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第十三話
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「扉渡し……ですか?」
「うむ、扉を起点とした魔法じゃ、妾のゲートやお主の指輪の様に空間を歪めて別の場所に移動させる魔法じゃ。簡単に言うと瞬間移動を可能にする魔法、と言ったところかのぅ」
「便利な魔法ですね」
「天才の作った魔法じゃからのぅ」
「天才って……えーと」
白蛇は過去に聞いたことのある単語を記憶から呼び起こす。
「フィアさん……でしたっけ? あの大きな壁の抜け道を作った人ですよね?」
「ほぉー、よく覚えておったな。そうじゃよそのフィアが作った魔法じゃ。気になるなら奴に聞けば詳しく教えてくれるじゃろ」
「楽しみですね」
白蛇はニコリと笑った。
「まぁ、あのバカをぶっ飛ばしてからじゃがのぅ」
「そうですね、そういえばアテはあるんですか?」
「まぁ、妾に任せておけ」
◇
迷路の様な裏路地を抜けて、二人は大通りに出た。
時間はちょうど昼頃だろうか、太陽は空高くに浮かんでいる。
人では朝見たよりかは少なくなったものの以前人通りは多く、それが人の多さを感じさせている。
鬼姫はその人通りの多い道をすいすいと進んでいく。
風景こそ変わって入るものの道の大枠は完成されており、四百年前と歩くのに困るほど変わってはいないと鬼姫は歩きながら教えてくれた。
鬼姫の昔話に耳を傾けつつ、街を眺めて歩く。
店は現代とさほど変わらないが、唯一違うのは武器屋の数だろう。
種類は様々だが、外からでも銃から剣、槍、斧、変わった物だと魔法の杖と当然のように武器を売り、また武器を買うということが成り立っている。
(こんな光景日本どころか、海外でもなかなかお目にかかれませんね)
魔物と呼ばれる化け物が彷徨うこの世界ならではの光景を、楽しみつつ鬼姫の後を追う。
「付いたぞ、ここじゃ」
言うなれば隠れ家的、もしくはアングラだろうか。
大通りを外れて裏道を進み、人通りすらもほとんど無くなったところ。
営業しているのかわからない、シャッターの降りた店や薄汚れたライトを昼から灯している何を売っているのかすらわからない店などが並んでいる。
その建物は周囲の建物に溶け込み、注視しないと扉があるかすら気づけない。
そんな場所に小さな看板とともに構えられた酒場。
外見はコンクリート製で、少々汚れてはいるものの歴史は感じられない。
無機質な金属製の扉の前に白蛇と鬼姫は立っている。
「開けるぞ?」
「ええ」
白蛇は普段訪れることのない場所のため、緊張が表情に出ている。
「そんなに怯えんでも良い、妾に任せておけ」
そう言って鬼姫は手を高く上げてドアノブを捻り酒場の中に足を踏み入れた。
店内は外と比べると暗く、術式が内部に刻まれたカンテラの様なものが天井から吊るされ、魔力を帯びた光が店内を照らしている。
カウンターの方には数人の客と、その奥ではバーテンダーが酒らしきものを客に振る舞っていた。
カウンターから僅かに離れたところにはいくつか机と椅子が並べられており、そのほとんどが客で埋まっていた。
「前いた世界との違いはそんなに無いんですね」
「酒を飲む場所なんざ、いつの時代も変わらんよ」
迷うこともなく、鬼姫が歩を進める。
周囲の人間は皆、鬼姫達を見ることもなく勝手気ままに話している。
(鬼姫が中に入っても注意されないという事は、この国ではお酒に年齢制限はないのでしょうか? それとも鬼姫の様な見た目と年齢の釣り合っていない人が多いのでしょうか?)
