神庭の番人 ~陰キャなオレには、スローライフなんてむいてない~

夜乃すてら

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陰キャなオレには、スローライフなんてむいてない

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 カーテンの隙間から差し込む明かりがまぶしくて、暁は目を覚ました。
 ふかふかとやわらかいベッドでぐっすり眠ったおかげで、疲れがとれてすっきりしている。

「ふわあ、よく寝たぜ。あ、エジ、おはよ……」

 ハンモックのほうに声をかけようとして、暁は凍りついた。
 寝室の扉前で、白髪の少女がシャツを脱いで、半裸になっていたのだ。

「わーっ、すみませんでしたーっ」

 土下座して謝ったところで、この家には女性がいないことを暁は急に思い出した。

「はい? どうしました、大神官様」

 着替えを手にしたエジが振り返る。
 どうして女性と間違えたのだろうか。エジの上半身は細マッチョと呼べるほどで、鍛えられているそれだった。ちょっとごつい。

「え……? エジさん?」

 思わずさん付けしてしまうと、エジは不思議そうに問う。

「どうしたんですか、寝ぼけてます?」
「なんかすっごいムキムキじゃねえ?」
「村長に比べればひょろいですが」
「何をーっ。ひょろい俺のことを馬鹿にしてんのかーっ」

 思わず言い返した暁は、似たような体格なのに、なぜか暁にはエジの服が大きい理由が分かった。あの筋肉の差である。

「お前は少年漫画の主人公か!」
「はあ……」

 訳が分からんという顔で、エジは後ろ頭をかく。

「朝から何を騒いでいる」

 器用に扉を開けて、フォレスが顔を出した。

「だってよぉ、フォレス。エジがムキムキだから……」
「おお、はがねのような体だな。それで?」
「びっくりしたんだって!」
「エルフは森の民で、見た目で油断すると死ぬと話しただろうが」
「そ……れもそうなのか?」

 この美しい顔で、肉体は戦士だなんて、暁には納得がいかないが、事実そうなのだからのみこむしかない。

「馬鹿のことは置いておけ、エジよ。それより、何か果物でもないのか?」
「フォレスって神様だから何も食べないのかと思ってたよ」
「おやつ程度につまむことはある」

 鳥の姿をしているだけあって、木の実が好きなんだろうか。

「おいしいりんごがありますよ、神様。大神官様、昨日の服が乾いていますから、そちらに着替えたら隣の部屋に来てくださいね。朝食をお出しします。その後、お話がありますので」
「話? 分かった」

 まさか宿泊費を請求されはしないだろうかと不安になったが、暁はまずは着替えることにした。



 豆のスープとパンに、カットされたリンゴという簡単な食卓を囲み、暁は舌つづみを打つ。

(ごはんが恋しいぜ……)

 エジの料理はおいしいが、和食が食べたい。似たような食べ物が、こちらの世界にはないのだろうか。
 考え事をしていると、エジが改まった口調で切り出した。

「神様、大神官様、お願いがございます」
「ん? お願い?」
「なんだ、叶えられる範囲で聞いてやろう。申してみよ」

 暁の隣で、りんごをついばんでいたフォレスがキリッとした口調で言う。顔にりんごの切れ端がついているから、格好つけたのが台無しだ。

「僕を護衛にしてくれませんか!」
「護衛?」

 なじみのない単語なので、暁は意味を理解するのが遅れた。

「神庭があの様子では、いずれこの村にも影響が出るでしょう。もちろん、それだけではありません。微力ながら、森の神様をお助けしたいのです!」

 エジは熱く語り、暁は感心する。

「おお、さすが、信仰心強い村の出身」
「構わんぞ」

 フォレスはあっさりと許可した。

「アカツキは軟弱すぎて頼りにならん。この下僕げぼくを助けてやれ」
「下僕って呼ぶな!」

 失礼なふくろうだと、暁は眉を吊り上げる。

「大神官様はいかがですか?」
「あー、構わないけど、条件がある。その敬語と大神官呼びをやめてくれ。友達として助けるんだったらいいぜ」
「友達ですか……?」

 どうしてそこで不安そうな態度になるのか。暁にはエジの態度が謎である。

「僕、友達はつっくんしかいないので、よく分からないんですよね」
「よっしゃ、ぼっち仲間ゲット!」

 エジとは仲良くやれそうだ。大学で友達がいなかった反動で、暁は仲間意識と親近感を同時に抱いた。

「つっくんと話すような感じで頼むよ。そんなふうにいちいち持ち上げられると、疲れるんだよな」
「そうだったんですか? すみません」
「んー?」
「……そうなんだね、ごめん」

 エジはやや困った顔をしたものの、言い直した。暁は親指を立てる。

「オーケー、そんな感じで頼むぜ。今日のスープもうまいなあ」
「お二人は食べていてください。そうと決まれば、村長にも衛士の仕事を休む許可をもらってきますので!」

 善は急げと、エジは家を出て行った。

「食べてから行けばいいのにな」
「うむ」



「神庭が……おいたわしい……」

 フォレスの神庭に入るなり、死んだ森を眺めてエジは眉をひそめた。
 村長からはつつがなく許可をもらい、エジは昨日会った時と同じ装備に身を包んでいる。違うのは、キャンプ用のリュックが増えたところだ。暁なら動けなくなりそうな大きな荷物を、エジはゆうゆうと担いでいる。
 フォレスの言う通り、エルフは見た目詐欺さぎだ。

