異世界日帰りごはん 料理で王国の胃袋を掴みます!

ちっき

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連載

到着!インゴール侯爵領!

「殿下、もうすぐ侯爵領に到着します。」
 ゴンドラの外で御者のように見ていた騎士が報告すると、エンハルトは窓から景色を見る。

「やはりドラゴンは早いな。」
 ぽつりと呟くエンハルト、それを横で聞いていた千春は御者の騎士へ声を掛ける。

「そこ怖くないです?」
 新しく作られたドラゴン用ゴンドラには、ベランダの様に突き出た場所がある、そこで騎士は見張りをしていた、そして下を覗き込むと遥か下には壮大な森が見えた。

「ええ、いつもドラゴンに乗って飛んでますので。」
「そっかぁ・・・いやいや、これ慣れるの?落ちたらどうするの?」
「落ちても大丈夫ですよ。」
「いや!大丈夫じゃないよね!?」
「大丈夫です、飛行魔道具と同じ魔道具を装備しております、飛ぶ事は難しいですが落下速度は落とせるのです。」
「おお!んじゃ大丈夫・・・かな?」
 そう言われてもう一度下を覗き込むが、千春は窓枠をギュッと握りしめ顔を中に戻す、暫くすると領を囲む大きな外壁が見えて来た、騎士がそれを報告すると、千春はまた窓から顔を出す。

「おおー!おおきー!」
「下に見える街道も広いだろう。」
「うん、王都の街道くらい広いね。」
「多方面から集まる交易路だ、沢山物が入り出て行く。」
「うわ~楽しみだ♪」
 すでに仕事と言う事を忘れている千春は、ウキウキで答える、エンハルトはそれでいいと言わんばかりに頷き微笑んだ、そしてドラゴン達は領都の空を抜け、一際大きな館へ降りて行く。

「これが侯爵さんの家?」
「いや、これは領都庁舎だ、あっちに見える少し大きな館があるだろう?」
「あーあるね。」
 領都庁舎から少し離れた広い敷地に建つ大きな館を見て千春が頷く。

「あれがインゴール侯爵家の館だ。」
「おおー。」
 エンハルトの説明を聞きながら声をあげる千春、ドラゴンはゆっくりと領都庁舎の広場へ降りると、数人の男達が出迎える。

「ようこそインゴール侯爵領へ。」
 壮年の男性がエンハルトに声を掛けて来た、歳は50前くらい、白髪の混じるロマンスグレーの男だ。

「ルビノブ卿、久しぶりだな。」
 エンハルトが声を掛ける、千春はその横で軽く会釈する、ルビノブは千春を見て礼をする。

「ようこそチハル王女殿下、ルビノブ・インゴールと申します、以後お見知りおきを。」
「本日はよろしくお願い致します。」
 ルビノブに挨拶され、千春は軽くスカートをつまみ微笑み返す。

「それではこちらへどうぞ。」
 ルビノブはそう言うと、庁舎へ皆を促す、エンハルトが進むと、千春や侍女、ワークス達執事とエーデル、アリンハンドが続く。

「私が来るの知ってたのかな?」
 小さな声で呟く千春、それをアリンハンドが答える。

「昨夜魔導通信機で連絡を入れてますからね。」
「あ、そっか、魔導通信って魔導師団管轄だっけ。」
「ええ、いつもみたいに急に訪問じゃありませんよ。」
「・・・それ嫌味かな?」
「いえ?そう聞こえます?」
「きーこーえーるー。」
「キノセイデス。」
「ヨリに言いつけてやる・・・」
「なんでそこでヨリさんが出て来るんですか?」
 小さな声で呟くが、耳に入るエンハルトはクスッと笑う、そして応接間に通された一行、エンハルトと千春、サフィーナはソファーに座ると、侍女と執事は配置に着く。