もっと個人に目を向けると、客は皆サーコートと呼ばれる物を着ており、チェーンメイルと呼ばれる鎧が腕の辺りから露出している。
さらに腰には皆同じ西洋剣を携えていた。
(ここにいる客は皆さんおそらく軍人のようですね。ただの溜まり場と思いたいですが……ヴォルペさんが集めたのでしょね。最悪の場合一戦交える事も想定しておきましょう。)
辺りを見回しながら白蛇はそう推測し、鬼姫の後を追う。
カウンターに近づくとバーテンダーの方から鬼姫に話しかけてきた。
「ヴォルペ様から話は聞いております」
白蛇はその言葉を聞いてどうやら戦闘にはならなさそうだと安心し、胸を撫で下ろす。
「さよか」
鬼姫はそれだけ言うと、カウンターの隣にある扉を開けた。
扉の先には石製の階段があった。
その階段は長い間使われているのか、何度も踏まれることで石は削られ、中心は陥没しており、その窪みが長い年月を物語っている。
「一応言っておくが、落ちるんじゃないぞ?」
鬼姫はそう忠告すると、階段を降り出した。
白蛇は、扉を閉じて、鬼姫の後を追う。
◇
階段を降りて、それなりの時間が経つと、ようやく底が見えてきた。
階段の底にあったのは石造の廊下。
廊下には坑木の様な支えと、魔力を消費して輝く灯りが等間隔に設置されている。
魔力を探ると坑木の中には小枝のように細くしかし意味を持った形に魔力が流れている。
どうやら術式が書き込まれているらしいが白蛇にはその内容までは分からなかった。
「なんだか、洞窟とかダンジョンみたいですね」
「古いからのぅ」
「ていうか、どこなんですか? ここ」
白蛇は尋ねる。
「昔っから使っとる、反乱軍本部じゃよ」
「反乱軍ですか?」
「うむ、ガランジウムを巡って始まった内戦の時に作ったんじゃよ」
そういえば鬼姫がガランジウムで戦争が起こったと言っていた。
おそらくはこの事なのだろう。
「でも、なぜここにきたんですか?」
「ヴォルペがここの頭をやっとるからじゃよ」
「ヴォルペさんがですか!?」
「そうじゃ、あやつがゼロから人を集めて勢力を拡大していったんじゃよ、あんな奴じゃがなかなかにキレる奴じゃ」
「鬼姫が褒めるなんて意外ですね」
「それだけ優秀なやつなんじゃよ」
「なるほど」
直線の塹壕の様な廊下を歩いていく。
進んでいくうちに扉が現れ出し、鉱山から古いホテルに迷い込んだ様だった。
何個かの扉を通り過ぎ鬼姫は止まった。
落ち着いた暗い色の木と金色の飾りで作られたもので、シンプルながら高級感にあふれており、他の扉とは明らかに違った。
「入るぞ」
鬼姫はそれだけ言うとノックもせずにドアを開けた。
扉の先には赤いカーペットが敷かれた、テレビドラマなどで見る社長室の様な部屋だった。
右手には天井にまで届くほどの本棚が敷き詰められており、分厚い本が何百冊と並べられている。
反対側には大きな旗と宝剣らしきものが飾られ、高級感が醸し出されている。
部屋の正面には大量の書類が置かれた重厚な木製の机と、背を向けた革製の椅子付が置いてあった。
「よお、遅かったな」
椅子がくるりと半回転する。
その椅子の上では足を組んだヴォルペが右手を軽く上げていた。
「1週間以上かかるとか、随分と衰えとるな」
「言いたいことはそれだけかのぅ?」
鬼姫はそういうとスラリと刀を抜いた。
「どうやったのか知らんが、今度こそ仕留めさせてもらおうかのぅ」
「へぇ、俺を殺そうってか?」
「ああ、そう言ったつもりじゃが?」
「なるほどなぁ」
鋭い金属音が部屋に鳴り響いた。
(二人の挙動が全く見えなかった)
鬼姫大上段に構え、振り下ろしたであろう斬撃を、ヴォルペの分身が逆手に持ったナイフで綺麗に受け止めている。
「なんや、速なっとるんとちゃうか?」
茶化すようにヴォルペは言う。
「全力の五歩手前じゃ」
「俺には手ェ抜いて戦うんか」
椅子に座ったままヴォルペはつぶやいた。
「貴様に深傷を負わすのに、全力を出すまでもない」
「へぇ、俺をシバこうってか」
ヴォルペはニヤリと笑う。
「コレを見てもおんなじこと言えるんか?」
机の上に伏せてあった紙をめくり、鬼姫の方へと見せる。
(写真でしょうか? 恐らく、鬼姫とヴォルペさんの戦いを切り取ったものでしょう。でも何故?)
