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第五話:奥様は娘のために手回しをする
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レマン伯爵夫人にお茶会のお礼状を差し上げて、お礼状と一緒に贈る品には娘が監修したお菓子を付けることにした。
「もしご希望があったら、製法をお伝えして良いかしら?」
「もちろん」
娘も二つ返事で了承してくれたし、安心してお贈りできるわね。
「お母様、こういう時でも贈り物は食べ物のほうが良いんですか?」
「こう言った時は、あとに残るような御大層なものを避けたほうが良いの」
ちょっとしたお茶会の御礼や、訪問のお返しには、気軽に使ってしまえる少し良いものを贈るくらいが良いのよ。食べ物に限らなくても構わないけれど、美味しいものがあればそれをお贈りするのが無難よ。そう説明すると、娘は感心したようにうなずいていた。
「あ、でも、私のレシピで大丈夫?小娘が作ったなんて馬鹿にされた、とか思われないかしら」
「美味しければ大丈夫よ。それに、これはあなたのお相手探しのための布石でもあるのよ」
「え?あ、そうか、美味しいものも作れるって、宣伝するんですね」
「ええ。レマン伯爵夫人もあなたの状況をご存じですからね」
娘のお菓子が美味しいと思えば褒めてくださるし、さりげなく宣伝するために製法をお尋ねになるでしょう。お茶会でご披露下さって、製法はうちの娘から聞いたのよと言っていただければ、それが娘の嫁入り修行の成果として広められる。
そしてもし、今一つという評価になれば、さりげなくお伝え頂けるでしょうね。私が吟味した味ですから、そんなことにはならないと思いますけれど。
「御礼に下心を込めるって、良いのかしら」
娘は、失礼にならないか気にしている様子。
「あら、美味しく無いものは選ばないわよ?」
いくら可愛い娘が監修しているからと言って、私だって体面というものがありますからね。私の名にかけて、我が家の恥になる物を贈ったりはしませんわよ。
「それに、レマン伯爵のいちばん下のお嬢さんがこういったものに興味を示しているそうなの。せっかくだから、楽しんでいただこうと思うのよ」
「えっと、下のお嬢さんって今いくつ?」
「七つになったところね。社交の場に出てくるのはまだ先だけれど、このあいだは南と北のお砂糖の違いを訊ねていたんですって」
「南北で材料が違いますもんね。食べておいしいって言ってるだけでもおかしくない年なのに、ご両親に似たのかなあ」
「兄姉の影響もあるでしょうね。それに、あの家は子供の好奇心を大切にしますからね」
「もしかして、地理のお勉強にもなるからあのクッキーを選びました?」
「あら、良く分かったわね?」
娘のお菓子の材料は、侯爵領の特産品である木の実と、北の飛び地で採れる樹液糖を含んでいる。独特の風味と香ばしさを持つお菓子は、我が家のお茶会に出せば人気で、持ち帰りを希望される方もいらっしゃるのよね。
「お料理の材料から地理を知るって、お母様が教えてくれたでしょう?」
「そんな事も、あったわねえ」
異世界の知識を持って生まれてきた娘も、この世のことは年齢相応にしか知りませんからね。
美味しいものが大好きな娘は、お料理やお菓子を通じてこの世界を学んでいる最中。お料理やお菓子にも歴史がありますし、材料には生産から流通までが関わりますし、それらは貴族夫人として知っておくほうが良い知識。領地の特産品をうまく活かせれば税収につながるし、こうしてお茶会に出せれば宣伝にもなりますからね。それに他の領地の産物も知っていると、他の方とのお話もしやすいですし。
知ってて悪いことは一つもないわね。
「そうだわ、今回はわたくしが決めて贈ったけれど、次はあなたが包装を決めたらいいわね」
「お母様、今度は布やリボンの事を学べとおっしゃるのね?」
「勘が鋭くて良い事ね。繊維産業は大切なものよ?」
包装に使う布やリボンの選び方も、領地の産業を学ぶきっかけになりますからね。
他領で産する極上の亜麻や輸入物の絹、領地の一部で作られる毛織物、ぼろきれから作られる紙。そういったあれこれがあるのですから、どんな相手にどんなものをお贈りするかを決めるためにも、物の由来を知っていることは大切。
そして、それを知れば当然、領地の産業も知ることになるわね。
「うん、まあ、産業革命って繊維産業から始まってるのは、ここも同じなのは分かるけど……」
興味のないことには熱心でない娘は、あまり乗り気ではない模様。