「すぐに戻ります、お寛ぎ下さいませ。」
 ルビノブはそう言うと部屋を出て行った。

「サフィー、なんかみんなピリピリしてない?」
 侍女と、ワークス、エンハルトの執事兼護衛のスチュアとスタンは千春達を囲むように立っている。

「今は様子見ですからね。」
 千春同様、動きやすいドレスを着たサフィーナが答える、今日は侍女ではなく第二婚約者の立場だ。

「まあ大丈夫だろう、皆警戒を解いて良いぞ。」
 エンハルトが答えると、皆は動き始める、クーネスはアイテムボックスを開きティーセットを取り出すとお茶を淹れ始めた。

「クーネス姉さまも使いこなせるようになったね。」
「ここでは姉さまはおやめくださいね。」
「いいじゃん、誰もいないし。」
「今は居ませんが先程まで居ましたよ。」
「・・・え?」
 千春は思わず声を漏らすと、耳元でルプが姿を消したまま呟く。

『侯爵の護衛だろ、アイツが出て行くときに一緒に逃げるように出て行ったぞ。』
「うっそ、見えなかったよ?!」
『隠ぺい魔法だろうな、気配は丸わかりだ、修行が足りないんじゃねえか?』
 クックックと笑うルプにエンハルトが答える。

「ルプ、そう言ってやるな、俺も「いるな」くらいにしか分からなかった、あれだけ気配を消せるなら上等だろ。」
 エンハルトの言葉に千春は首を傾げる。

「領主さんの護衛なんだよね?」
「そうだな。」
「なんで護衛?私たちから護衛するって事?」
「ああ、今は大人しいが、過去の遺恨が残っていれば切り捨てられるのは向こうだからな。」
「えー!?そんなに仲悪いの!?」
「王族とは悪くない方だぞ、王族派と言われる派閥と仲が悪いだけだ。」
「・・・同じじゃん。」
 納得できない千春はジト目でエンハルトを見るが、すまし顔でお茶を飲み始めた。


-------------------------


 コンコンとノックされる扉、ワークスは既に扉の前に立っていた、そして扉を開けるとルビノブが戻って来る、そして後から女性が2人入って来る。

「お待たせしました。」
 ルビノブはエンハルトに声を掛ける、エンハルトは立ち上がり女性達を見る、サフィーナが立ち上がり、千春は手に持ったカップを焦りながらテーブルに置くと立ち上がる。

「妻のセルイヤと、娘のシンクで御座います。」
「セルイヤ・インゴールと申します、エンハルト王子殿下、チハル王女殿下、サフィーナ様。」
 セルイヤはそれぞれにジブラロール貴族のカーテシーで挨拶をする、娘のシンクも続き、一歩前に出ると、カーテシーをしながら頭をさげた。

「シンク・インゴールで御座います、エンハルト王子殿下」
 緊張しているのか、声は少し震えているように聞こえる、そして千春と目が合うと、千春はニコッと微笑む。

「お世話になります♪よろしくね♪」
 ルビノブとは違い、気さくに話しかける千春、その姿に妻セルイヤと娘のシンクは驚いた、だが顔に出さないように微笑み返す、皆はソファーに座ると、エンハルトとルビノブが話始める、千春はそれを聞いていたが、微笑んだまま動きを止める、そして暫くの間、エンハルトとルビノブの話が続き・・・

「それでは今日も合わせ3日ご滞在という事で、館の方へご案内致します。」
 ルビノブはそう言うと立ち上がる。

「チハル、行くわよ。」
「・・・はっ!?」
 サフィーナの声で千春が目を開ける。

「チハル王女殿下、申し訳ありません、お疲れの中長々とお話をしてしまいまして。」
 ルビノブが言うと、千春はブンブンと首を横に振る。

「いえ!そんな事は無いです!」
 千春が言うと、セルイヤとシンクも微笑む。

「長旅で御座いましたので、お疲れだったのでしょう、お部屋も準備しておりますので。」
 セルイヤは優しく微笑み千春へ言うと立ち上がる。

「・・・やっちゃった。」
 ボソッと呟く千春にエンハルトは微笑む。

「さぁ、行こう。」
「はーい。」
 エンハルトの手を取り立ち上がる千春、サフィーナも微笑み千春の横を歩く。

「気にしなくて良いわよ。」
「えー気にするよぉ、頑張ってたんだけどなぁ。」
 千春は気まずさを抱えつつも、胸の奥では明日の視察や畜産料理への期待がふくらんでいた。
 失敗の余韻を引きずりながらも、頬には自然と笑みが戻り、歩みはどこか軽やかだった。
 


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