奥様は魔女 ~婚約破棄と喚く娘の婚約者、家ごとお掃除いたしましょう~

中崎実

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第四話:奥様はお茶会の席でやり過ごす。

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 夫が表向きのあれこれを操る間に、私は社交の場でのうわさの操作、息子は寄宿学校きしゅくがっこう仲間を通じてテリーのやらかしを広める。
 あの場でレイチェルが『悪しきものを正す力』だと広めてくれたおかげで、色々やりやすくなったわね。

「昔からのお友達はご存じだから、何も目新しい話ではないのですけどねえ」

 魔女の血筋にあらわれる力ですから、私一人が持っているわけでもありませんし。
 興味きょうみ津々しんしんといった目でこちらを見つめ、話を聞き落とすまいとしている方々がいらっしゃるけど、『あなた方は別にお友達じゃないのよ』というメッセージは受け取っていただけたようね。

「いつもはお使いになりませんのね?」

 そして言葉の意味をものともせずに話しかけてきたのは、お茶会をご一緒するのは初めての方。ドルー伯爵夫人マルチェリア・ウィレルムス様とおっしゃるのだけれど、今後もお友達付き合いしたいとは思わないわね。

「ええ。あんなものはお友達付き合いには、不要でございましょう?」
「あの後、テリー卿は具合が悪くてらっしゃるそうですけれど」

 ああ、この方は、我が家の足をすくいたくてたまらない某公爵夫人とお付き合いがありましたわね。

意気消沈いきしょうちんしてらっしゃるのね、ご両親がなぐさめてくださるのではなくて?」
「叱られた小さい子供が不貞ふてくされてしまうのは、良くあることですわよ?」

 あらまあ、カテドラ。私、そこまで言ってはいなくてよ?
 たしかにテリーは小さな子供の頃から何一つ変わらず、おろかでどうしようもないですけれどね?
 私も夫も、そんなテリーに何もしてやらない予定ですけれどね??

不貞ふてくされているだなんて、よそのご子息にそんな事を」
「よそ様のお祝いの席を乱したことで、伯爵家の息子が、未来の義母である侯爵夫人にお叱りを受けただけですもの」

 カテドラの言葉を聞きながら、微笑ほほえむだけにとどめる。

 これは言葉に出さないことであとから文句を言われないようにしておいて、それでいて『しつけのなっていない、身分の劣る未来の婿を叱っただけ』というカテドラの言葉の意味を肯定している。
 うちの娘とテリーの婚約が解消されたことは公報にりましたから、たいていの方がご存じでしょうからね。皆様ご存じのところでのカテドラのもの言いは、礼儀知らずの行いを未来の義母に叱られて不貞ふてくされるような甲斐性無しだから、婚約を取り消されたのよね?という、たいへんに遠回しな嫌味でもある。

 それについて言葉にするとなにかと角が立ちますし、そもそもお茶会の席では誰かの批判ひはんをしたり、議論を交わしたりするのはあまり好まれない行いです。口論を仕掛しかけてきたからといって付き合う必要はありませんわねえ。黙って微笑んでいる意味を受け取っていただければ、それで十分。

 お茶会の主催者であるレマン伯爵夫人は、口元の笑みは変わらないものの、冷静な視線で招待客をきわめている。今回、招待客のお連れ様としてやってきたドルー伯爵夫人はおそらく、今後招かれることは無いでしょう。ドルー伯爵夫人をともなった方も、今後はどうなるかしらね?

「でも……」
「皆さま、次のお茶が入りましてよ?」

 ドルー伯爵夫人の言葉が聞こえなかったふりをして、レマン伯爵夫人がそう声を発した。

「わたくしをさえぎるだなんて」

 聞こえよがしに不満げにつぶやいたドルー伯爵夫人に、彼女をともなった方が顔を引きつらせてらっしゃるわね。

 残念だけど、あなたもレマン伯爵夫人とのご縁は薄くなりましたわね?

 お茶会の席に誰かを伴うというのは、その連れのおこないに責任を持つということ。他の参加者や主催者に失礼があってはいけないし、不愉快ふゆかいな思いをさせるようでもいけない。まして、他の方の機嫌きげんそこねかねない良くないうわさ話にきょうじたり、あれこれ詮索せんさくしたり、議論をけるなんて論外ろんがいな事。
 無礼で不愉快ふゆかいな者を連れて行くようでは、その後のお付き合いに良くない影響が出るのよね。
 変な人をともなえば、『その程度の人脈』しかない人だわ、と判断されてしまうのだから、連れて行く相手は吟味ぎんみしなくてはいけないのですけれどねえ。
 ドルー伯爵夫人は、同伴どうはんをお断りしたほうが良い方だったわね。

 そんな方をともなったのだもの、今後のお付き合いがどうなるかなんて、簡単に想像が付きますわよね?
 もちろんレマン伯爵夫人の事ですから、ドルー伯爵夫人を誘った方をお茶会に招かなくなるなんていう、あからさまなやり方はされないでしょうけれど。夫人との手紙のやり取りがちょっと変わる、程度の影響は出るでしょうね。

 そしてレマン伯爵夫人は、領地をとてもうまく治めている伯爵と寄り添って、あれこれと領地を豊かになさっている方。そのお知恵を借りたいと願う者は多いのだけれど、ご機嫌を損ねた相手にまで、そのお知恵を貸しては下さらないわよ?
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