「どこが同じでどこが違うか、あとで教えて頂戴ね?」
異世界の知識などない私では、違いなど判りませんからね。
「もしご希望があったら、製法をお伝えして良いかしら?」
「もちろん」
娘も二つ返事で了承してくれたし、安心してお贈りできるわね。
「お母様、こういう時でも贈り物は食べ物のほうが良いんですか?」
「こう言った時は、あとに残るような御大層なものを避けたほうが良いの」
ちょっとしたお茶会の御礼や、訪問のお返しには、気軽に使ってしまえる少し良いものを贈るくらいが良いのよ。食べ物に限らなくても構わないけれど、美味しいものがあればそれをお贈りするのが無難よ。そう説明すると、娘は感心したようにうなずいていた。
「あ、でも、私のレシピで大丈夫?小娘が作ったなんて馬鹿にされた、とか思われないかしら」
「美味しければ大丈夫よ。それに、これはあなたのお相手探しのための布石でもあるのよ」
「え?あ、そうか、美味しいものも作れるって、宣伝するんですね」
「ええ。レマン伯爵夫人もあなたの状況をご存じですからね」
娘のお菓子が美味しいと思えば褒めてくださるし、さりげなく宣伝するために製法をお尋ねになるでしょう。お茶会でご披露下さって、製法はうちの娘から聞いたのよと言っていただければ、それが娘の嫁入り修行の成果として広められる。
そしてもし、今一つという評価になれば、さりげなくお伝え頂けるでしょうね。私が吟味した味ですから、そんなことにはならないと思いますけれど。
「御礼に下心を込めるって、良いのかしら」
娘は、失礼にならないか気にしている様子。
「あら、美味しく無いものは選ばないわよ?」
いくら可愛い娘が監修しているからと言って、私だって体面というものがありますからね。私の名にかけて、我が家の恥になる物を贈ったりはしませんわよ。
「それに、レマン伯爵のいちばん下のお嬢さんがこういったものに興味を示しているそうなの。せっかくだから、楽しんでいただこうと思うのよ」
「えっと、下のお嬢さんって今いくつ?」
「七つになったところね。社交の場に出てくるのはまだ先だけれど、このあいだは南と北のお砂糖の違いを訊ねていたんですって」
「南北で材料が違いますもんね。食べておいしいって言ってるだけでもおかしくない年なのに、ご両親に似たのかなあ」
「兄姉の影響もあるでしょうね。それに、あの家は子供の好奇心を大切にしますからね」
「もしかして、地理のお勉強にもなるからあのクッキーを選びました?」
「あら、良く分かったわね?」
娘のお菓子の材料は、侯爵領の特産品である木の実と、北の飛び地で採れる樹液糖を含んでいる。独特の風味と香ばしさを持つお菓子は、我が家のお茶会に出せば人気で、持ち帰りを希望される方もいらっしゃるのよね。
「お料理の材料から地理を知るって、お母様が教えてくれたでしょう?」
「そんな事も、あったわねえ」
異世界の知識を持って生まれてきた娘も、この世のことは年齢相応にしか知りませんからね。
美味しいものが大好きな娘は、お料理やお菓子を通じてこの世界を学んでいる最中。お料理やお菓子にも歴史がありますし、材料には生産から流通までが関わりますし、それらは貴族夫人として知っておくほうが良い知識。領地の特産品をうまく活かせれば税収につながるし、こうしてお茶会に出せれば宣伝にもなりますからね。それに他の領地の産物も知っていると、他の方とのお話もしやすいですし。
知ってて悪いことは一つもないわね。
「そうだわ、今回はわたくしが決めて贈ったけれど、次はあなたが包装を決めたらいいわね」
「お母様、今度は布やリボンの事を学べとおっしゃるのね?」
「勘が鋭くて良い事ね。繊維産業は大切なものよ?」
包装に使う布やリボンの選び方も、領地の産業を学ぶきっかけになりますからね。
他領で産する極上の亜麻や輸入物の絹、領地の一部で作られる毛織物、ぼろきれから作られる紙。そういったあれこれがあるのですから、どんな相手にどんなものをお贈りするかを決めるためにも、物の由来を知っていることは大切。
そして、それを知れば当然、領地の産業も知ることになるわね。
「うん、まあ、産業革命って繊維産業から始まってるのは、ここも同じなのは分かるけど……」
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「どこが同じでどこが違うか、あとで教えて頂戴ね?」
異世界の知識などない私では、違いなど判りませんからね。
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