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第六話 「あるじさま」のお名前。
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しおりを挟む昼を過ぎて、タキ家にタナカ屋、イサカ屋など、馴染みのある面々が線香をあげにやってきた。その中には仕事の合間を縫ってきた、セイタロウの姿もあった。
訪ねてくるのはそれくらいで、使用人たちはすぐに手が空いてしまった。少し早いが、客間を片してもらうと、それぞれ好きに時間を使うようショウスケは言って回った。
次の奉公先によっては、今夜にも発たねばならない者もいる。そういった支度などに、ゆっくり時間を使ってもらうためだ。
そうして彼らは、店との別れを惜しんで過ごした。
※ ※ ※
……夕刻、見知らぬ男が店を訪れた。
洋装姿が板についた四十絡みの男だ。
短髪をぴっちり撫で付け、シャツの襟首にはきつくタイが締められている。丸眼鏡が幾分か温かみのある雰囲気を醸し出しているが、生真面目そうな男だ。
「突然すいませんねぇ。お邪魔しまぁす」
細身の男は、見た目の印象を裏切り、えらく砕けた調子で敷居をまたいだ。
「ワタクシ、隣町から来ているゴンゲン堂の者です。お線香、あげさせてもらってもいいですか?」
途端に、店の内がひりついた。
当然だ。定めとは言え、コトノハ堂にしてみたら仕事を奪われた、謂わば敵だ。
剣呑な空気を漂わす使用人たちの間を割って、ショウスケは男を招き入れた。
「それはありがとうございます。どうぞ、こちらへ」
ちらりとキョウコに目配せする。足の調子はいいようだ。……少しばかり熱がありそうな目をしていたが、そこはまぁお互い様なところもあるので、心配ないはずだ。
ショウスケの意を汲んだ少女は、茶を淹れに厨の方へ消えた。
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