「今日撮った写真や」
「隠し撮りかのぅ」
「そう言うわけやな、お前なら付き合いも長いしわかるんちゃうか?」
「さぁ、どうかのぅ?」
「白蛇くんもおるし、しっかり説明したるわ。よう聞けや」
ヴォルペが指を鳴らすと、新たに分身が現れ机の上の紙の束を持ち上げる。
「白蛇君、コレが何かわかるか?」
椅子に座りながらそう言って、分身が紙を差し出した。
差し出された紙には沢山の数字と鬼姫の似顔絵、それに特徴が赤い字で箇条書きに記されている。
「鬼姫の手配書……ですか?」
「0がいっぱいやろ? どれぐらいの値段がついとるかわかるか?」
ヴォルペの分身はそう話しながら白蛇にゆらりと近づき、絡み付くように肩を組む。
「いえ」
「この世界で上位十人も金持ちに食い込める額や、わかるか、この金額の魔力が。小国ならこの金だけで乗っ取れる金額や、それをほっとく人間なんかおらんやろ?」
ニヤニヤとヴォルペは座りながら笑う。
「貴様、何が言いたいんじゃ? 阿呆の話は長くて困る。要点をまとめんか」
鬼姫のおでこには青筋が浮き出ている。
「まぁまぁ、落ち着けや。何事も冷静は大事やで? カルシウムたりてないんとちゃうか?」
鬼姫の斬撃を止めた、ヴォルペの分身はそう尋ねると鬼姫の顔を覗き込もうと屈む。
そのニヤけ顔はきらめく赤い刃によって煙へと変わった。
「ひょー、室内で刀振るなよな……まぁええわ。そんなけの懸賞金抱えて旅する気か? いくら”国落とし”の異名を持つお前でも、白蛇君抱えて全世界の人間を敵には回せんやろ? どうする気や? 何かいい案があるんか? どうせ計画も無しに旅する気やったんちゃうか? 自分の強さに甘えてな。でも現実を見てみろ。無理や」
ヴォルペは当然のように言い切った。
「言いたいのはそれだけかの?」
「んなわけないやろ、ほなこの写真何のために撮ってん。」
ヴォルペは写真を2本の指で写真を摘みピラピラと振る。
「まぁ、簡単に言うと今からやるのは脅しや。うちのフィーレメントでは鬼姫にも、もちろん白蛇君にも懸賞金はかかってない。だが、この国の実権を俺が握っとるんや。まぁ、俺も800年遊んでたわけじゃないからな。」
「つまり、どういうことですか?」
白蛇が尋ねた。
「まぁ、簡単に言うと戦争に参加してくれ。出なければうちの国でもお前らに懸賞金をかける。この写真を使ってな」
「えーと、話が読めないんですが……戦争?」
また白蛇は尋ねる。
「あー、そっからか。今うちの国、正確には『東フィーレメント』では『西フィーレメント帝国』とのガランジウムをかけた戦争をしてるんや。それにおまえらは参加してもらう。鬼姫が居れば勝利は確実。そうすれば晴れてガランジウムはうちら『東フィーレメント』のもんになる。」
どうやら鬼姫の言っていた戦争はまだ終わっていないらしい。
そして鬼姫がいればその戦争の勝利は確実、もし参加しないのであればフィーレメントにも命を狙われて、仮に逃げ延びたとしても世界中みんな敵という恐ろしい状況らしい。
(国落とし……ホント鬼姫は何をしたんでしょうか)
「もし、妾らが断ればどうするつもりじゃ? この国の全戦力を使っても勝てるとは思えんがのぅ?」
「ほな、白蛇君を殺す。いくらお前相手でもそれぐらいは出来るわ」
ヴォルペが言う。
「良いのか? そんな事をして?」
今までにない圧力。
白蛇にかけられていないと分かっていながらも、それでもなお悪魔に心臓を握られているかのような不快感を感じる。
そんな空気の中でもヴォルペは全く動じていない。
「べつに、なくなればどのみち一緒や。せやろ?」
ヴォルペは吐き捨てるようにそれだけ言った。
「ふむ……」
鬼姫は腕を組み数秒悩むと、刀に手をかけた。
「やめとけよ、お前の方が強いのは確かやが、ここから無傷で逃げるぐらいの事は出来るぞ? よく考えてみろ? 俺がこれぐらいの事想定してないと思うか?」
