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第3章:愛があれば何も怖くない
第3章:愛があれば何も怖くない(11)
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「状況はどうなってる?」
群れの先頭に立つオークに、雷蔵は飛んで近づきながら声をかける。頭上後方から声をかけられたオークはぎょっとして振り向くが、相手が雷蔵だと分かると安心と媚びを含んだ表情になった。
「こりゃあ、ピュセルの旦那」
雷蔵は汎用魔族語で口をきいてくるオークの卑屈な態度が気に障ったが、まあ無理もないか、とも思う。なにせ、ピュセルは彼らの群れの長よりも遥かに強力で立場も上なのだ。
「あそこに立っている娘がですね。リミア姫って名乗ってやがるんです」
オークの指をさす方向、雷蔵の目分量で約1km先に少女らしき者が2人立っている。一人はまるで司祭が着る様な清楚な白いローブの娘で恐らくあれがリミア姫であろうと考える。一方、もう一人の娘はなにやらアゲハチョウの羽のような変な色彩の服を着用している。あんな奇天烈な格好をしている娘は雷蔵の記憶には一人しかいない。
「しかも、降伏するって言っておきながらあそこから動かねぇんです」
「まあ、無理もねぇわ」
オークの言葉を聞き、雷蔵はリミア姫の行動に納得する。いくら降伏するとはいえ、単身オークの群れの中に入っては危険である。何せ、オーク共は人間よりも遥かに乱暴で野蛮であるからだ。故に誰か話の分かるトップに近い者を待っているのだろう。伊達男はこちらに向かって走ってきているだろう。彼の到着にはしばらく時間が必要だ。
更にオークの方も彼女に近づかないのは、白い死神の評判を恐れてのことだろう。なにせ、相手はヴァーディリスを葬ったとされる化け物だ。下手に近づくと命を落とすと考えているものがいても不思議ではない。
「よし。俺が行って話を聞いてくるわ」
雷蔵はそのオークにそう言って再び空を飛翔する。雷蔵の翼は隼のそれよりも速く空を駆ける事ができる。1kmの距離など文字通り一飛びだ。
雷蔵は高速でリミア姫に接近していく。彼女らは動かず雷蔵の来訪を待っているようにも見える。罠の可能性もあるのだが、彼女から魔力は感じられないし、物理的な罠ならばほとんど通用しない。問題はないだろう、と雷蔵はそのまま二人の少女の前に降り立った。
「わぁ、本当にピュセルだ」
ピュセルは非常に珍しい魔族であるが故に、普通の人間はまずお目にかかることができない。魔道師としての知的好奇心をくすぐられたのか、それとも単なる子供らしい憧憬なのか、リミアはピュセルである雷蔵に会えたことに素直に感動しているようだ。
「お初にお目にかかる。私は水無月雷蔵。故あってこの大陸の魔族に手を貸している者です」
雷蔵はリミアの前で跪き、アヴァロン的な紳士の礼を模倣する形で幼い姫に接する。とはいえ、雷蔵もアヴァロンの礼法に関してはあやふやな伝聞でしか知らないため、これで会っているかどうか分からない。手をとってその甲にキスをするとか何とかも聞いたことがあるが流石に初対面の少女にそれはどうなのか、と思いこの程度の形にする事にした。
「何を人間の真似をして気取っているのかしら?」
そんな雷蔵にアセナは冷ややかな視線を向けて言う。
「やっぱりお前だったか、狼」
雷蔵はアセナに視線を向けて苦々しい口調で言う。どうも、この二人は知り合いのようである。
「なんでお前がリミア姫と一緒にいるかは、聞かねえよ」
「それは助かるわ」
そう言葉を交わしてアセナは雷蔵から目を逸らす。興味を失ったようだ。雷蔵はリミアと共に狼がいることに面を食らったが、別段害になる存在ではないのでとりあえず放置する。今は彼女に構っている場合ではないのだ。
「リミアエル・オクタヴィア・ランスロットです。気楽に話してくださって結構ですよ? 私は降伏しに来ているわけですし」
雷蔵の意識が向いたのを感じて、リミアは自己紹介をする。そして、彼に似非礼法をやめるように促した。その様子があまりにぎごちなく窮屈そうだからである。
