悪役令嬢になりましたので、自分好みのイケメン近衛騎士団を作ることにしました

葉月キツネ

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教団と大精霊

第353話-実験の跡-

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 ヤンに剣士を任せて俺たちは建物に向かって進んでいる。道中恐ろしいほどに何もなく、逆にそれが怪しく思えるほどだった。
 程なくして目的地の前に辿り着いた。まず人の気配がない。息を潜めているかも知れないが、それは外からでは分からない。
 二階建ての建物に奥行きのある間取りが外観でもわかる。

「俺が行く」

 いくら大精霊とは行っても先に行かせる気にはならなかった。自分でドアをゆっくり開ける。
 ドアの向こうは物が散乱している広間があった。二階への階段もすぐ近くにあった。
 一歩ずつ恐る恐る足を踏み入れる。何もないのは見て分かるが緊張感は解けなかった。得体の知れない不気味さが五感を刺激している。
 机の上と床に散乱している書類。漁るとどれだけの時間がかかるか考えたくもない。

「慌てて出て行ったって感じか」
「かもね。まんまとやられたね」

 さっきのやつの合図を見て逃げられたと見るのが当然だろう。ここに来るまでの時間はそうかからなかった。それでも逃げられたと言うことは何かしらのマニュアルのような物があったのかも知れない。

「ここのやつら地下とか好きだからな。どっかに隠し階段でもありそうなんだがな」

 数年前のことを思い出す。あれはガルド公の城だったが、魔法教団の信者といざこざがあったのも地下だったからこその思い込みかも知れない。

「悪の組織の定番ってやつだね」
「人間の定番ってのが分かるのか?」
「多少はね」

 軽口を叩いてないと俺が緊張に負けそうだった。正直ここに来て一人じゃなくてよかったと思ってしまう。安心感が違う。

「動かないで」

 言われるまでもなく俺は止まっていた。いや正確には動けなくなっていた。
 ふと感じた建物の奥からの嫌な空気、それを探るために集中したくて足が自然と止まっている。
 息遣いだけがかすかに聞こえる。決してここから建物の奥は見にくくはない。それでも見えないってことは多分影にいる。どこかの部屋の一室か。
 むしろその距離でかすかにでも息遣いが聞こえるってことがおかしい。明らかに異常だ。

「いるな」
「いるね。何か」

 人には到底思えない。ただ何かがそこにいると言うのだけは分かった。
 だがその姿はすぐに明らかになった。はっきりと足音がした。ゆっくりと俺たちの前に姿を現したのは黒い獣人だ。
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