(なるほどさっき酒場にいた兵隊はヴォルペさんが逃げる時の時間稼ぎ要員ってわけですか)
「……よかろう」
鬼姫が蚊の鳴くような声で言う。
「聞こえんなぁ!? ええ?」
ヴォルペの真剣な顔がパッと明るくなり、ニヤニヤと意地悪な顔を浮かべた。
「ええい! 妾の負けじゃ! その戦争に参加してやる!! そう言ったんじゃ!! そのかわり生活、それに白蛇の身の安全は保証してもらうぞ!」
「ええで、交渉成立や」
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「天才の作った魔法じゃからのぅ」
「天才って……えーと」
白蛇は過去に聞いたことのある単語を記憶から呼び起こす。
「フィアさん……でしたっけ? あの大きな壁の抜け道を作った人ですよね?」
「ほぉー、よく覚えておったな。そうじゃよそのフィアが作った魔法じゃ。気になるなら奴に聞けば詳しく教えてくれるじゃろ」
「楽しみですね」
白蛇はニコリと笑った。
「まぁ、あのバカをぶっ飛ばしてからじゃがのぅ」
「そうですね、そういえばアテはあるんですか?」
「まぁ、妾に任せておけ」
◇
迷路の様な裏路地を抜けて、二人は大通りに出た。
時間はちょうど昼頃だろうか、太陽は空高くに浮かんでいる。
人では朝見たよりかは少なくなったものの以前人通りは多く、それが人の多さを感じさせている。
鬼姫はその人通りの多い道をすいすいと進んでいく。
風景こそ変わって入るものの道の大枠は完成されており、四百年前と歩くのに困るほど変わってはいないと鬼姫は歩きながら教えてくれた。
鬼姫の昔話に耳を傾けつつ、街を眺めて歩く。
店は現代とさほど変わらないが、唯一違うのは武器屋の数だろう。
種類は様々だが、外からでも銃から剣、槍、斧、変わった物だと魔法の杖と当然のように武器を売り、また武器を買うということが成り立っている。
(こんな光景日本どころか、海外でもなかなかお目にかかれませんね)
魔物と呼ばれる化け物が彷徨うこの世界ならではの光景を、楽しみつつ鬼姫の後を追う。
「付いたぞ、ここじゃ」
言うなれば隠れ家的、もしくはアングラだろうか。
大通りを外れて裏道を進み、人通りすらもほとんど無くなったところ。
営業しているのかわからない、シャッターの降りた店や薄汚れたライトを昼から灯している何を売っているのかすらわからない店などが並んでいる。
その建物は周囲の建物に溶け込み、注視しないと扉があるかすら気づけない。
そんな場所に小さな看板とともに構えられた酒場。
外見はコンクリート製で、少々汚れてはいるものの歴史は感じられない。
無機質な金属製の扉の前に白蛇と鬼姫は立っている。
「開けるぞ?」
「ええ」
白蛇は普段訪れることのない場所のため、緊張が表情に出ている。
「そんなに怯えんでも良い、妾に任せておけ」
そう言って鬼姫は手を高く上げてドアノブを捻り酒場の中に足を踏み入れた。
店内は外と比べると暗く、術式が内部に刻まれたカンテラの様なものが天井から吊るされ、魔力を帯びた光が店内を照らしている。
カウンターの方には数人の客と、その奥ではバーテンダーが酒らしきものを客に振る舞っていた。
カウンターから僅かに離れたところにはいくつか机と椅子が並べられており、そのほとんどが客で埋まっていた。
「前いた世界との違いはそんなに無いんですね」
「酒を飲む場所なんざ、いつの時代も変わらんよ」
迷うこともなく、鬼姫が歩を進める。
周囲の人間は皆、鬼姫達を見ることもなく勝手気ままに話している。
(鬼姫が中に入っても注意されないという事は、この国ではお酒に年齢制限はないのでしょうか? それとも鬼姫の様な見た目と年齢の釣り合っていない人が多いのでしょうか?)