「そう言って貰えると助かる」
雷蔵はそう言って立ち上がった。確かに礼法と言うものは窮屈だ。
「しかし、ヴァーディリスを倒したリミア姫がろくに戦いもせずいきなり降伏って言うのはどういう了見なんだ?」
雷蔵にとってはそこがあまりにも解せない。確かに状況は不利であるかもしれないが、まだろくに矛を交えてもいないうちに、彼女があっさりと戦いを放棄するのは不自然だ。偽装投降ではないのか、と雷蔵は疑っているのだ。
「ヴァーディリスと戦った時とは状況が違いすぎます。私は民に苦しみを与えたくないのです」
なるほど、と雷蔵は思う。たしかに、正規軍と共に戦ったヴァーディリスとの戦と、兵がろくにいない今の状況ではわけが違う。そして、目の前に迫る魔族の脅威から犠牲を出すことなく民を開放したい、と願うのは、彼女が聡明で慈愛のある皇族であるならばそれほど不思議ではない。
「だが、アイラはどうしているんだ? あいつが決着をつけずに姫を差し出すとは思えないんだが?」
雷蔵は昨晩出会った好敵手について尋ねる。アイラは雷蔵と戦っても五分以上で、他の魔族などは敵にして敵にあらずだ。それがろくに戦わず降伏するなどと言う話を、よく受け入れたものだと思う。また、彼女は姫を護衛するでもなく、この場に姿を見せていない。どこかに隠れて、何かを企んでいるではないかと思われても不思議ではない。
「アイラには、強くお願いして理解してもらいました。今は貴方達が違約した時のために、町の防衛に残ってもらっています」
そう言ってリミアは、背後の約1kmほど離れた街壁の上を指差す。雷蔵はそちらを見てみる。すると、外壁の上でなにやら巨大な銃の化け物を構えているアイラの姿が見えた。恐らく、ここはあの銃の射程内で、妙な動きをすればアイラは迷わず引き金を引くであろうことが分かる。
「分かった。俺は姫の降伏を受け入れるし、他の連中にもガタガタとは言わせない」
雷蔵はリミアに言う。正直かなり怪しいが、この状況で抵抗しても雷蔵はすぐに取り押さえられる。後はアイラの追跡にさえ気を配っておけばどうとでもなる。
「だが、貴女は魔道師だ。とりあえず、魔法をすぐに使えないように処置をしなくてはならないが、それは了承してくれるか?」
「ええと、それはメイジキラーを投与すると言う事ですか?」
雷蔵の言葉にリミアは質問を返す。メイジキラーとは、魔道師を捕虜にする時に用いられる麻薬の一種だ。脳の働きを阻害し、呪文の詠唱を阻害するそれはそれなりに副作用や依存性があり、国際会議でもよく議題に上る。だが、魔道師を封殺する手段としてはまだしもソフトであるため、未だ世界各地で使われている。
「いや。あんなものは使わねぇよ」
雷蔵は横に首を振る。メイジキラーは命を落とすほど危険な代物ではないが、それでも神経系に与えるダメージは低くない。このような未成年の少女に投与するのは憚られる、と雷蔵は考えている。それにあのようなけったくその悪い代物を持ち歩く趣味はない。
雷蔵が代わりに巾着袋から取り出したのは、丸い輪の形状をした革と金属でできたものだ。それは一般的に犬などの動物の首につける首輪に似ていた。
「悪趣味な奴ね。そんなものを持ち歩いているなんて」
アセナがそれを見て鼻を鳴らして言う。その視線はあからさまな軽蔑に満ちていた。
「俺の趣味じゃねぇよ、このデザインは」
アセナの言葉に、雷蔵はうんざりした口調で返す。幸い、リミア姫は特に何の反応もしておらず、かつアセナが反発している理由もよく分かってなさそうだ。
「これには封魔の呪いがかけられている。着けている者が魔法やそれに類するものを使おうとすれば、その魔力を吸収して自動的に首が絞まるようになっている」
「なるほど。それを身に着けろ、と言うことですね」
「そういうこった。今から着けるが、抵抗はしないでくれよ」
雷蔵の言葉にリミアは頷く。それ受けて雷蔵はリミアのすぐ側にまで近づいた。
