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サクラ
しおりを挟む「おいくつですか?」
「26歳です」
「見えない」
「よく言われます」
とりあえず通行の邪魔になるので移動しましょう、ということで一番近い距離にあったコンビニで缶コーヒーを二本買ってそこから徒歩2分の公園というのも甚だしい砂場とベンチだけの公園に向かった。ベンチに座ってあたたかい缶コーヒーを開けて飲む。
「あ、タオル洗って返しますね。連絡先など教えて頂けたら~と、思うんですけど、そういうのもしかして迷惑ですか?」
言いながら気が付いたが、これほどのルックスならばこう言われるのは慣れているだろう。言い寄る女も数えきれないほど居ただろう。そう思うと、迷惑になりたい訳ではないので、勢いも止まる。
天使はきょとんとした後に、声を上げて微笑んだ。
「あははっ、おも、面白いですね、ふふ」
堪え切れないとばかりに口元を手の甲で隠しながら肩を震わせる天使は、まるでドラマのワンシーンのようで見惚れてしまう。
「大丈夫ですよ、迷惑じゃないです。嬉しいです。連絡先、交換しましょう」
スマホを取り出して操作し始めた天使に倣って、わたしもスマホを取り出す。
嬉しいって、嬉しいってなに!?そう聞きたいのに、チャンスを逃せないとばかりにスマホを操作することに集中する。えっとメッセージアプリ、とアプリを起動して天使のほうを見ると天使はまだスマホを操作していた。
「あっ」
天使が小さく声を上げたので反射的にスマホの画面を見る、と慌てて画面を落とされた。
暗くなった液晶のスマホを持って、天使が気まずそうにこちらを見る。
「あの、ちょっと待ってて貰っても良いですか?」
「はい。いつまでも待ちますけども」
「ふふ」
わたしの返事が面白かったのか、また声を漏らして笑った天使はサッと背中を向けてスマホを操作した。
数10秒ほどして、こちらを振り返った時にはもう穏やかな微笑みに戻っていて、何か不都合でもあったのかと色々な憶測が一瞬頭を過ったが、全てどうでもよくなるほどに顔が良かった。
「お待たせしました。連絡先です」
どうぞ、とそのままスマホを渡してくる。
名前、電話番号、メールアドレス。
プロフィール画面を呼び出してくれたらしい。
メッセージアプリでの連絡先の交換かと思っていたので、面食らった部分はあれど、逃すわけはいかない。すぐに新規で連絡先を追加した。それにしても。
「タカノリさん」
「はい、タカノリです」
苦々しいものがぐっと上がってきて、けれども飲み込む。
「わたしはサクラと言います」
「サクラ、さん」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして、しかし神妙に頷いてタカノリさんはわたしの名前を呼んだ。
「メッセージアプリやってますか?」
そっちのほうがお手軽だしという気持ちで聞いてみたが、タカノリさんは気まずそうに首を振る。
「いえ、そういうアプリは入れてないです」
「分かりました。では、電話かメールで連絡しますね。このお礼もしたいですし」
ハンドタオルをちら、と上げてみせるとタカノリさんは嬉しそうに笑った。
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