もっと個人に目を向けると、客は皆サーコートと呼ばれる物を着ており、チェーンメイルと呼ばれる鎧が腕の辺りから露出している。
さらに腰には皆同じ西洋剣を携えていた。
(ここにいる客は皆さんおそらく軍人のようですね。ただの溜まり場と思いたいですが……ヴォルペさんが集めたのでしょね。最悪の場合一戦交える事も想定しておきましょう。)
辺りを見回しながら白蛇はそう推測し、鬼姫の後を追う。
カウンターに近づくとバーテンダーの方から鬼姫に話しかけてきた。
「ヴォルペ様から話は聞いております」
白蛇はその言葉を聞いてどうやら戦闘にはならなさそうだと安心し、胸を撫で下ろす。
「さよか」
鬼姫はそれだけ言うと、カウンターの隣にある扉を開けた。
扉の先には石製の階段があった。
その階段は長い間使われているのか、何度も踏まれることで石は削られ、中心は陥没しており、その窪みが長い年月を物語っている。
「一応言っておくが、落ちるんじゃないぞ?」
鬼姫はそう忠告すると、階段を降り出した。
白蛇は、扉を閉じて、鬼姫の後を追う。
◇
階段を降りて、それなりの時間が経つと、ようやく底が見えてきた。
階段の底にあったのは石造の廊下。
廊下には坑木の様な支えと、魔力を消費して輝く灯りが等間隔に設置されている。
魔力を探ると坑木の中には小枝のように細くしかし意味を持った形に魔力が流れている。
どうやら術式が書き込まれているらしいが白蛇にはその内容までは分からなかった。
「なんだか、洞窟とかダンジョンみたいですね」
「古いからのぅ」
「ていうか、どこなんですか? ここ」
白蛇は尋ねる。
「昔っから使っとる、反乱軍本部じゃよ」
「反乱軍ですか?」
「うむ、ガランジウムを巡って始まった内戦の時に作ったんじゃよ」
そういえば鬼姫がガランジウムで戦争が起こったと言っていた。
おそらくはこの事なのだろう。
「でも、なぜここにきたんですか?」
「ヴォルペがここの頭をやっとるからじゃよ」
「ヴォルペさんがですか!?」
「そうじゃ、あやつがゼロから人を集めて勢力を拡大していったんじゃよ、あんな奴じゃがなかなかにキレる奴じゃ」
「鬼姫が褒めるなんて意外ですね」
「それだけ優秀なやつなんじゃよ」
「なるほど」
直線の塹壕の様な廊下を歩いていく。
進んでいくうちに扉が現れ出し、鉱山から古いホテルに迷い込んだ様だった。
何個かの扉を通り過ぎ鬼姫は止まった。
落ち着いた暗い色の木と金色の飾りで作られたもので、シンプルながら高級感にあふれており、他の扉とは明らかに違った。
「入るぞ」
鬼姫はそれだけ言うとノックもせずにドアを開けた。
扉の先には赤いカーペットが敷かれた、テレビドラマなどで見る社長室の様な部屋だった。
右手には天井にまで届くほどの本棚が敷き詰められており、分厚い本が何百冊と並べられている。
反対側には大きな旗と宝剣らしきものが飾られ、高級感が醸し出されている。
部屋の正面には大量の書類が置かれた重厚な木製の机と、背を向けた革製の椅子付が置いてあった。
「よお、遅かったな」
椅子がくるりと半回転する。
その椅子の上では足を組んだヴォルペが右手を軽く上げていた。
「1週間以上かかるとか、随分と衰えとるな」
「言いたいことはそれだけかのぅ?」
鬼姫はそういうとスラリと刀を抜いた。
「どうやったのか知らんが、今度こそ仕留めさせてもらおうかのぅ」
「へぇ、俺を殺そうってか?」
「ああ、そう言ったつもりじゃが?」
「なるほどなぁ」
鋭い金属音が部屋に鳴り響いた。
(二人の挙動が全く見えなかった)
鬼姫大上段に構え、振り下ろしたであろう斬撃を、ヴォルペの分身が逆手に持ったナイフで綺麗に受け止めている。
「なんや、速なっとるんとちゃうか?」
茶化すようにヴォルペは言う。
「全力の五歩手前じゃ」
「俺には手ェ抜いて戦うんか」
椅子に座ったままヴォルペはつぶやいた。
「貴様に深傷を負わすのに、全力を出すまでもない」
「へぇ、俺をシバこうってか」
ヴォルペはニヤリと笑う。
「コレを見てもおんなじこと言えるんか?」
机の上に伏せてあった紙をめくり、鬼姫の方へと見せる。
(写真でしょうか? 恐らく、鬼姫とヴォルペさんの戦いを切り取ったものでしょう。でも何故?)