雷蔵は身を屈め、眼を閉じて精一杯首を伸ばすリミアの首筋に触れようとする。だが、そこで雷蔵は気づいた。リミアが冷や汗を流し、何かに耐えるよな表情をしている事に。そこで雷蔵はある可能性を思いつく。
「おい、狼。悪いがお前が着けてやってくれ。傍観者でもそれぐらいできるだろ?」
そう言ってすぐにリミアから離れ、アセナの手に首輪を押し付ける。アセナは不思議そうに首輪と雷蔵を見比べる。
「別に構わないけれど、どうしたの?」
「乙女の柔肌に、無骨な野郎の手で触れるのは失礼だからな」
雷蔵はアセナとリミアに背を向けたままそう言う。彼女からうかがうことのできないその表情は、なんともやるせないものだ。雷蔵の思い至った可能性。それは、リミアが過去に性的暴行を受けた事による男性恐怖症にかかっているのではないか、ということだ。近しい娘の中にほぼ同じような症状を示すものがいるので、雷蔵には分かるのだ。
このヴァーディリスを倒したという人類の英雄であるはずの少女は、幼い頃から皇后の一族に虐待されていたという噂を聞く。性的暴行もその一環なのかもしれない。本来、人類全てから称えられてしかるべき彼女が、過去にそんな扱いを受け、今も大事にしてもらえてない現実を思うと、なんともやるせない気持ちになるのだ。
距離を置いて、雷蔵は少女達の方へ振り返る。リミアはアセナに首を差し出し、首輪を着けて貰っているがその表情は先ほどのものと違い平静そのものだ。やはり、男性に触られるのには強い嫌悪があるようだ。
「さて、行こうか。身の安全は保障するから安心してくれ」
そう言って雷蔵は群れの方へ向けて歩き始める。二人の少女も素直にそれに従ってついて来る。その気配を感じ、雷蔵はこれからのことを考える。とりあえず、リミア姫を確保した。町に手を出せない以上オーク共は不満を漏らすだろうが、アイラが町に残っている以上どうしようもないだろう。後は、追跡してくるであろうアイラに対処して、『門』まで連れて行けばそれで雷蔵の仕事は終わりだ。それで一宿一飯の恩は終わりだ。
(ま、なるようになるだろう)
あと少しでお仕事は終わりだ。後は自由にさせてもらおう。雷蔵はこの面倒が終わった後の事を考え、魔族の群れへと戻っていった。
群れの先頭に立つオークに、雷蔵は飛んで近づきながら声をかける。頭上後方から声をかけられたオークはぎょっとして振り向くが、相手が雷蔵だと分かると安心と媚びを含んだ表情になった。
「こりゃあ、ピュセルの旦那」
雷蔵は汎用魔族語で口をきいてくるオークの卑屈な態度が気に障ったが、まあ無理もないか、とも思う。なにせ、ピュセルは彼らの群れの長よりも遥かに強力で立場も上なのだ。
「あそこに立っている娘がですね。リミア姫って名乗ってやがるんです」
オークの指をさす方向、雷蔵の目分量で約1km先に少女らしき者が2人立っている。一人はまるで司祭が着る様な清楚な白いローブの娘で恐らくあれがリミア姫であろうと考える。一方、もう一人の娘はなにやらアゲハチョウの羽のような変な色彩の服を着用している。あんな奇天烈な格好をしている娘は雷蔵の記憶には一人しかいない。
「しかも、降伏するって言っておきながらあそこから動かねぇんです」
「まあ、無理もねぇわ」
オークの言葉を聞き、雷蔵はリミア姫の行動に納得する。いくら降伏するとはいえ、単身オークの群れの中に入っては危険である。何せ、オーク共は人間よりも遥かに乱暴で野蛮であるからだ。故に誰か話の分かるトップに近い者を待っているのだろう。伊達男はこちらに向かって走ってきているだろう。彼の到着にはしばらく時間が必要だ。
更にオークの方も彼女に近づかないのは、白い死神の評判を恐れてのことだろう。なにせ、相手はヴァーディリスを葬ったとされる化け物だ。下手に近づくと命を落とすと考えているものがいても不思議ではない。
「よし。俺が行って話を聞いてくるわ」
雷蔵はそのオークにそう言って再び空を飛翔する。雷蔵の翼は隼のそれよりも速く空を駆ける事ができる。1kmの距離など文字通り一飛びだ。