「アカツキは浄化の力を使うのは上手い。〈株玉〉を掘り出せさえすれば、すぐに森は再生するだろう」

 エジをなぐさめるように、暁の肩に乗っているフォレスが言う。

「魔法のアイテムがもらえるといいなあ」

 暁は期待を込めてつぶやいてから、傍らを歩くエジを見る。

「しかしまさか、エジが村一番の弓の使い手とはね」

 フォレスの護衛と聞いて、村長は見送る時もうらやましがっていたが、エジがついているならば安心だと言っていた。狩猟の腕も村一番だそうだ。

「僕は影が薄いから、狙っていても気づかれないんですよ」
「うん、お前だけは敵に回さないようにしよう」

 気配に敏感な野生動物すら認識できないエジって、ある意味、最強なのでは? 田舎暮らしで野生動物の相手をするのがどれだけ大変か知っているだけに、エジのすごさが暁には分かる。
 フォレスに誘導されるまま、枯れた森の中を進み、洞窟に戻ってきた。
 中に入ると、フォレスが声を上げた。

「おお、〈創造の箱〉が満ちておる。アイテムを作れるぞ」
「よっしゃ! 穴を掘るのが楽になるやつでよろしく!」
「当たり前だ」

 エジがひかえめに口を出す。

「あの~、〈創造の箱〉というのは?」

 エジには暁が簡単に説明した。
 フォレスは羽ばたき、光が貯まっている筒に足先でタッチした。すると光とともに本が現れ、バサッと床に落ちる。

「これがアイテムを選ぶためのカタログだ。最初のつつ一個分のアイテムが、魔法のスコップだよ」
「魔法のアイテムを選ぶカタログ……? 変なところでリアルだな」

 暁が恐る恐る本を覗きこむと、中は通販カタログみたいに絵と説明と価格が記されている。瓶のマークの隣には数字があり、最初のページのスコップには瓶1と書かれていた。

「ん?」

 暁は違和感に、眉を寄せる。

「えっ、俺、なんでこの文字の意味が分かるんだ!?」

 奇妙な感じの正体は、文字だ。どう見ても見たことがないのに、頭では理解できる気持ち悪さがある。

「召喚した時に、言葉が通じるようにしておいたと言っただろ」
「文字も読めるとは思わねえだろ! あだっ」

 突然、フォレスに頭をゲシッと蹴られ、暁は床に転びそうになった。

「何すんだよ!」
「いくら私が末っ子でも、神だぞ。それくらいの調整はできるに決まっているだろうが! 馬鹿にするでない!」
「ちょっと聞いただけなのに、怒りすぎだろ!」

 なんて短気なふくろうだ。だが、フォレスを見た暁は噴き出しそうになった。白い羽毛をふくらませて、怒っていますというするどい目つきをしているフォレスだが、ふくろうには違いないのでかわいいだけである。

「まったく! とにかく、そのスコップの絵の下にある、交換という部分を押してみろ」
「はいはい。えーと、これか?」

 交換という文字を押すと、光の筒がついた扉部分がまばゆく光った。

「うわっ」

 そして光が消えると、扉の前にはスコップが現れ、筒に貯まっていた光の粒は少しを残して消えていた。残っているのは、交換で余った分のエネルギーだろうか。
 それから暁はスコップを拾い上げる。農作業でよく見るタイプの金属製スコップだが、なんと金製で、柄は薔薇が巻き付く装飾がついていた。

「うわあ、金色のスコップ……。だっさ。いだーっ」
「お前はいちいち不敬だな!」

 またもやフォレスに頭を蹴られた。

「よいか! 私は森の恵みをつかさどるありがたい神なのだぞ! そ、そりゃあ、姉上である地の女神のほうが人気はあるが……」

 フォレスの声が急に尻すぼみになった。

「我々森の民にとって、フォレス様こそ至高の存在であられます」

 エジがうやうやしく言ったので、フォレスは自信を復活させた。

「そうであろう!」

 ちょろい奴だなと、暁はじと目で見やる。

「私は森の神だからな、大地への恵みにかかわるような魔法のアイテムをそれで作ることができる」
「他のページが開かないぞ」

「少しずつ回収したエネルギーでレベルアップして、開くようになっている。こればかりにはエネルギーを回せぬから、あとはひとまず置いておけ。次は結界の強化と住まいのランクアップが必要だ」
「それもそうだな」

 魔物に襲われるのは嫌だし、疲れるたびにエジの家に世話になっていてはしかたがない。できればあの陽キャ系村長に近づきたくないので、自分でできることはなんでもしておきたい。

「それがあれば、今日だけで〈株玉〉を三個は回収できるだろう。荷物を置いたら、さっそく行くぞ」

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