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28話 誘拐事件 その2

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「さて、どこから話せばよいのやら……」

「色々ありましたから。難しいですわね……」


 誘拐事件の話を議会内でするわけにはいかなかったので、私達は移動することになった。私達が向かった場所はマグナ宮殿の応接室だ。やはりこういう場所が一番しっくりくる。

 マグナ宮殿で仕事をしているメイド達から、飲み物などが振る舞われ、私とカイン様はザルバック国王陛下のお話に注力した。


「22年前、リリアーヌは隣国のロア王国の王女だった。これは知っていると思うがな」

「はい、存じております」

「同じく、存じております」


 私とカイン様はほとんど同時に頷いた。この辺りは貴族教育の中で自然と出て来る内容だ。南の国境線を越えたところに位置するロア王国。南の辺境伯であるガゼル・ヴァイスハイト様が、その間を守っていることになる。

 リリアーヌ様の出生の関係から、辺境伯の地位の高さも自然と学習できるはずなんだけれど……マリア姉さまはきっと、そのあたりをサボったんでしょうね。

「当然、私とリリアーヌの結婚が両国間の交友を深める為の政略結婚であると叩かれた件も知っているだろう?」

「はい、知っております」

「伺っております」


 両国間の交友を深める為の政略結婚……現在、我がサイドル王国とロア王国の友好関係にある。22年以上前には戦争をしていた時代もあったらしいけど、現在の仲は良好と言えるだろう。ロア王国の特産品も入ってくるし、私達の土地で熟成する野菜なども、向こうへと届けられる。


 当時の風潮、貴族制度がどういうものだったを詳細に把握するのは難しいけれど、政略結婚自体が叩かれる風潮だったとは考えられない。私達貴族は、国民の為にも愛のない婚約だってするからだ。

 だとしたら……ザルバック国王陛下とリリアーヌ王妃様に対するバッシングは、彼ら二人に対する個人攻撃みたいなものか。それとも……サイドル王国か、ロア王国の王家の転覆を狙う組織の陰謀か……。


「カイン、テレーズ嬢よ。不思議に思うだろう?」

「左様でございますね……当時の時代を考慮しても、お二人の結婚に対して政略結婚だ! という言葉が飛び交うことに違和感を覚えます。何か陰謀めいたものを感じますね」


 流石はカイン様だった。しっかりと把握されている。


「そういうことだ。私はその時は必死で火消しを行ったものだが……それ自体が、奴らの思惑だったのだろうな」

「奴ら? 奴らとは……?」

「私のことを誘拐した者達のことですよ」


 カイン様の質問に答えたのはリリアーヌ様だった。彼女は平静を装っているけれど、どこか寂しそうな怒りに満ちているような……そんな微妙な表情をしていた。

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