雷蔵は高速でリミア姫に接近していく。彼女らは動かず雷蔵の来訪を待っているようにも見える。罠の可能性もあるのだが、彼女から魔力は感じられないし、物理的な罠ならばほとんど通用しない。問題はないだろう、と雷蔵はそのまま二人の少女の前に降り立った。
「わぁ、本当にピュセルだ」
ピュセルは非常に珍しい魔族であるが故に、普通の人間はまずお目にかかることができない。魔道師としての知的好奇心をくすぐられたのか、それとも単なる子供らしい憧憬なのか、リミアはピュセルである雷蔵に会えたことに素直に感動しているようだ。
「お初にお目にかかる。私は水無月雷蔵。故あってこの大陸の魔族に手を貸している者です」
雷蔵はリミアの前で跪き、アヴァロン的な紳士の礼を模倣する形で幼い姫に接する。とはいえ、雷蔵もアヴァロンの礼法に関してはあやふやな伝聞でしか知らないため、これで会っているかどうか分からない。手をとってその甲にキスをするとか何とかも聞いたことがあるが流石に初対面の少女にそれはどうなのか、と思いこの程度の形にする事にした。
「何を人間の真似をして気取っているのかしら?」
そんな雷蔵にアセナは冷ややかな視線を向けて言う。
「やっぱりお前だったか、狼」
雷蔵はアセナに視線を向けて苦々しい口調で言う。どうも、この二人は知り合いのようである。
「なんでお前がリミア姫と一緒にいるかは、聞かねえよ」
「それは助かるわ」
そう言葉を交わしてアセナは雷蔵から目を逸らす。興味を失ったようだ。雷蔵はリミアと共に狼がいることに面を食らったが、別段害になる存在ではないのでとりあえず放置する。今は彼女に構っている場合ではないのだ。
「リミアエル・オクタヴィア・ランスロットです。気楽に話してくださって結構ですよ? 私は降伏しに来ているわけですし」
雷蔵の意識が向いたのを感じて、リミアは自己紹介をする。そして、彼に似非礼法をやめるように促した。その様子があまりにぎごちなく窮屈そうだからである。
「そう言って貰えると助かる」
雷蔵はそう言って立ち上がった。確かに礼法と言うものは窮屈だ。
「しかし、ヴァーディリスを倒したリミア姫がろくに戦いもせずいきなり降伏って言うのはどういう了見なんだ?」
雷蔵にとってはそこがあまりにも解せない。確かに状況は不利であるかもしれないが、まだろくに矛を交えてもいないうちに、彼女があっさりと戦いを放棄するのは不自然だ。偽装投降ではないのか、と雷蔵は疑っているのだ。
「ヴァーディリスと戦った時とは状況が違いすぎます。私は民に苦しみを与えたくないのです」
なるほど、と雷蔵は思う。たしかに、正規軍と共に戦ったヴァーディリスとの戦と、兵がろくにいない今の状況ではわけが違う。そして、目の前に迫る魔族の脅威から犠牲を出すことなく民を開放したい、と願うのは、彼女が聡明で慈愛のある皇族であるならばそれほど不思議ではない。
「だが、アイラはどうしているんだ? あいつが決着をつけずに姫を差し出すとは思えないんだが?」
雷蔵は昨晩出会った好敵手について尋ねる。アイラは雷蔵と戦っても五分以上で、他の魔族などは敵にして敵にあらずだ。それがろくに戦わず降伏するなどと言う話を、よく受け入れたものだと思う。また、彼女は姫を護衛するでもなく、この場に姿を見せていない。どこかに隠れて、何かを企んでいるではないかと思われても不思議ではない。
「アイラには、強くお願いして理解してもらいました。今は貴方達が違約した時のために、町の防衛に残ってもらっています」
そう言ってリミアは、背後の約1kmほど離れた街壁の上を指差す。雷蔵はそちらを見てみる。すると、外壁の上でなにやら巨大な銃の化け物を構えているアイラの姿が見えた。恐らく、ここはあの銃の射程内で、妙な動きをすればアイラは迷わず引き金を引くであろうことが分かる。
「分かった。俺は姫の降伏を受け入れるし、他の連中にもガタガタとは言わせない」
雷蔵はリミアに言う。正直かなり怪しいが、この状況で抵抗しても雷蔵はすぐに取り押さえられる。後はアイラの追跡にさえ気を配っておけばどうとでもなる。
「だが、貴女は魔道師だ。とりあえず、魔法をすぐに使えないように処置をしなくてはならないが、それは了承してくれるか?」
