはくれないだろうがな。婚約破棄と言う汚名はお前の家に直接のダメージを与えるだろうし、誰も近づかないだろう。街の裏通りで娼婦でもすれば生きて行けるんじゃないか? ふはははははっ!」

 信じられない言葉がバルカン様から発せられた。こんな人の傍には居たくないというのは私も同じではあるけれど……こんな一方的な婚約破棄があるだろうか? しかも、悔しいことにバルカン様の言葉は的を射ているのだ。

 22歳の男爵令嬢にして、婚約破棄をされた者……こんな人物を貰ってくれる方が果たして今後現れるのだろうか? 私は半ば放心状態で彼の屋敷を追い出されることになった……。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!

月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、 花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。 姻族全員大騒ぎとなった

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜

有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。 「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」 本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。 けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。 おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。 貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。 「ふふ、気づいた時には遅いのよ」 優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。 ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇! 勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

聖女を無能と罵って婚約破棄を宣言した王太子は追放されてしまいました

もるだ
恋愛
「お前とは婚約破棄だ! 国から出ていけ!」 王命により怪我人へのお祈りを続けていた聖女カリンを罵ったのは、王太子のヒューズだった。若くて可愛い聖女と結婚するつもりらしい。 だが、ヒューズの暴挙に怒った国王は、カリンではなく息子の王太子を追放することにした。

「犯人は追放!」無実の彼女は国に絶対に必要な能力者で“価値の高い女性”だった

佐藤 美奈
恋愛
セリーヌ・エレガント公爵令嬢とフレッド・ユーステルム王太子殿下は婚約成立を祝した。 その数週間後、ヴァレンティノ王立学園50周年の創立記念パーティー会場で、信じられない事態が起こった。 フレッド殿下がセリーヌ令嬢に婚約破棄を宣言した。様々な分野で活躍する著名な招待客たちは、激しい動揺と衝撃を受けてざわつき始めて、人々の目が一斉に注がれる。 フレッドの横にはステファニー男爵令嬢がいた。二人は恋人のような雰囲気を醸し出す。ステファニーは少し前に正式に聖女に選ばれた女性であった。 ステファニーの策略でセリーヌは罪を被せられてしまう。信じていた幼馴染のアランからも冷たい視線を向けられる。 セリーヌはいわれのない無実の罪で国を追放された。悔しくてたまりませんでした。だが彼女には秘められた能力があって、それは聖女の力をはるかに上回るものであった。 彼女はヴァレンティノ王国にとって絶対的に必要で貴重な女性でした。セリーヌがいなくなるとステファニーは聖女の力を失って、国は急速に衰退へと向かう事となる……。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

処理中です...