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5話 婚約パーティー その2
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「テレーズ、緊張しているか?」
「はい……とても緊張しています……」
「今回は私と君の為のささやかなパーティーだ。それほど気負う必要はない……と言いたいところだが、そうも言っていられないか」
「も、申し訳ありません……」
「いや、謝る必要はないが」
本日は私とカイン・サンタローズ辺境伯の婚約を記念しての、パーティーが開催される。パーティーなのだから、他の貴族の方々もお越しになるのだ。それが私にとっては緊張の種になっていた。右手と右足が同時に出る程には緊張してしまっている。
時折、深呼吸をして体調を整えないとまずいことになりそうだ。
「テレーズもパーティーには何度も出席しているだろう?」
「パーティー自体には、確かに何度も出ておりますが……」
カイン様は平気な様子だけれど、私はそうはいかなかった。なぜなら……今回の出席者のお方にその原因がある。伯爵家系の方々も出席されるけど、公爵家系の方と王族の方も出席されるからだ。通常のパーティーでは考えられない面子と言えるだろう。
と、そんな時だった。カイン様が私の手を優しく握ってくれたのは。
「か、カイン様……?」
「これで少しは落ち着いたかな?」
「あ、そうですね……はい、ありがとうございます」
「どういたしまして。テレーズの為ならばお安い御用さ」
と、カイン様は歯の浮くような名文句を言ってくる。こういう言葉は反則だ……なんて答えれば良いのか分からなくなるから。カイン様にはとても似合っている言葉というのが余計に返せない要因となっていた。
「そういえば、マリア姉さま達は来るのでしょうか……?」
「マリア殿とラゴウ殿だな……」
その名前を言ったカイン様は渋い表情になった。彼らの話題は避けた方が良かったかもしれないわね。
「特に呼んではいないさ。しかし……今回のパーティーは事前の招待がなくとも参加出来るようにはしていたからな。もしかすると、参加しているかもしれない」
「そうなりますと……ええと」
色々と問題が出てくるのではないかしら? 私としてもあんまり会いたいとは思わないし……特にカイン様が近くに居ない状態では。
「テレーズとしてはあまり会いたくないかもしれないが、それほど気構えなくともなんとかなるさ。私も付いているからな。それとも、それだけでは不安か?」
「いえ、とんでもないことでございます。カイン様が居てくださるだけで、私の心は平穏を保てると思います」
「なら良かった。それでは入ろうか、テレーズ」
「はいっ」
何も怖がる必要なんてなかった。私には新しい婚約者であるカイン様が付いているのだから。緊張していた身体はいつの間にか軽くなり、そのままの勢いでパーティー会場に入ることが出来た。
「はい……とても緊張しています……」
「今回は私と君の為のささやかなパーティーだ。それほど気負う必要はない……と言いたいところだが、そうも言っていられないか」
「も、申し訳ありません……」
「いや、謝る必要はないが」
本日は私とカイン・サンタローズ辺境伯の婚約を記念しての、パーティーが開催される。パーティーなのだから、他の貴族の方々もお越しになるのだ。それが私にとっては緊張の種になっていた。右手と右足が同時に出る程には緊張してしまっている。
時折、深呼吸をして体調を整えないとまずいことになりそうだ。
「テレーズもパーティーには何度も出席しているだろう?」
「パーティー自体には、確かに何度も出ておりますが……」
カイン様は平気な様子だけれど、私はそうはいかなかった。なぜなら……今回の出席者のお方にその原因がある。伯爵家系の方々も出席されるけど、公爵家系の方と王族の方も出席されるからだ。通常のパーティーでは考えられない面子と言えるだろう。
と、そんな時だった。カイン様が私の手を優しく握ってくれたのは。
「か、カイン様……?」
「これで少しは落ち着いたかな?」
「あ、そうですね……はい、ありがとうございます」
「どういたしまして。テレーズの為ならばお安い御用さ」
と、カイン様は歯の浮くような名文句を言ってくる。こういう言葉は反則だ……なんて答えれば良いのか分からなくなるから。カイン様にはとても似合っている言葉というのが余計に返せない要因となっていた。
「そういえば、マリア姉さま達は来るのでしょうか……?」
「マリア殿とラゴウ殿だな……」
その名前を言ったカイン様は渋い表情になった。彼らの話題は避けた方が良かったかもしれないわね。
「特に呼んではいないさ。しかし……今回のパーティーは事前の招待がなくとも参加出来るようにはしていたからな。もしかすると、参加しているかもしれない」
「そうなりますと……ええと」
色々と問題が出てくるのではないかしら? 私としてもあんまり会いたいとは思わないし……特にカイン様が近くに居ない状態では。
「テレーズとしてはあまり会いたくないかもしれないが、それほど気構えなくともなんとかなるさ。私も付いているからな。それとも、それだけでは不安か?」
「いえ、とんでもないことでございます。カイン様が居てくださるだけで、私の心は平穏を保てると思います」
「なら良かった。それでは入ろうか、テレーズ」
「はいっ」
何も怖がる必要なんてなかった。私には新しい婚約者であるカイン様が付いているのだから。緊張していた身体はいつの間にか軽くなり、そのままの勢いでパーティー会場に入ることが出来た。
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