「ええと、それはメイジキラーを投与すると言う事ですか?」
雷蔵の言葉にリミアは質問を返す。メイジキラーとは、魔道師を捕虜にする時に用いられる麻薬の一種だ。脳の働きを阻害し、呪文の詠唱を阻害するそれはそれなりに副作用や依存性があり、国際会議でもよく議題に上る。だが、魔道師を封殺する手段としてはまだしもソフトであるため、未だ世界各地で使われている。
「いや。あんなものは使わねぇよ」
雷蔵は横に首を振る。メイジキラーは命を落とすほど危険な代物ではないが、それでも神経系に与えるダメージは低くない。このような未成年の少女に投与するのは憚られる、と雷蔵は考えている。それにあのようなけったくその悪い代物を持ち歩く趣味はない。
雷蔵が代わりに巾着袋から取り出したのは、丸い輪の形状をした革と金属でできたものだ。それは一般的に犬などの動物の首につける首輪に似ていた。
「悪趣味な奴ね。そんなものを持ち歩いているなんて」
アセナがそれを見て鼻を鳴らして言う。その視線はあからさまな軽蔑に満ちていた。
「俺の趣味じゃねぇよ、このデザインは」
アセナの言葉に、雷蔵はうんざりした口調で返す。幸い、リミア姫は特に何の反応もしておらず、かつアセナが反発している理由もよく分かってなさそうだ。
「これには封魔の呪いがかけられている。着けている者が魔法やそれに類するものを使おうとすれば、その魔力を吸収して自動的に首が絞まるようになっている」
「なるほど。それを身に着けろ、と言うことですね」
「そういうこった。今から着けるが、抵抗はしないでくれよ」
雷蔵の言葉にリミアは頷く。それ受けて雷蔵はリミアのすぐ側にまで近づいた。
雷蔵は身を屈め、眼を閉じて精一杯首を伸ばすリミアの首筋に触れようとする。だが、そこで雷蔵は気づいた。リミアが冷や汗を流し、何かに耐えるよな表情をしている事に。そこで雷蔵はある可能性を思いつく。
「おい、狼。悪いがお前が着けてやってくれ。傍観者でもそれぐらいできるだろ?」
そう言ってすぐにリミアから離れ、アセナの手に首輪を押し付ける。アセナは不思議そうに首輪と雷蔵を見比べる。
「別に構わないけれど、どうしたの?」
「乙女の柔肌に、無骨な野郎の手で触れるのは失礼だからな」
雷蔵はアセナとリミアに背を向けたままそう言う。彼女からうかがうことのできないその表情は、なんともやるせないものだ。雷蔵の思い至った可能性。それは、リミアが過去に性的暴行を受けた事による男性恐怖症にかかっているのではないか、ということだ。近しい娘の中にほぼ同じような症状を示すものがいるので、雷蔵には分かるのだ。
このヴァーディリスを倒したという人類の英雄であるはずの少女は、幼い頃から皇后の一族に虐待されていたという噂を聞く。性的暴行もその一環なのかもしれない。本来、人類全てから称えられてしかるべき彼女が、過去にそんな扱いを受け、今も大事にしてもらえてない現実を思うと、なんともやるせない気持ちになるのだ。
距離を置いて、雷蔵は少女達の方へ振り返る。リミアはアセナに首を差し出し、首輪を着けて貰っているがその表情は先ほどのものと違い平静そのものだ。やはり、男性に触られるのには強い嫌悪があるようだ。
「さて、行こうか。身の安全は保障するから安心してくれ」
そう言って雷蔵は群れの方へ向けて歩き始める。二人の少女も素直にそれに従ってついて来る。その気配を感じ、雷蔵はこれからのことを考える。とりあえず、リミア姫を確保した。町に手を出せない以上オーク共は不満を漏らすだろうが、アイラが町に残っている以上どうしようもないだろう。後は、追跡してくるであろうアイラに対処して、『門』まで連れて行けばそれで雷蔵の仕事は終わりだ。それで一宿一飯の恩は終わりだ。
(ま、なるようになるだろう)
あと少しでお仕事は終わりだ。後は自由にさせてもらおう。雷蔵はこの面倒が終わった後の事を考え、魔族の群れへと戻っていった。
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