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第九話 死が二人を別つまで。

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 落ち着いてから話を聞くと、どうやらショウスケは丸二日目を覚まさなかったという。その間に何度も危険な状態に陥り、今夜がいよいよ峠……と聞いて身近な者から続々と駆け付けた次第だ。

「なぁんだ。若い奥さんもらう気満々の元気があるなら大丈夫だね!」

 ハルにまでそんなことを言われて、情けないったらなかった。
 お通夜状態の空気を各自その辺に放り投げて、コイミズとセイタロウを残し、あとの面々は安心して帰っていった。
 上掛けの下でさめざめ泣くショウスケに構わず、コイミズは話し始めた。

 まず、ショウスケを刺したのが行方不明になっていたゴンゲン堂のヨウであったこと。今度こそ、身柄を取り押さえ、「檻」の内にあること。行く行くは、「場」にて刑に処されるであろうことを、淡々と述べた。
 次に、そのヨウの蛮行を防げなかった責をコイミズ自身が負って、傷が癒えるまでの治療費や生活のかかりを工面すると提案した。何か、彼だけが抱えた秘密があるのか、遠慮しても頑として譲らなかった。
 最後に、キョウコが隣にいるわけを教えてくれた。
 どういうわけかは彼も知るところではないが、ゴボウジの僧が倒れた少女をおぶってショウスケを探していたのだという。ショウスケと違って、何が原因で倒れたのかわからぬ少女ではあったが、僧の「そばに置いてやれ」という一言を捨て置けず、共に寝かせていたとのことだ。

「死で以ってしか離れられない運命さだめなら、死ぬる時までそばにおればよかろう」

 そう呆れたように告げて、僧は去ったという。

「坊さんのくせに、異教の教えのようなことを言うわよね」

 ある異国の教えには、夫婦が今生で別れることを戒めて、婚姻を結ぶ場で「死が二人を別つまで……」と誓う文言があるとコイミズは説く。

「ま、今となっては……お似合いの言葉かもしれないわね」

 なにせ、一緒に死の淵から帰ってきて、大勢の前で夫婦めおとになる誓いを立てたのだから。それをつつかれると、ショウスケはもう蓑虫のようになって布団から出てこられない。
 そこへセイタロウが、鼻水を啜りながら口を挟んだ。

「所長殿。それはちょっとばかり、二人を侮りすぎかと!」

 さすがは親友、助け舟を出してくれるらしい。希望を浮かべた顔を覗かせるショウスケに目配せして、セイタロウは高らかに告げる。

「この二人はそんな誓いに収まるものではないと思います! 依依恋恋、比翼連理……死んでも離れやしないでしょう!」

 敬礼までして宣言することか。引っ叩いてやりたかったが、傷が酷くて起き上がれそうもない。いずれにせよ、しばらく蓑虫でいるしかないようだ。

 そんな主人あるじの顔を、特等席で眺められる幸せをキョウコは黙って噛み締めた。










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