「今日撮った写真や」
「隠し撮りかのぅ」
「そう言うわけやな、お前なら付き合いも長いしわかるんちゃうか?」
「さぁ、どうかのぅ?」
「白蛇くんもおるし、しっかり説明したるわ。よう聞けや」
ヴォルペが指を鳴らすと、新たに分身が現れ机の上の紙の束を持ち上げる。
「白蛇君、コレが何かわかるか?」
椅子に座りながらそう言って、分身が紙を差し出した。
差し出された紙には沢山の数字と鬼姫の似顔絵、それに特徴が赤い字で箇条書きに記されている。
「鬼姫の手配書……ですか?」
「0がいっぱいやろ? どれぐらいの値段がついとるかわかるか?」
ヴォルペの分身はそう話しながら白蛇にゆらりと近づき、絡み付くように肩を組む。
「いえ」
「この世界で上位十人も金持ちに食い込める額や、わかるか、この金額の魔力が。小国ならこの金だけで乗っ取れる金額や、それをほっとく人間なんかおらんやろ?」
ニヤニヤとヴォルペは座りながら笑う。
「貴様、何が言いたいんじゃ? 阿呆の話は長くて困る。要点をまとめんか」
鬼姫のおでこには青筋が浮き出ている。
「まぁまぁ、落ち着けや。何事も冷静は大事やで? カルシウムたりてないんとちゃうか?」
鬼姫の斬撃を止めた、ヴォルペの分身はそう尋ねると鬼姫の顔を覗き込もうと屈む。
そのニヤけ顔はきらめく赤い刃によって煙へと変わった。
「ひょー、室内で刀振るなよな……まぁええわ。そんなけの懸賞金抱えて旅する気か? いくら”国落とし”の異名を持つお前でも、白蛇君抱えて全世界の人間を敵には回せんやろ? どうする気や? 何かいい案があるんか? どうせ計画も無しに旅する気やったんちゃうか? 自分の強さに甘えてな。でも現実を見てみろ。無理や」
ヴォルペは当然のように言い切った。
「言いたいのはそれだけかの?」
「んなわけないやろ、ほなこの写真何のために撮ってん。」
ヴォルペは写真を2本の指で写真を摘みピラピラと振る。
「まぁ、簡単に言うと今からやるのは脅しや。うちのフィーレメントでは鬼姫にも、もちろん白蛇君にも懸賞金はかかってない。だが、この国の実権を俺が握っとるんや。まぁ、俺も800年遊んでたわけじゃないからな。」
「つまり、どういうことですか?」
白蛇が尋ねた。
「まぁ、簡単に言うと戦争に参加してくれ。出なければうちの国でもお前らに懸賞金をかける。この写真を使ってな」
「えーと、話が読めないんですが……戦争?」
また白蛇は尋ねる。
「あー、そっからか。今うちの国、正確には『東フィーレメント』では『西フィーレメント帝国』とのガランジウムをかけた戦争をしてるんや。それにおまえらは参加してもらう。鬼姫が居れば勝利は確実。そうすれば晴れてガランジウムはうちら『東フィーレメント』のもんになる。」
どうやら鬼姫の言っていた戦争はまだ終わっていないらしい。
そして鬼姫がいればその戦争の勝利は確実、もし参加しないのであればフィーレメントにも命を狙われて、仮に逃げ延びたとしても世界中みんな敵という恐ろしい状況らしい。
(国落とし……ホント鬼姫は何をしたんでしょうか)
「もし、妾らが断ればどうするつもりじゃ? この国の全戦力を使っても勝てるとは思えんがのぅ?」
「ほな、白蛇君を殺す。いくらお前相手でもそれぐらいは出来るわ」
ヴォルペが言う。
「良いのか? そんな事をして?」
今までにない圧力。
白蛇にかけられていないと分かっていながらも、それでもなお悪魔に心臓を握られているかのような不快感を感じる。
そんな空気の中でもヴォルペは全く動じていない。
「べつに、なくなればどのみち一緒や。せやろ?」
ヴォルペは吐き捨てるようにそれだけ言った。
「ふむ……」
鬼姫は腕を組み数秒悩むと、刀に手をかけた。
「やめとけよ、お前の方が強いのは確かやが、ここから無傷で逃げるぐらいの事は出来るぞ? よく考えてみろ? 俺がこれぐらいの事想定してないと思うか?」
(なるほどさっき酒場にいた兵隊はヴォルペさんが逃げる時の時間稼ぎ要員ってわけですか)
「……よかろう」
鬼姫が蚊の鳴くような声で言う。
「聞こえんなぁ!? ええ?」
ヴォルペの真剣な顔がパッと明るくなり、ニヤニヤと意地悪な顔を浮かべた。
「ええい! 妾の負けじゃ! その戦争に参加してやる!! そう言ったんじゃ!! そのかわり生活、それに白蛇の身の安全は保証してもらうぞ!」
「ええで、交渉成立や」
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一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。
魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、
水一滴すら買えない。
ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。
そんな中、盾だけが違った。
傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。
両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。
盾で殴り
盾で守り
腹が減れば・・・盾で焼く。
フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。
ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。
――そんなある日。
聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。
盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。
【AIの使用について】
本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。
主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。
ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。
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